敵対
転移した後、真はギリッと音がなるほど歯軋りした。そこにルイの同胞の遺体を無造作に運ぶ坂倉がいたからだ。
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カイ大尉が作り出した植物は敵から同族の遺体を奪い返し、ルイたちの元へもっていく。その植物以外双方動かなかった。ルイたちと日本刀を持った女性との距離は50メートル。ルイたちはわざわざ外灯がある真下で相手の出方を窺っていた。
「真さん、あそこにあなたのお知り合いはいますか?」
悲しげに言うルイ。真の表情を見ただけで答えは出ていたが、それでもルイは確認はとらなくてはいけなかった。
「ああ、いる。」
「どちらですか」
「・・・男の方だ」
「彼は遺体を引きずっていましたが・・・どういった方かお聞かせ願いますでしょうか?」
「普通の・・・一般人。きっと巻き込まれたんだと思う」
ルイは目をつぶって考えた後、答えを出した。
「彼の方は捕縛し宇宙船で話を聞きましょう」
「女性の方はどうしますかルイ様。あの髪飾りの女って例の化け物ですよね」
「化け物・・・?」
テル大尉の言葉に真が聞き返す。
「はあー?あれ見たでしょ。カイ大尉の植物をぶった切った腕力、そして体さばき。生で見ると改めて人じゃない、と思う」
宇宙人があの女性を人じゃないという。確かにあの動きは人を超えていた。
「彼女は私たちにとって要注意人物です。初めて地球に降りたった日、いきなり襲撃されて私に同行していた大尉一名が負傷しました。一回それっきりの襲撃でしたが・・・かなりの危険人物です。」
「でもでもルイ様、今ならわたしがついています。まずはあの女の刀を私の能力で奪って・・・」
そういってテル大尉は女性の日本刀に指を向けた。しかし何も起こらない。
「あれ!?どうして・・・」
「テル大尉どうしました?」
「私の能力で動かせません。どうして?あの女の腕力?」
腕力・・・ではないようですね。向こうは別段踏ん張っている様子がない。テル大尉の能力が効かないとしたらもしかして・・・
ルイが一つの可能性に行きつこうとした時、敵は動いた。
髪飾りの女性は片手に日本刀、もう片方に坂倉を抱えたまま突撃してきた。女性は有無も言わせずルイに切りかかる。しかしその斬撃はルイに届くことはなく植物の壁によって阻まれた。
「へえ。この植物・・・さっきより固くなってる」
そう言葉にした後、身の危険を感じた髪飾りの女性は横っ飛びした。
ガキキン!ッキン!!
さっきまでいた場所に上からナイフが降ってきた。7,8本のナイフは地面に当たって跳ね返った後、空中でピタッと止まった。刃先はすべて女性に向いている。そしてナイフは蛇のように女性を追撃した。
髪飾りの女性は刃の向きを変えるため柄を半回転させた。そして迫り来るナイフを目にも止まらないスピードで全て逆刃で叩く!
刃の部分しかない薄いナイフはバラバラと砕け散っていった。そしてそのうちの一本はわざと上空に打ち上げる。打ち上げた方向に顔を向けて無言で笑顔を作った。嫌味ったらしく。
「やっぱ化け物だわ」
上空から攻撃していたテル大尉は目の前まで迫っていたナイフをギリギリで止めた後つぶやいた。恐れから出た言葉ではない。敵にとって不足はない。
テル大尉は闘争心むき出しに笑う。足先まで伸びているぶかぶかの上着をはためかせテル大尉は女性に向かって急降下した。足に装着していたナイフがよく見える。
短パンから下の生足もよく見える!
「おお」女性に抱えられたままの坂倉が感心する。
ガキイイン
髪飾りの女性とテル大尉が交差し金属音が聞こえた後、女性は敵からいったん距離を取った。そして手にぶら下がっているものを汚物のように見ながら言う。
「あんた今どこ見てたの?」
「う、えええ!?」
今戦闘中にそんなこと聞く!?といった反応だ。しかし坂倉もまた戦闘中にゴニョゴニョ・・・ではなく弁明する。
「何を言っている?俺はただ足に巻いてあるホルスターを見ていただけだ」
「食い込んでたね」
「ああエロかった」
「・・・・・・・」
「・・・いや、違う。待ってくれ」
完全に黒だった。髪飾りの女性は冷めた声で言う。
「別に何だっていいけどアレ宇宙人よ」
「宇宙人?」
「さっきアンタが運んでたのと同類よ」
阪倉は宙に浮いている(見た目は可愛い)女の子を見た後「おえええ」と嗚咽を漏らした。声が聞こえる距離にいたテル大尉は目元をピクつかせた。そして時同じく、ルイもまた怪訝な顔になった
「ルイ?」
周りを植物の壁に囲まれているため外の様子がよく分からない。そんな中ルイの様子が変わったことに気がつき真は声をかけた。
「大丈夫です。何でもありません」
ルイはそう答えた。・・・が、ちょっと予定を変えたくなりそうだったので真さんに質問した
「真さんの知り合いと言ってましたけど正確にはどういった関係なんですか?」
「阪倉は・・・血はつながってはいないが一緒の家で育った家族だ」
血はつながっていないが家族。何やら複雑そうな関係はしますが・・・いえ、やはり関係を探るのはよしましょう。とにかくあの人にコレをつけなくては・・・
そう思いながらルイは左手に持っているものを確認した。・・・透明な色をした宝石。転移石を・・・。
ここでふと真さんに確認しておきたいことができ、ルイは真面目な顔で尋ねる。
「真さんは昼間のこと覚えていますか?私と初めて会った時のことを・・・」
真は少し間を置いた後答えた。
「俺と結婚してくれ」
「ブフー」
真の答えに感情表現が苦手なはずのカイ大尉が唾を飛ばして吹く。
ルイは赤面した。
「そ、そういうことではなく・・・その後の話です。」
「逃げないでくれ。俺にはお前が必要なんだ。頼む。どこにも行かないでくれ」
カイ大尉がこちらをチラチラと見てくる。正直気にしないでほしかった。そして真さんもその話をしてほしかったわけじゃない。しかも歯の浮くようなセリフを淡々と言う。
「わ、私が言いたいのは転移石をつけた時のことを覚えているかどうか聞きたかったんです」
「転移石?あの、ルイがつけてた・・・」
「はい。転移石は私だけではなく宇宙船に乗っているみんながつけているものです。あの転移石があるからこそ宇宙船とこの地球の行き来ができます」
「それってつまり・・・俺にも?」
「その様子だと昼間あなたに転移石をつけたことは覚えていないんですね」
どこか落ち込むようにルイは言った。
「すまない」
「いえ、いいんです。ただこの後ちょっとあなたのお知り合いがショッキングなことになりますが、命にかかわるようなことではないので落ち着いて・・・」
とルイが言いかけた時だった。ルイの目の色が変わる。
「カイ大尉、すぐに左腕を!!」
そうルイが叫ぶとカイ大尉はすぐさま左腕の袖をまくりあげ二の腕を見せた。その二の腕にはルイ同様、宝石が埋め込まれていた。しかしルイのと違って赤くはない。透明がかった水色だ。
ルイはカイ大尉の転移石に触れ「感覚リンク!視覚、思考!!」と唱えた。
するとすぐさまカイ大尉は植物の壁を取り払った。
外の様子が真の目に映し出される。そこでは左腕を抑えているテル大尉がこちらに向かっていた。
その後ろには複数の人影がテル大尉を追っている。その内の一人が空中にいるテル大尉に向かって何か細いものを投げた。
テル大尉は敵に背を向けて逃げていたため、この攻撃に気付いていない。
当たる!と思われたが、この攻撃はカイ大尉の植物によって間一髪防いだ。カイ大尉はそのまま植物を操り、追っ手に牽制をかける。テル大尉はその隙にルイたちの元まで逃げ込んだ。
「ルイ様すいません。油断しました」
テル大尉の左腕からは赤い血が流れていた。ルイはテル大尉の容体を確認したかったが迫りくる敵がそれを許さない。
カイ大尉が植物を操り迎撃を試みていたが、あの女性同様、とんでもない身体能力を有していた。
その人たちはバッサバッサと刀で切り開いてくる。植物の壁は少しの時間稼ぎにしかならなかった。ルイたちとの距離が数メートル近くまで迫り絶体絶命と思われたその瞬間、
「散れ!」
その掛け声とともに迫ってきた人たちは蜘蛛の子を散らすかのように離散した。と同時にカウンター狙いで仕込んでいた植物の串刺しが外れた。
離散していた人たちはルイたちからある程度距離をとってまた集まる。
「ミミさんナイスッス。危うく死ぬところでした」
「へへ、音がね、聞こえたんだよ。土をえぐる音が」
「ああー。確かにそんな音が聞こえたようなー。でもー、初見でアレを躱せたの大きいですねー」
「・・・文献通り宇宙人は超能力を使える。・・・殺す」
「・・・・・・」
日本刀を持った五人は話をしている。日本刀、驚異的な身体能力、類似点から考えておそらく坂倉を抱えている女性の仲間だろう。その女性の仲間と思わしき五人は一息入れるとまたルイたちに向かっていく。一人は正面からゆっくりと、そして残りの四人は円を描くように左右に二人ずつ分かれ挟撃してきた。
三方向からの攻撃。タイミングを合わせて同時に攻撃してくるのか、それとも時間差攻撃をしてくるのか、その場合誰が一番最初に攻撃してくるのか・・・わからない。
彼らはタイミングをつかませないために移動速度にメリハリをつけていた。
「感覚リンク、視覚、思考」
そんな中ルイはテル大尉の転移石に触れてそう唱えた。
ルイ、カイ大尉、テル大尉はそれぞれに三方向から向かってくる敵を目視する。そんなルイたちを見て敵は心の中で軽く笑った。あんなので自分たちの攻撃を止めきれるわけがない。誰かは入る。そう確信していた。しかし・・・
「え、うわ、ちょっと急に止まぶっ」
「いっで。オイオイオイ!目の前にトラック。背中に仲間。逃げれねえじゃねえか!」
「あしー、とられたー」
「何を呑気にしている!?宇宙人どもを殺すぞ!」
「私のことはーいいからー先に行ってー」
「わかった。俺が妹の敵を取ってやる!宇宙人ども死ね~ぶはっ」
「わたしーしんでないよー。ていうかー兄ちゃんのほうが大ごとだ~」
カイ大尉とテル大尉の絶妙な連係プレイは左右から迫ってきた敵を見事に撃退した。その様子を見て正面から攻め込もうとした者は足を止める。その者は目を細めて、さっき起こった事の確認をした。
右は植物の壁でミミさんの足を止め、後ろからついてきていた桂馬がミミさんの背中に追突。その後すかさず真上から大型トラックが降ってきた。どうにか直撃を避けたものの、地面に激突したトラックの部品が飛来し、ミミさんが桂馬を庇って負傷。
左では植物のつるに足を取られた幸子さんが兄を先に行かせるが、その兄はものすごいスピードで飛んでくる自販機に真横から撥ねられる。
ルイの正面にいるその人物は飄々と言う。
「そっちのでかいのが植物でそっちの女の子が金属類を操る能力かな・・・後ろを見ずにすごい連携だったよ」
仲間がやられたのに敵を称賛するこの人物にルイは少し戸惑った。
「こらー。突撃しなさいよー!私の弟でしょー!」
その様子を後ろから見ていた髪飾りの女性は怒鳴った。
首を振って答える。
「無理だよ」
弟と呼ばれるその人物は軽く笑っていた。
その様子を見て髪飾りの女性は大声で言った。
「わかったわよ。この根性なし!あんたにはもう期待しないからコイツの面倒でも見てなさいよ。あとは私がやる!」
そう言ってずっと抱えて守っていた坂倉を無造作に手放す。
「ぐえ」
坂倉の痛がる声を無視して髪飾りの女性は走る体制に入った。
私なら地中からの攻撃は耳でわかる。あのいろんなものを飛ばす力は、お荷物を抱えても対処できてた。足手まといがいないワタシなら宇宙人どもを殺すことができる!
そんな思いで髪飾りの女性は地面を強く蹴った。スタートダッシュにしてすでに弟がいる地点まで来た。このままスピードを殺さず切る!
・・・だが髪飾りの女性はルイの目を見てその考えを改めてしまう
貴方が離れる、この時を待っていましたよ。
口に出してるわけではないがそう言ってるような気がした。
その瞬間、ルイが髪飾りの女性の視界から消える。高速で移動したのではない。消えたのだ。どこに?
悪寒が走り髪飾りの女性は後ろを振り向いた
そこにルイがいた。
ルイは坂倉の目の前まで転移した。あとはこの転移石をつけるだけ。そうすればすぐさまこの場から離脱することができる。
ルイは勝利を確信していた。しかしここで思いもよらないことがおきてしまう・・・
ルイが左手に持っていた転移石は人体に触れるとそこから赤い液体がドババッと流れ出た。そして転移石をつけられたものは力なくうつぶせに倒れこんでいく。はたから見るとナイフで刺し殺したみたいな光景だ。しかしこれは転移石を取り付けた場合、誰にでも起こること。今日の昼間では真さんもこんな感じに倒れこみ数時間気を失ったが今ではちゃんと元気にしている。
・・・では何が思いもよらないことなのか。
それは人だった。ルイは違う人物・・・
髪飾りの女性が弟と呼んでいた者に取り付けてしまっていた。
弟は坂倉とルイの間に突然現れた。
一体どうやって・・・
ルイは混乱する。
「私の弟に何してんだテメェーー!!」
女性の雷のような咆哮に我に返ったルイは直前まで迫っていた白刃を見てすぐさま叫んだ。
「転移!」
その瞬間女性の刃が空を切る。そこにいたはずの憎ったらしい女の子を切る。だがそこにはいない。いるのは女性と坂倉、あとは加勢に来た女性の仲間4人だけ。残りは全員消えていた。
・・・女性の弟は消えていた
「クッソがアアアアアア!!!」
髪飾りの女性は空気が振動するほど叫んだ。