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イチとパート15


「あなたがここいてくれてよかった」

勢は坂倉にそう言うが、言い方には相変わらずトゲがある。

皮肉のつもりか?と思わせるほどに淡々という。

・・・・・・

・・・・・・

淡々と、というよりも感情がこもってないように感じた。

思い返してみると、

セリフの意味ばかりに気を取られてトゲトゲしく感じていたが、今までの勢には感情を表に出している言動が見られなかった。


「オヤジさんはどんな容体ですか?」

淡々という勢に坂倉は看護師から聞いた病名を言おうとした。

「胃・じゅうにしちょう‥かい・・えーっと・・」

「しっかり覚えててくださいよ」

「うるさいなー!その時頭の中真っ白でぼやぼやしてたんだからしょうがないだろ!」

病院内で大声を出す坂倉に、勢は人差し指を立てて大声は出さないように、と無言で注意する。


クソ・・・腹立つ。

そう思った後坂倉は深く息を吐いて少し冷静になることにした。

「おまえ・・・神様から力をもらってたのか?」

藪から棒の質問に勢は何のためらいもなく答えた。

「はい」

坂倉は目を細める・・・

「真もか?」

「そうですね」

「何のために・・」

「それは僕たちにもわかりませんよ。神様の目に、たまたま止まっただけだと思ってはいますが・・・」


神様。

宇宙人の子供が言うには、

今危険な状態で地球のエネルギーを吸えなくなる時はそう遠くない。

そして限界が来た時、地球はエネルギーに満ち溢れて破滅するという話。

この話は勢も知っているのだろうか。

・・・そう坂倉が思っていると勢はさらなる情報をもたらした。


「ただ・・・【アレ】はどうやら神様の選別を乗り越えて力をもらったようですが」

「・・【アレ】って誰の事だよ」

「本来、あなたが収まっていたポジションにいた人物ですよ」


??

坂倉には勢が言っていることがさっぱり分からなかった。


「あなたが五歳の時、孤児院に入る予定だった時の事を覚えていますか?」

「それがいったい何の関係が・・・」

「誘拐・・・された事覚えていませんか?」


誘拐


そう言われ坂倉は目を丸くする。

オヤジさんも言っていた。


「あの誘拐で、本来あなたは孤児院には来なかったそうですよ」

「は?いやいや何の話だよ」

「察しが悪いですね。神様に力をもらった【アレ】は未来から来た…という話です」


cccccc

cccccc


幸子は狸寝入りをしているエンカ大尉を起こす事を止め、地上に出ていったミミさんとキュアの事を思っていた。不審なあの二人を追いかけたい気持ちはあったが、自分が担当している宇宙人をほっとくわけにもいかなかった。

そんな時、こちらにやってくる三人の人影が見えた。


「あ、にいちゃん。…それからー、尾張くんとムーンちゃんだー・・・あれっ?ムーンちゃんがにいちゃんの頭の上に乗ってない?」

ムーンちゃんの歩行速度に合わせてたら時間がいくらあっても足りないから、ムーンちゃんはにいちゃんが背負うことになっていたはずだけど・・・

「尾張くんもいるから?・・・ってそんなわけないよね。スピードだけなら尾張くんはトッシーとタメ張るくらいだし~」

歴代最強の髪飾りの女性の走る姿を思い浮かべ、

余計なんでだろ?と思う。

「ま、こっちに来てから聞けばいっかー」

幸子は少し独り言が少し多くなっていた。


ccccccc

ccccccc


幸子は三人に挨拶をした。その挨拶を返してくれたのは尾張だけ。

残りの二人は幸子の挨拶が聞こえていない様子だった。


「郷間、おかしい。さっきの浮けなかった!浮けなかったよ。郷間!・・・郷間~」


ムーンはこの居住区のフロアまで来るときに使う球体型のエレベーターの話をしている。

しかし、しきりに名前を呼ぶムーンに郷間は全く反応を示さなかった。


「にいちゃんとムーンちゃんに何かあったのー?尾張くん」

「えっと、その・・・簡単に言うとムーンさんの言葉に郷間さんのプライド?が傷ついたという事でしょうか。もちろんムーンさんに悪気があるようには見えませんでしたけど・・・」

「う、うわァ。にいちゃんのうつわのおおきさ・・・」

五歳児と妹にそこまで言われても郷間は眉一つ動かさない。


その傍目にムーンは次第に弱気になっていった。

「郷間郷間。ごめんなさい。さっきの事謝るから。質問に答えて・・・郷間…さん」


ここまで落ち込まれると流石に悪い気がしたのか、郷間はため息をついて言う。


「別に無視してるわけじゃねえ、答えられなかっただけだ。俺の知識なんて大したもんじゃねえんだよ。球体のエレベータの中が浮ける理由も教授の助手が教えたようなもんだ。それから・・・もう、さん付けしなくてもいいぞ。さんざん言われたからもう郷間で慣れた」


そう言われムーンは、ぱあーっと明るくなったが、

「クソガキ」

と言われながら頭をポンポンたたかれると今度はぷくーっと膨れっ面になった。


「あは~、微笑ましいね~」

兄と宇宙人の子供が戯れるその姿を見て幸子は嬉しかった。


しかし、この二人を見た後だとより一層ミミさんとキュア中尉の二人が心に引っかかてしまい、幸子の顔に影を落とした。


「尾張くん。少しエンカさんの警護外れてもいいかな?」

「?・・・何かあったんですか?」

「ううん。ただ・・・さすがに片腕片足だと不便だなっと思って。腕と足のスペアを取ってくるよ」

幸子は笑って本音を隠した。不確かなことを言って不安にさせたくなかったのだ。しかしのんびり口調じゃない幸子はどこか怪しかった。


「それじゃ私、日米共同基地に行くね」

尾張の返事も聞かず幸子はトーントンと片足で跳ねて行く。一度跳ねるたびに数メートル離れる幸子はどこか急いでいるように見えた。


ccccccc

ccccccc


日米共同基地に着いたミミさんは驚く。

「どういうことだ?死体がない」

夥しい血痕の痕は確かにある。

だが肝心の死体が一つもなかった。これではここに来た意味がない。

いや・・・まだ入り口だ。奥に行けば死体の一つや二つ、あるかもしれない。

ミミさんは歩みを止めなかった。


一方キュア中尉は基地の入り口で立ち止まってしまう。


「私の、せいで・・・」

キュアはミミさんに渡された神獣様の肉が入った容器をぎゅっと握りしめる。


ccccccc

ccccccc


髪飾りの女性とユミ大尉はミミさんとキュア中尉を探すことはしなかった。不安要素ではあったがそれ以上に警戒しなくてはいけない敵がいたからだ。その敵に備えてこの宇宙船の中のある機能を探しだし、ようやく起動することができた。


「この重力制御装置?起動したけどこれでなんか変わるの?」


「向こうには【人】信者のドメ大尉とテル大尉がいるからね。どっちかにこの宇宙船が見つかってしまうと、最悪私たちは何もできないまま死ねから」


「それにしても、よくこんなのが宇宙船についてる何てわかったわね」


「【宇宙】船なんだから当然でしょ。私たちが乗って来た宇宙船にもついてる。おまけに下に潜るときに使うエレベーターは重力設定が無茶苦茶にしてあったしね。おまけで!直しておいてあげたから」


「そりゃどーも」


恩着せがましく言うユミ大尉に軽口を叩いた後、髪飾りの女性は上を見上げる。


「どうかしたの?」

ユミ大尉がそう尋ねると髪飾りの女性は「別に」と答えた。

ユミ大尉と髪飾りの女性は敵、もしくは敵か味方かも分からない者に備えて動いていた。

だが、ユミ大尉が知らなくて髪飾りの女性が注意している人物が一人だけいた。


髪飾りの女性はその人物を敵か味方か。

まだ決めかねていた。


cccccccc

cccccccc


「未来から来た者・・・【弟】か」


「ああ…そこには気が付くんですね」


勢が言っていた『本来、あなたが収まっていたポジションにいた人物』

という言葉に坂倉は心当たりがあった。


髪飾りの女性たちは【弟】の事を坂倉だと誤認していた。そして坂倉だったからこそ助けたような口ぶりでもあった。

しかしあの時点では俺と髪飾りの女性たちとの間には何もなかったはず・・・俺にそんな価値はなかった。


少なくともこの世界の俺には・・・

坂倉はそこに【弟】とよばれる者の、能力の片りんを見た気がした。


「・・・・その【弟】は何が目的で未来から来たんだ。それに、お前は何でその事を知っている」

「【アレ】とは一応協力関係ですので・・・目的は悲惨ではない未来を見たかったから、だそうです」

「悲惨な未来を見たくない・・・」


それを聞いただけで分かってしまった。

恐らく【弟】がいた世界では宇宙人とは良い関係を作れなかったのだろう。宇宙人が持つ転移石がなければ、地球は終わる。


坂倉はほんの少しだけ未来から来た者に同情した。

そして肩の荷が下りて、ほっと溜息をついた。


なぜなら勢の話が本当なら未来から来た奴は悪い奴じゃない。

悪い未来を変えようとしたんだ。


実際今未来はいい方向に進んでるはずだ。


宇宙人は、こっちが持ってる赤い転移石で故郷に帰れる。

地球人は力をストックできる転移石のおかげで、地球を延命させることができる。

せっかく利害が一致してるんだ。

この世界は上手くいく。


そう、一人納得している坂倉に勢は言う。

「そんな、甘い話じゃないですよ」


「・・・俺、今…声に出してたか?」


勢はフーっとため息をついた後再度こう言った。


「あなたがここにいてくれてよかった。僕だけは宇宙人と戦います。あなたはオヤジさんの傍にいてください」


勢の目にはもはや坂倉は映っていなかったが、それでも坂倉は勢を止めようとした。


「待てよ!いま宇宙人と仲良くしようって動きになってる。宇宙人と戦う理由があんのかよ!」


そう坂倉が口にした途端、勢の表情が見る見るうちに変わっていく。

「宇宙人と地球人が仲良く?・・・ハハ、不可能です」

勢ははっきりとそう断言した。

何を根拠にそこまで言い切れるのか分からなかった坂倉は素朴な質問を勢にした。


「何でそう思うんだよ」

その瞬間から勢の表情が見る見るうちに変わっていく。


「あなたはまだ!…そんなことを・・・」


歯を食いしばり、言いたい言葉をどうにか抑え込むその顔からは怒り。

その後は疲れたようにため息をついて壁にもたれた。

いつも自分のペースを崩さない勢のそんな姿を見て坂倉は困惑した。


「おい・・・一体どうしたんだよ。俺なんか変なこと言ったか?」

「変?そうですね。あなたも僕もずっと前から変になってるのかもしれませんね」


会話が噛み合ってない。おまけにイヤな気配も感じる。しかし坂倉は勢の会話に合わせて話を進めた。何か重要なことがあるような気がして・・・


「どういう意味だ?」


勢は疲れ切った目をしていて、もういいやと言わんばかりにこの言葉を坂倉に投げつけた。


「未来から来たのはあなたなんですよ。坂倉 おさむ」



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