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宣言通り、元気は大河と別れて美月の住むマンションにやって来た。
出迎えてくれた美月は、黒のタートルネックとスキニ―ジーンズというシンプルないでたちだった。しかし、はっとするほどの美貌は、そのほうがよく映える。彼は冷ややかに見える面立ちを人懐っこく歪ませ、元気を抱き寄せた。
「久しぶり。会いたかったよ」
「四日前にも会ったじゃん」
「四日も前だよ! 俺はこんなに寂しかったのに、元気はそうじゃなかったの?」
至近距離で睨まれる。長いまつげに縁どられた目元も、不服そうにとがった厚い唇も色っぽく、元気は不覚にもドキドキしてしまった。
(うう、美月はずるい!)
この距離も表情も絶対確信犯なのに、つい美月の言葉にうなずいてしまうのだ。
「俺も寂しかったよ」
まあ、美月と一緒にいられたらもっと楽しいのに、と思う場面は多々あったから、あながち間違ってもいないか。元気はそう結論付ける。
「やっぱり? それじゃあ、相思相愛だね!」
いっぽう美月は、元気の言葉にころりと機嫌を直した。
通された部屋でローテーブルを挟んで座る。美月が活動を休止してから、仕事の合間にこの部屋を訪れ、雑談をするのがお決まりになっていた。
「今日の生放送見ててくれた?」
「勿論。ダンスでミスしたときも笑顔を絶やさなかったのは偉かったね」
「いつも元気に笑ってるとこが俺のチャームポイントだからな!」
胸をはって答える。研修生のころからあこがれていた美月に褒められるのは素直にうれしかった。
「ニコニコしている姿、かわいかったよ。……でも、おとなしく大河にキスされてたのはかわいくなかったなあ」
「あー、あれ、突然でびっくりして避けられなかったんだよ。それに、ああいうことするとファンのみんなが喜ぶんだぜ。おもしろいよなあ」
「俺はおもしろくない。だから消毒ね」
チュッとリップ音をさせて、身を乗り出した美月が元気の頬にキスをした。
「ファンもいないのに何やってんだよー!」
濡れた頬に手をやって抗議する。しかし、美月はどこ吹く風だ。
「大河だけキスするのはずるいでしょ」
何もずるいことはないと思ったが、大河と美月はデビュー前からしょっちゅう張り合っていたので、きっとその一環なのだろう。深くは突っ込まず、元気は話題を変えた。
「なあ、美月から見て今日のパフォーマンスどうだった?」
「そうだなあ、まず……」
メロディを口ずさみながら、彼は頭から感想とアドバイスをくれた。美月のセクシーな歌声に耳を傾けながら、元気は過去に思いを馳せていた。