イチとパート2
「弟をどこにやった!!」
宇宙人どもが消えた後、髪飾りの女性は坂倉を押し倒し詰め寄っていた。
「な、なんのことだよ」
当然坂倉は混乱した。弟をどこにやったもクソもない。俺は無関係のはずだ。しかし次の言葉で坂倉は言葉を詰まらせる。
「お前・・・あいつら見たとき最初に言ったよな・・・真って」
「・・・・・」
「あの時は何のことかわからなかったが、あの中に知り合いでもいたんだろ!どうなんだ!!」
髪飾りの女性の勘は当たっている。あそこには同じ孤児院で育った真ニイがいた。しかしなぜ真があの場にいたのか坂倉にはわからなかった。
頭の中でどうにか考えをまとめようとしていたが、髪飾りの女性と宇宙人の戦闘に巻き込まれ、それどころではなかった。実際あの場で知り合いがいると断言しなくて良かったかもしれない。この流れだと俺は・・・
「地球人の皮をかぶった宇宙人だ。殺そう」
何もしゃべってないのにその流れに行ってしまった。やばいやばいやばいやばいやばい。
坂倉の冷や汗は過去最高レベルだった。
「おにーちゃん。きぃはやすぎー」
「しかし文献では人に化けるとは書かれていなかった。何が起こるかわからない。殺そう」
「んー。みんなぁー、はどう思うー」
「イテテ、俺は自分たちのけがの治療を先にした方がいいと思うがね」
「うん。僕もミミさんに賛成ッス。郷間さんも大丈夫ッスか?すっごいふっ飛ばされてたけど・・・まあ大丈夫そうッスね」
「ああ。宇宙人を殺すためなら・・・」
「それじゃーとりあえずー・・・」
次から次へと会話がよどみなく流ていく。坂倉が意見を挟む隙は無かった。
「待って!!」
大声を出してその流れを止めたのは一番最初に坂倉を宇宙人から救ってくれた髪飾りの女性だった。坂倉は一瞬希望が持てそうになったが、そんなこともなかった。
「わたしの弟はどうなるの!?」
髪飾りの女性は目がつるほどに怒っていた。一時の沈黙。その後、しゃべり方がおっとりした感じの少女はこう返す。
「うん。もちろん弟君は大事だよー。仲間だもん。でもー、おにーちゃんもミミさんも仲間でー、怪我してるんだよー。怪我治さないと膿がうじゃうじゃーだよ」
髪飾りの女性は眉間にしわを寄せてまた怒鳴る。
「もういい!私一人で探す!!」
ミミさんはため息をつく
「お前さん、アテはあるのかい?」
「だから今コイツから宇宙人の居場所を吐かせようと・・・」
「尋問は時間をかけてやりましょうや。嘘の情報掴まれちゃかなわん。それにそいつとは別にアテはあるんじゃないのか?」
「こいつ以外に?」
「俺らを監視してる奴らだよ」
その言葉を聞いて髪飾りの女性はハッとする。
「こいつのことは任せた。煮るなり焼くなりして必ず情報引き出しといて!」
そういって髪飾りの女性は猛スピードでどこかに走っていった。
脇目もせず走っていくその姿を見て坂倉はどことなく寂しくなった。しかし感傷に浸っている暇は坂倉にはなかった。
「よっこらせっとッス」
その掛け声とともにまた担がれる坂倉。
「桂馬くんありがとねー運んでもらってー」
「いや、いいッスよ。自分ケガしてませんし」
「とりあえず基地に連れていきやしょう」
「殺すべきだ」
「基地についてからーかんがえようー」
「まあ、殺すにしても情報吐かせてから、ッスからね」
そんな会話が続きながら一行は進んでいく
坂倉の御先は真っ暗だった。知りもしない情報をどう話せと?
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とある一室にて
その部屋では凹字に机と椅子が置かれ外回りに軍服を着た厳つい男ども15人が座っていた。机が設置されてない面には映像を映し出すためのスクリーンと二人の男女が立っている。
男のほうは眼鏡をかけレンズ越しにクマが見えた。印象としては社畜のサラリーマン。しかし肘から先がない左腕が特徴的だ。年は四十くらいの白人。
女性の方は比較的若く小柄な方だった。肌の色は褐色。
座っている面々はみな強面で二人は場違い感が半端ない。だがしかし、二人に緊張の色は見えなかった。
左腕がない男性が前に出てよくとおる声で話を始める
「お手元にある資料をご覧下さい」
事前に置かれている資料に皆が目を通す。
「現在確認されている一般人による宇宙人の被害者兼目撃者は以下の通り五件。数年という年月を考えれば少ない数ですが宇宙人という未知の存在に私たちは強い危機感を持つべきだと私は考えております。その最たる理由として、まず挙げなければいけない事項は人の姿になる擬態です」
資料をめくる音が一斉に鳴る。座っていた人たちの何人かが怪訝な表情に変わった。
「彼ら宇宙人は地球人と全く区別がつかない精巧な擬態能力を持っています。現時点では見破ることは不可能。このことから考えて、もっと多くの人たちが宇宙人と知らず知らず接触している可能性が挙げられます」
ここで一人の男が手を上げ質問する。
「被害者兼目撃者っていうのはどういうことだ?」
「先ほども言いましたが我々には宇宙人の擬態を見破る方法がありません。ではなぜ発見できたのか?その理由は相手自らが宇宙人だという正体を明かしたからです。明かした理由は・・・被害者から聞いたところ友達になりたかったそうです。今の所こういったほうこk・・・」
真面目に話を進めようとしていたが誰かが鼻で笑う
「冗談だろ?」
その言葉に空気がピリッとなった。
白人男性は眼鏡をかけ直し普段通り再度説明をしようとした
「ですが被害者から聞いたところ・・・」
「ああ、もういいお前帰れ。ここは日本だ。お前みたいによその国から派遣された奴にはわからないだろうがな、年下が年上様より権力が上なんてありえないんだよ。俺はお前みたいな小僧の下に付くなんて死んでもごめんだ」
六十代の日本人男性がそう断言した。
「いいか!おれは・・・」
この後この日本人は自分の武勇伝を語る予定であった。しかしその語りは永遠に聞かされることは無くなってしまう
一発の銃声音が鳴り響いたからである。
弾丸が発射される独特な音が会議室に反響し、さっきまで口を開いていた男は吐血した。
「え?」
何が起こったのかわからない。胸の中心が熱く唸り、触れて確かめようとした時、もう一度銃声音が・・・
ダアアン!!
その男は脳天に弾丸を打ち込まれ地べたに倒れこむ。もう二度と起き上がることはない。
その死体を確認した後、撃った本人は淡々とこう言った。
「ブライム長官に逆らうなら死んで下サイ」
銃を片手に持つ褐色肌のその女性に皆が生唾を呑み込んだ。
ブライム長官は再度、右手人差し指で眼鏡を持ち上げかけ直すそぶりを見せた後言った。
「マリア銃を下ろしなさい」
「ハイ」
マリアはブライム長官に従順に従う。
ブライム長官は何事もなかったかのように話を戻す。
「被害者から聞いたところどれも似たような報告があることから、彼ら宇宙人側は我々に対して友好的な関係を築きたいと考えられる・・・という見解でした。今までは・・・マリア映写機を」
「ハイ」
マリアは返事をした後映写機を回した。スクリーンに映像が映し出される。そこには得体の知れない生物を髪飾りの女性がぶった切る映像から始まった。
「この映像はつい先ほどの出来事です」
ブライム長官がそういった後も映像は流れていく。そこには意思を持っているかのような植物。マジックでも見せられているかのようなナイフと少女の空中浮遊、その中での戦闘はまさに映画の中のワンシーン。そして最後には一瞬で人の姿が消える映像が流れ出た。
イスに座っている軍服を着た人たちは、近くに死体が転がっていることも忘れその映像を食い入るように凝視した。
「この映像から見て分かるように宇宙人は我々に対し明確な敵意を持って行動しました。この件を深くとらえ私は緊急会議と今まで秘匿していた宇宙人の情報開示をするに至りました」
「ま、待ってくれ。この映像を見る限りでは先に手を出したのは我々地球人側だ。そこの説明をお願いしたい」
「日米共同基地特別特殊部隊・・・モグラ人についてご存知ですか?」
「あ、ああ。たしか地下に長年住んでいた日本人で構成された部隊。何でも驚異的な身体能力を持っているとか・・・」
「その地下出身者は古い過去に宇宙人に虐げられているという歴史があるそうです。つまり彼らが動いた理由は怨恨です」
「は?」
ほとんどの人が間の抜けた返事を返した。その時だった
ドガッ!
この会議室の扉が蹴破られる。そこに表れたのは件の髪飾りの女性だ。その者はブライム長官に詰め寄りこう言った。
「弟がさらわれた。どこ?」
ブライム長官のネクタイを掴み目は見開いていた。マリアがブライム長官の後ろで銃を抜きかけていたがブライム長官が肘から先がない左腕を上げ静止させた。マリアが止まるのを横目に確認してから長官は答えた。
「君の弟・・・特殊部隊隊員が攫われたことはこちらでも確認されている。キミの片目を通して・・・」
「だったら今どこにいるかわかっているんでしょ。私たちの片目をみんな機械の義眼にしたんだから!」
怒りがにじみ出た言葉に沈黙が流れる。
「・・・機械仕掛けの義眼。発信機と監視カメラの役割を兼ねた地下出身者の鎖・・・だがそれは地球圏内でしか意味をなさない」
「どういうこと・・・?」
「君たちの言葉を信じるなら敵は宇宙人。そして一瞬で消えた未知の技術。・・・君の弟は宇宙人がいる星、もしくは宇宙船にいると仮定ができる」
「つまり・・・」
「地球の外にいるキミの弟の居場所は我々にも把握できていない」
髪飾りの女性の目元がぴくぴくと痙攣する。今にも殴りだしそうな雰囲気だ。
しかし彼女はネクタイから手を離し怒りを静めた。ただの鬱憤を晴らすためだけにこの男を殴るのはあまりにも不釣り合いな反動が返ってくることを彼女は知っていたからだ。
髪飾りの女性はこの場から立ち去る前にブライム長官に言った。
「私達の家族に手をだしてみろ…お前たち地上人を悪と断定し皆殺しにしてやる」
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「やめろー!!」
坂倉の悲痛な叫び声がこだまする。時刻は夜の九時。坂倉は日米共同基地のある倉庫内に連れてこられた。そして今まさに豚の丸焼きにされそうになっていた。
「じゃあぁー、あなたは宇宙人なのかー。おしえてー」
幸子という十代の女性は可愛い声で言いながらマッチに火をつける。
「だから俺は宇宙人じゃないんだってー!」
縛られた手足をギシギシ動かしながら坂倉は半べそかいていた。そんな坂倉に助け舟が出される。
「待て妹よ」
「にいーちゃん?」首をかしげる幸子
「まきが足りないもっと増やして宇宙人を焼き殺そう」
助け舟は黄泉の旅路のものだった。
「ダメッスよ、郷間さん。焼き殺したら弟君の居場所がわかりません。焼くのは炙るだけ。表面を焼けばきっと宇宙人の正体が露わになるはずッス」
元気よくむごいことを言う桂馬
「若いのは元気だねー」
ミミさんは上半身裸になっている。先の戦闘で負傷してしまい腹には包帯が巻かれていた。
「ギャアアアァーもう嫌だー!」坂倉の叫びが再度こだまする。
その様子を眺めている人物がいた。
「教授、あれは?」
「ん?んん?まさかまさかまさかー!」
そういって教授と呼ばれた人物は、杖を突いた老人とは思えないスピードで豚の丸焼き一歩手前の坂倉に近づいた。
「キミはもしかして宇宙人なのかね?」
坂倉の目の前で尋ねる老人。抜け落ちた前歯、臭い息。坂倉は顔をしかめた。
老人は嬉しそうに「うえっへへ」と笑っていた。そんな教授にあとからついてきた助手が水を差す。
「教授、その人は宇宙人ではありませんよ。知ってる人です」
「ほえ?君の知り合いかね?」
「はい」
坂倉は返事をした人物を見た。その男は林田真同様、孤児院出身者だった。
「久しぶり、いつぶりだろ」
そう言いながらも彼は坂倉には興味なさそうな雰囲気を出している。社交辞令のような言葉。昔を思い出す。
教授の横に立つ人物の名は林田勢【はやしだ せい】
赤ん坊の頃、真と同じ時間に孤児院の前に捨てられていたらしい。
「なんでお前がここに?」
坂倉は疑問を投げかけた。しかし疑問に思ったのは向こうも同じだったみたいだ。
「それはこっちのセリフです。どうしてあなたなんかがここに?」
トゲのある言い方。だがこれは彼にとっての平常運転である。昔を思い出し坂倉は子供っぽく顔を背けた。勢はため息をついて諸事情を話す。
「僕は大学生、大学教授の助手としてここに前から出入りしてるんです」
「ん?わしの自己紹介も必要かね?」
「いえ、結構です。教授」
おちゃらけて言う教授にばっさり切り捨てる勢。だが教授は止まらない
「わしか?わしわな~ここで機械部門の顧問も兼任なんじゃ。機械だけではなく生物にも興味津々なんじゃが生物の生態を理解するのは一苦労じゃ。なんせなかなか解体させてくれんからの~」
聞いてもいないのにペラペラとしゃべる老人。坂倉がどうでもいいかのように目を逸らした。
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目を逸らした先で坂倉は少し戸惑う。さっきまでおっとりした喋り方をしていた女の子がガタガタと震えていたのだ。
なぜ?それだけではない。他の人たちも虚空を見つめていたり、目を伏せていたり、教授を睨んでいる者もいた。
不安が募っていく坂倉に、再度教授は目の前まで顔を近づける。
「ところで君は宇宙人と会ったかね。今は宇宙人の体に興味津々じゃ!」
坂倉も震えた。もうこの人を馬鹿にすることはできない。この人は異常者だ。頭のねじが飛んでいる。具体的に何をしているのか知らなかったがこの人に関わるなと脳が警告した。
「教授、もうそのへんで・・・」
「ん?おお、そうだな。キミの知り合いというのならあまり悪いようにしてはいかんな。どれ、それとそれ。外してやらんかね」
杖でさされたのはおっとりした女の子と、さっきまで元気よく惨いことを言っていた後輩にいそうな少年。
この二人はそれそれ言われただけであっさりと坂倉を解放した。解放してくれてありがたいはずなのに正直言って気持ち悪かった。あの老人が・・・。
「では僕はこの人を基地の外まで送り届けますね」
「うむ。気を付けるんじゃぞー」
勢の言葉に明るく送り出す老人。
坂倉は、逃げたら後ろから刺されるんじゃないか、と思いながらも黙って前を歩き勢について行く。
「ギャあ˝、あ˝あ˝あ˝あ˝ア˝ァ˝ー」
倉庫から出るとき金切声の悲鳴が聞こえ坂倉は慌てて振り返った。
振り返ったことを後悔した。あれだけ信じられない身体能力を見せていた強い人たちが片目を押さえつけ地面にのたうち回っていた
坂倉は見てないふり、聞こえてないフリをしてまた前を向いた。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
二人は無言で歩く。
身の安全、日常に戻れる気配、坂倉がようやく平静でいられる時間がやってきた。
この短時間で坂倉は気持ち悪い二足歩行のカエルと出会い、日本刀を持った女に助けられ、意味不明な植物に足を取られ、わけがわからないまま戦闘に巻き込まれてしまった。あげくの果てには助けられた相手から宇宙人扱いされ殺されかける。
本当にもう・・・何かを考えてる暇なんてなかったよ。
本当に何も・・・・・かもが・・・
分からない
何で真は宇宙人と一緒にいたんだ?
日本刀を持った奴らはいいやつらなのかわるいやつらなのか?
あの超常現象は実際に起こった事なのか?
教授はあの人たちに何をしたんだ?
それに、・・・
疑問が何度もループし坂倉の頭はパンク寸前だった
そうこう悩んでいたらいつの間にかこの基地の入り口に着いた。ずっと無言で前を歩いてた勢がようやく口を開く
「では僕はここまでで・・・あとは自分で帰ってください」
帰れる?
ああ俺帰れるのか。何だ、あれこれ悩む必要なんてなかったじゃないか。今日起こったことのすべてが俺に何も関係ないことだったんだ。そう思い一歩基地の外に踏み出そうとした。
だが、不意に最初に助けてくれた髪飾りの女性が言っていた言葉が頭をよぎる。
安心して。私、正義の味方だから
坂倉の足がピタリと止まる。
「・・・正義の味方」
ポツリと出た自分の言葉。
その言葉に反応するように頭の中がズキズキとした嫌な痛みと体の発汗が坂倉を襲う。
まるで体が何かを訴えかけてるみたいだった。
このまま帰ってはいけない・・・と
「・・・・・ッッ」
坂倉はきびすを返し走り出した。
勢を無視し、来た道を引き返していく。
自分が進む道が正しいものだと願いながら。