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2.
「柳くんがデビューするらしいよ」
「ソロデビュー?」
「いや、グループだって聞いたけど」
研修生たちのあいだで、そんな噂話が持ち上がったのは、元気が十九のときだった。そのころの元気は、他の研修生と一緒に期間限定グループを組んだり、先輩たちのバックで踊ったり、着実にデビューに向けて経験を積んでいるところだった。その横には常に大河がいて、二人はファンから、シンメトリーを略して「シンメ」と呼ばれていた。
元気たちが入所してから四年の間に四組の研修生がデビューを決めたが、人気がしらの美月にはこれまでデビューの兆しが見えなかった。なぜかとたずねると、裏方で食べていくのとどちらのほうが稼げるか検討しているからとのことだった。そのために研修生を育てる手伝いもしているのだと。
他人に興味が薄い美月には珍しく、元気のことは気に入ってくれているようで、元気は大河とともに、美月に自主練を見てもらうことが多かった。その日も自主練に付き合ってもらう約束をしていたので、レッスン場でさっそく元気は尋ねた。
「美月ってデビューすんの?」
大河に背中を押してもらい、体前屈をしながら、背後に立つ美月を見上げる。すると、「もっと聞きかたってもんがあるだろ」と大河に頭を叩かれた。
「ってー! なんだよ聞きかたってー」
「もしデビュー決まってなかったらどうすんだよ」
耳元に手を当ててこそこそと諭される。
「てか、ちょっとこしょばいんだけど! ふっ、まじでやめろってば!」
くすぐったさに身をよじったが、悪ノリした大河が体重をかけてきて逃れられない。
「ほんと無理! 俺くすぐったいの苦手なんだって知ってんだろ!」
暴れながらヒーヒー笑っていると、大河の頭を殴った美月が、目の前にしゃがみ込んだ。
「元気と一緒ならデビューするって答えた」
「は?」
元気は上目で美月を見やる。彼はとびきりの笑顔でもう一度答えた。
「元気と一緒だったらデビューする」
「なっ、ユニットってことっすか?」
大河が慌てたように口をはさむ。
「俺だって元気とデビューするためにやってきたんだ……! ……社長に直談判してくる!」
あっと思う間もなく、大河が駈け出して行った。その後ろ姿を見ながら、美月は鼻を鳴らす。
「社長には、元気と組みたいなら大河も一緒じゃないとダメだって言われたんだよね……」
「そうなのか――って、おい! そうならそうと早く言ってやれよ!」
元気は親友の誤解を解くため、大急ぎで彼のあとを追った。その最中、美月を振り返って釘をさす。
「俺と組むってんなら、絶対、ファンのためにアイドルやってるんだって言わせてやるからな!」
「ええ、そんなこと言う日がくるかなあ」
「くるんだよ! 絶対言わせてみせるから、覚悟しとけよ!」
そうでなければ、元気の目指すアイドルではないのだ。前途多難だと思いながらも、憧れの美月、親友の大河とグループを組めることに、元気はワクワクしていた。