テンとパート4
ルイとテル大尉は一人の人物と向かい合う。
その人物とは間違ってこの宇宙船に連れてきてしまった髪飾りの女の《弟》。ルイは椅子に座らせた《弟》をよく見てから言う。
「いくつか質問したいことがあります。いいですか?」
「構わないよ」
《弟》は以外にも素直だった。言葉よりも刃を向けるほど敵対してるのに・・・でも刃を向ける理由は何となくわかる。まずはその事実確認をしなければ・・・
「あなた方は、私たちがどういった存在か理解していますか?」
「地球とは別の星から来た生命体」
「・・・私たちが宇宙人であることは理解しているということで話を進めてもいいですか?」
「はい」
「あなた方は私たちが宇宙人だから攻撃したのですか?」
「少し違う。文献と言い伝えがあったから攻撃した」
「・・・・・・」
「僕たちが住んでた地下施設には文献が残されてあって、そこには過去に宇宙人が降りてきたことから始まり地球から離れた所まで書かれていた。その途中には地下に施設を作り実験をさせられていたことも載ってる。その子孫が君たちを襲った」
やはり300年前の被験者・・・それから先、一度も私たちが地球に行ったという記述はない。それでも恨みは消えなかった。・・・根深そうですね。
「それから言い伝えでは宇宙人は別れ際にこう言ったらしい。〔また、必ず戻ってくる〕・・・と。だから信じた。宇宙人が来る時を・・・」
「・・・そうですか。・・・・では次の質問です。三年前、私とユミ大尉という方が初めて地球に降りました。その時あなたのお姉さんは20分くらいで私たちと会敵しました。どうやって私たちが地球に降りたことを知りえたのですか?」
「長老が教えたから」
「長老?」
「地下施設で一番偉い人。長老がどうやって知ったかは地下のみんな分かってない」
ルイは眉をひそめる。
「・・・・私とユミ大尉は地球人の姿をしていたにもかかわらず、あなたのお姉さんは迷うそぶりもなく切りかかれたのはなぜですか?」
「正直僕にもキミは地球人にしか見えないよ。でも文献にはこう書かれていた。宇宙人は胸に赤い石を宿し超能力を使う。何か心当たりある?」
・・・ある。超能力はともかく転移石はあの時露出させていた。記述にあった地球人の服装と今の地球人の服装は様変わりしていていた。そのため服装を変えるために和服を脱いでたらあの女性がやって来た。そして有無も言わさずユミさんを・・・
ここでテル大尉が睨みながら質問する
「あなたたちが持っていた武器、あれは何?それから質問にだけただ答えなさい。」
「あれの刀身は宇宙人が飼っていた怪物の牙で・・・」
それからもルイたちはこの男を質問攻めした。ただルイは違和感を感じ始めた。
敵であるはずなのにこの人はスラスラと正直に答えてくれる。
だから、どこか重要なところで嘘をつくと踏んでいた。
だが今までの質問で答えない。嘘の情報を話す。
そういったことが全くない。あと自分たちの事なのにどこか他人行儀にこの人は話す・・・なぜ?
あらかた準備しておいた質問が終わり、この部屋から出るまでルイの心は落ち着かなかった。
「ふー」
扉を閉めると自然とため息が出た。
「ルイ様…」
「大丈夫です、テル大尉。ちょっと自信が持てなくなっただけです」
「自信?何のですか?」
「わたしは相手をよく見れば嘘をついているかどうかわかります」
「はい。存じています」
「でもさっきの彼は全く嘘をついていなかった。おかげでいろいろと納得できましたけど・・・正直一つくらい嘘を言ってもらった方が信用できたんです。自分の目が濁ってないと自信が持てますので。それに・・・」
「ルイ様・・・?」
「いえ、何でもありません」
この目に自信が持てない理由は他にもある。
真さん、・・・彼は嘘をついた。でもなんであんな嘘をつけれたのかが分からない。
そんな風にルイが考えを巡らせていたらテル大尉がある話題に触れた。
「そういえばアイツが言ってましたね。《あれの刀身は宇宙人が飼っていた怪物の牙でできている。長い年月をかけてひたすら研いでできたのがあの日本刀》だって。あれも本当のこと言ってましたか?」
真さんのことを頭の片隅においてテル大尉の質問に答える
「はい。嘘は言ってませんでした。宇宙人が飼っていた怪物にも心当たりはあります」
「・・・神獣様、ですよね」
「はい」
ルイは自分の胸に埋め込まれた赤い転移石に触れる。
cccccccccc
cccccccccc
真がここに来て三日目。
真は体育館のようにひらけた場所でルイたちが言っていた
【転移石が地球人に与える影響について実験】
それに付き合っていた。・・・なのだが、なぜか戦闘が行われていた。
真は日本刀を持っていた人と同じくらいのの身体能力で体を動かす。
相手は水でできた人形、数十体。その人形は刀やハンマーなどの形をした水の塊を振り回す。真は向かってきたエモノをかがんで躱し水の人形の横っ腹を思いっきり殴りつけた。すると人形が霧になって霧散した。
「今ので二十体目です。真殿!」
巻き込まれないように端っこにいるピルク少尉が大声で真に報告する。
報告を聞いて真は会釈するようにピルクに軽く手を振った。するとその隙をつこうと人形が真の四方を囲み一斉にハンマーを振り下ろした。
ガガン!
振り下ろされた四つのハンマーの内の一つが頭を守っていた真の腕に重くのしかかる。だが真の表情は苦痛に歪んではいなかった。真は片手でハンマーの重みに耐えながらもう片方の手でハンマーの柄をつかみ逆に人形自身をハンマーみたいにして振り回した。近くにいた人形が次々と霧散していく。
「なんつー馬鹿力・・・」
水を操っている女性がボソリという。
このまま振り回すだけでクリアできそうな勢いだった。しかしそう簡単に問屋はおろさない。今度は一直線に燃え盛る炎が真を襲った。真はそれを腕で受け止めてしまう。
炎は気体のように真の体をすり抜ける類ではない。マグマのような流動物で真の肉と骨を溶かそうとする。
「うぐ・・ッぐ」
苦悶な声が漏れる。
その時ピー!と甲高い笛の音が鳴った。
「はい、終了ー。真ォしっぱーい」
元気のいいその声とともに真の腕を焼いていた炎が消えていく。受け止めたその腕は痛々しそうに焼け爛れていた。しかし真はそのことに関してはあまり気にしてない様子だ。
「ああーここでエンカ大尉の攻撃かー。くそー」
失敗したことの方を悔やんでいる。
そんな真に笛を持った女の子と元気よくはしゃぐ男の子が近づく。どちらも小学生くらいの背丈だ。
「ダメだなー真ォ。エンカ如きの攻撃なんて避けなきゃ」
男の子はかなりの歳の差があるにもかかわらず真にダメ出しする。
女の子はその横でピーピ、ピーと笛を鳴らす。こちらも笛でダメ出ししているように聞こえる。
そんな子供二人にゲンコツが振り下ろされた。
「いてー!」
ピー!
ゲンコツを振り下ろしたのは炎の能力を持つエンカ大尉だ。
「全くガキども・・おまえらは何にもしてないだろうが。・・・真、腕は大丈夫か?」
「ああ。大丈夫だ。この通り動く」
そういいながら真は腕を動かす。本当に気にしてないような表情をする真だが、焼けただれた皮膚が痛々しい。エンカ大尉は治療の超能力を持つキュアを呼んだ。
キュアと呼ばれた彼女はおどおどした様子で真に近づく。この場において地球人の姿をしていない人物が二人いる。一人はピルク少尉。そしてもう一人がこのキュア中尉である。
キュアはその者に触れないと治療が行えない。でもなかなか彼女は真に触れない。触れようとおずおずと手を伸ばそうとしているがナメクジのように遅かった。
真は触れてくれるまで気長に待つつもりでいた・・・がエンカ大尉のゲンコツがキュアにも振り下ろされる。キュアは涙目になってそそくさと地球人である真に触れるのであった。
「まるで嫌いなものを食べるみたいね」
その様子を見ていたユミ大尉が感想を述べる。さっきまで水の人形を操っていたのがユミ大尉である。
「別に私はそんな・・・」
キュアは言いにくそうにしている。でも最後まで言わないあたり否定もできないのだろう。そこにピルク少尉までが加わる。
「それはありますまい。私共は地球人に憧れを抱いているものがほとんどですぞ」
ピルクの態度から宇宙人が地球人に対してどういった感情を抱いているのか何となく真はわかっていた。そして不可解でもあった。だって地球人はルイに・・・
「ピルク少尉、あなたはこっちに来てないで記録室に向かってくださいね」
そうユミ大尉に言われピルクは慌てて「はい、ただいま行ってまいります!」と言ってこの部屋の近くにある記録室に急いで向かう。
ピルクが声が届かない距離になるとユミ大尉が真に声をかける。
「ここにいるほとんどの人たちは地球のことを知らないわ」
「・・・ルイは地球人のことを話してないんですか?」
「まだ・・・ね。自分に起きた出来事を話したことで地球人に悪いイメージを与えたくないんでしょうね。私は良いところも悪いところも事実はちゃんと公表した方がいいと思ってるんだけど・・・・まあ今の所悪い報告ばかりだから止めてるのか・・・ルイの事情を知っているのは大尉クラスの転移石を持っている人とここにいるキュアくらいかしらね」
ああ、それでキュアは俺に触るのが嫌なのか・・・そう真が思っていたらユミ大尉がさらに補足説明をしてくれた。
「キュアに至っては私が大怪我して地球から帰ってきたから、より地球に悪いイメージがあるのよね~」
そう言われながら肩を叩かれただけでキュアの体がビクッと震えアワアワしていた。
どうやら地球人とか抜きにしても性格的に人と接するのは苦手なタイプのようだ。
真は優しく「ごめんな」と声をかけた。それ以上余計なことは言わず目を伏せる。あまりプレッシャーをかけたくなかった。
キュアは少し口ごもった後答えた
「いえ・・・大丈夫、です」
キュアも目を伏せる。
でも最後まで言い切ることはキュアにしては珍しいことだった。それほどの奥手。ユミ大尉はキュアのそんな様子を見てニタッと笑った
「ルイちゃーん!今の見たー!。浮気だよー浮気ー!」
どこか楽しげに言うユミ大尉
顔を赤らめるキュア
真は・・・無表情だった。
「つまんない!」
「つまらないですか?」
「だってこういう時もっと慌てるもんでしょ!?だって浮気!現場!何だから。会って早々《俺と結婚してくれ》とか熱烈アピールするほどルイちゃんのこと好きなんでしょ。もっとこう・・・適切な反応があるでしょ!?」
ユミ大尉は《俺と結婚してくれ》をキザッぽく言ったりしてる。
真は「ユミ大尉」と相手の名前を呼ぶ。
「な、なに・・・」神妙な顔つきで言われたため少し後ずさる。確かにちょっとふざけすぎたかもしれない。
だが以外にも真のほうが頭を下げた
「大けがを負わせてすみませんでした。」
「う、うん」
不覚にもちょっとキュンとしてしまった。まさか私までもが浮気対象に・・・
「それはないだろ。年を考えてくださいよ。元教官」
ユミ大尉は心の声を口に出ていた。それにツッコミを入れたのはエンカ大尉。エンカ大尉の頭に水のハンマーが振り下ろされる。
「ぷご!」
エンカ大尉は無様な姿をさらす。
「サン、ムーンそこの糞虫△◇■な××を叩いていいわよ」
ユミ大尉は明らかに切れていた。それはもう血管がブチブチと。
サンとムーンはさっきのゲンコツをやり返すようにエンカ大尉をポカポカと叩く。楽しそうだ。
「うがー!」
エンカ大尉が起き上がるとサンとムーンは逃げるようにユミ大尉の後ろに隠れた。
「自分より倍も年が離れた相手と交際とかありえねえだろ。真はどう思う!」
「エンカって年いくつ?」
「あッ?18だけど・・・」
「36ならそんなにおかしくないと思うんだけど・・・こっちでは三十代で結婚なんてザラだし・・・」
それを聞いてユミ大尉は真の手を握る。
「ルイちゃん捨てて私と結婚する?」
目が少し本気だった。
「いえ、フラれましたけど俺はルイのことが好きなので・・・」
即答でふった。
ユミ大尉はガクリっと肩を落とした。
真は全く別の話題に切り替える。
「ユミ大尉は教官だったんですか?」
「え?ええ、そうよ。・・・この宇宙船にはたくさん私の教え子がいるわ。ちなみにそこの蛆虫も教え子の一人よ」
エンカ大尉を蛆虫呼びするユミ大尉
「お、れ、が!すぐに手を出してしまうのは教官譲りと言っても過言ではない!」
エンカ大尉も遠まわしにディスる。
「ほんっとアンタみたいな子が大尉になれたことが不思議でならないわ。ルイちゃん、テル、キュア、三人も女の子に負けて恥ずかしくないの!?」
「成績はずっとトップクラスをキープしてただろうが!それにキュアに負けたのは一回だけだ!」
「ルイちゃんとテルには全敗だったわね。そおーいえば!!」
「同期のワン、ツーじゃねえか!ていうかあの二人成績最高得点しか出してねえだろ。それにどうにか喰らいついてた俺をほめろよ」
「女の子に喰らいつけれてエライね~」
「バカにすんな!!」
二人は火がついたように言い争い合う。
自分がつけたようで真は何とかその火を消そうとしたが・・・
「ウルサイ!!」
と声をそろえて一蹴されてしまう。さらにここにサンとムーンのヤジと笛の音が混じり合い真を置いて混沌と化していった。
「き、気にすることないよ」
治療してくれてるキュアが勇気を振り絞って真に言う。
真は彼女を見る。地球人とは全く違うその姿を・・・。地球人には受け入れることが難しいその姿を。
しかし・・・
怖いものがある。勇気を出そうと頑張る。相手のことを思う心がある
宇宙人と地球人とで何が違うというのだろうか・・・
「うん。わかった。ありがとう」
そういった後、真は怪我が治っていくのをただ眺めた。