セクハラ
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「という事がありまして…」
と、木一が話した。
「…」
木一先生無念!誰一人聞いていませんでした。
そして、冷めた空気の中授業が始まった。
(私はふと思った…)
彼女の手には薄い本が握られている。勿論ブックカバーを付けて見つからないようにはしてあるようだ。
(そう、あのガバガバ木一なら…多少…)
「えーっと、最近、うちの息子がですねぇ…」
(今だ!このくだらない話を始めたタイミングで─)
木一はくだらない話を始めたのだ。余談だが、彼女の持っている本は、コムケという同人誌販売イベントでの戦利品である!
「!!」
「何?!」
何故だろう。こういう時に限って何故あの教師は!
授業中の読書は戦場だ。担任が来た時、いかに上手い立ち回りで自然に本を隠すことが出来るのか、そして、いかに上手く平然を装い授業についていくか。
「うおりゃぁぁぁあ!」
と、木一は叫ぶと、乱暴に本を取って大きな足を使って机を中に浮かせると、何本かのネジや木の破片、何分割にもされた机の木材が宙を舞う。そして鉄で出来ている引き出しを蹴飛ばして本を教室半分の距離からゴミ箱に投げ入れた。
そして、宙を舞っていた破片達が床に落ちる時には、教室が静まり返っていた。
「…」
全員の目は木一に釘付けになっている。
「お前まじで何してんだよ!調子のんじゃねぇぞ?あ?」
と、言って何事もなかったのかのように授業を続けた。
「続けます。」
と言った木一の横を堂々と、本を捨てられた本人が横切り、下を向いて何も言わず本をゴミ箱から回収していった。
すると木一が後ろを向き、彼女に視線を合わせた。
すると…
(うわ!気持ち悪!)
と、生徒の心の声。
木一が、手をいやらしく握っていた。物凄い破壊力の顔で。
「ぅぅ…き、きもちわるい!」
と、叫ぶ。
その言葉もなかったのかのようにスルーした木一が、続ける。
「もうしませんか?やらないんだったら手を離してあげます。本も返します。」
「セクハラだー!」
1人の男子が叫ぶ!
すると、木一先生は手を離した。
タイミングよくなったチャイムに救われた一同がほっとした息をつく。
「後で机取ってきてあげるから、」
と隣の人が声を掛けていた。