テンとパート15
日米共同基地
その地下には教授の秘密のラボがあった。
「ヒッヒ。調子はどうかの?テル大尉さん」
教授のご機嫌を取るようなゴマすりに、テル大尉は心の中で舌打ちした。
しかし今は表に出さない。
「問題ないわ。よくやった」
「おおー!そうじゃろそうじゃろ。五時間以内に機械の体が欲しいという無茶な要望にわしはちゃんと答えた。これでわしの命くらいは見逃してくれるんじゃろ?」
意地汚く生にしがみつく老人。
そんな老人をテル大尉は見向きもしない。
テル大尉は新しくなった自分の手足を確かめる。
見た目的には普通の右腕右足と変わらない。だが、その手足の重さはただの肉とは比べ物にならないの重さになっていた。この重さには教授の趣味…もとい技術が詰まっている。
「ところでテル大尉さん。治療ができる部下を先に帰らせたという事は、わしと秘密の話があるんじゃないかの?なんせワシ等とお主は・・・」
ガシャァン!!
教授が先走ったことを言う前に、テル大尉はさっきまで横に伏していた診察台を殴りつけ、教授を黙らせた。
機械の腕で殴った診察台はぐにゃりと変形し原形を留めていない。
「お、おォ・・ォ」
恐怖でろれつが回らない教授。
そんな教授に、テル大尉は近くにあったテーブルを指でたたきモールス信号で話をする。
≪その話はやめろ。アイツに聞かれてる可能性がある≫
睨みつけてくるテル大尉に、教授はプルプルと震え、ぺこりと頭を下げた。自分の軽率な言動を謝罪する姿勢をテル大尉に見せたかったのだ。
はたから見ると、この教授は少女に遜る老人である。しかし、腹の内は違った。
わしをなめ切ったこの態度・・・いつでも殺せると思ってるんじゃろ小娘?しかし、わしは作っておるぞ。わしが生き残る道を・・・
テル大尉の片目だけがうっすらと赤く光っているのを確認した教授は、
怒りを鎮め、ニヒッと密かに笑った。
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「ルイ・・・一日に何度も訪ねてすまないな」
「いえ…構いません」
真がルイを軟禁している部屋を訪ねるのは、これで三度目。
そのためか、どこか警戒したようにルイは尋ねてきた。
「それで今回はどういったご用件なのでしょうか」
「前に来た時に伝えれなかったことを言いに来た。いい知らせと悪い知らせがある」
こういった前振りは真にとっての心配りであったが、
・・・
「悪い話から聞きます」
ルイはそう思ってはくれてない様子だった。
「そうか・・・まず、エンカ大尉とテルの会話を盗み聞きした限り、テルが【人】信者の教祖だという事をエンカ大尉が突き止めた」
テルが【人】信者だった。しかも教祖。エンカ大尉は覚悟を持って、この事をテル本人に問いただしていた。よほど宇宙人にとって重要なことのはずだった。しかしルイにこの事実を突きつけても、驚いている風には見えない。
ルイはただ肩を落として「そうですか」とポツリと言う。
真にはルイがどういった気持ちでそう言ったのか分からなかった。
真は少し目をそらして話の続きをする。
「その後、テルとエンカ大尉は戦闘。その戦闘に俺とトムも加わって結果的にテルは全身大火傷と右腕右足の欠損。エンカ大尉はトムに力を奪われて意識不明になった」
この情報には目の色を変えて驚いているようだった。
「全身大火傷に、片腕片足が・・・それにエンカ大尉のほうも力を奪われ・・・」
ルイは口に手を当てて、喋る言葉もたどたどしい。
ルイには気の毒だが、この後もめまぐるしく事態が変わっていく事を真は伝えた。
「そのすぐ後に、宇宙船に侵入してきた髪飾りの女性が現れた。その女性に気を取られている隙に、エンカ大尉はユミ大尉が連れ去り、髪飾りの女性と一緒に消えたよ」
「髪飾りの女性…というのは私や真さんが戦った・・・?」
「ああ・・・あいつだ」
「ユミ大尉と一緒に?」
「ああ」
真は依然ルイに『ユミ大尉が裏切った』と言ったことがある。
その事が脳裏をよぎり、ルイの頭の中では否定ともしもの可能性が鬩ぎ合っていた。
ルイの葛藤はそれだけではない。
一度目の訪問で、真さんの無謀な目的を聞いた。
二度目の訪問はこちらの痛ましい歴史まで語り、説得しようとしたがイヤな顔をされて断られる。
三度目の今は・・・
真から聞かされる情報の一つ一つがルイの心を貪り削り・・・不安なんて生易しい言葉で片付けられないほどにルイの心は揺れた。
これから先の事を考えると心がバラバラに砕けたそうだった。
そんなルイに真はこう言う。
「いいほうの知らせをしようか?」
・・・・・・・
・・・・・・・・
「今さらいい知らせなんて・・・」
これだけ悪いことを聞かされ続けて、良い事と言われてもこの事態が変わるわけがない、とルイは心の隅で暗く思っていた。
ルイの表情と声色からその思いが滲み出ている。
だから真は優しく言った。
「ルイがはめている赤い転移石・・・それと同じものが見つかったよ」
放たれたた言葉を認識できずルイは真の目と向き合う。
真は改めて言う。
「ルイがはめている赤い転移石・・・それと同じものが見つかった」
「ほ、本当なのですか?」
真さんの言葉を素直に信じられず、ルイはつい再三の確認を求めてしまった。
「ああ。トムも一緒に確認している。髪飾りの女性が持ってた」
「・・・髪飾りの女性が?」
確かに以前、神獣様が単眼でない限りもう一つある可能性を考えたことはあった。だが、まさか地球にあるとはルイは夢にも思っていなかった。しかも持っていたのがあの髪飾りの女性。
戦った相手がこちらが喉から手が出るほどに欲しいものを持っている事態。だが、だからこそ問題の一つが解消される案件でもあった。
「じゃあ・・ユミ大尉は私に見切りをつけたわけではなく、転移石のために・・・」
「ああ。・・・向こうにとってもルイたちとは仲良くならなければならない理由もある」
ルイが軟禁されている間、尋ねてきたのは真を除いてはユミ大尉だけだった。ルイは少なくともそう認識している。
「そうですね。・・・ぁぁ、ユミ大尉に地球の現状がまずいという事を相談して良かった。ユミ大尉と髪飾りの女性の二人は、和解に向けて動いているのですね」
ユミ大尉が今の現状を良くないと思い、髪飾りの女性と平和に交渉した。
そんな姿を思い浮かべ、ルイは安堵と少しの笑みを見せた。
実際の所は、事の発端はムーンであり、髪飾りの女性とユミ大尉の個人的な仲は少々悪い。だが和解に向けて動いている点では間違いはなかった。
和解し、赤い転移石が手に入れば故郷にも帰れる。残る問題は・・・
「真さんは神を貶めて力を奪おうとしてましたけど・・・まだ、その考えをお持ちなのですか?」
「髪飾りの女性がいきなり赤い転移石を見せた時は・・・その考えを持ってた。でも今は、その考えを捨てたよ」
期待していた言葉が返ってきて、ルイはホッとした。
これで故郷に帰れる。
亡くなった者もおり、失ったものは大きい。私自身はとても重い責任を取らされることは間違いない。でもこれで、この宇宙船に乗っている皆に安心を与えることができる。
・・・ようやくこの宇宙船の総司令としての仕事ができる。
そう、思いを馳せているルイに真は言った。
「だから、ルイには最初の目的通り、地球人と仲良くなってほしい」
「え??」
終わりを想像していたルイにとって予想外の言葉。さらに流石のルイも戸惑うことを言われる。
「その第一歩として優香と仲直りしてくれ」
「優香?・・ユーちゃん!?・・・どうして真さんがユーちゃんの事を?」
「この船にその子が来ている」
「ユーちゃんが・・・でも、今の私の顔はとてもユーちゃんに見せられるような顔じゃ・・・」
ルイはそう言いながら元の顔に戻っている右上半分を手で覆う。
「私はこの顔を見られてユーちゃんに嫌われて・・」
「俺は彼女本人に会ってからここに来た。・・・あの子は、あの夜お前に言った言葉を謝りたいそうだ。会ってやってくれ」
「でも・・」
ルイは煮え切らない。よほどトラウマなのだろう。
「ルイ・シェインミード!」
「はい!」
いきなりフルネームで呼ばれ、ルイはおっかなびっくりで返事した。
「その友達の立場になって考えてくれ。ルイたちにとって宇宙船は家みたいなものだが、地球人にとっては宇宙船は未知だ。不安だと思う。それでも、ここに残った覚悟と決意を・・・」
「そう、ですね。・・・その通りです!」
ルイはそこまで言うと、いったん息を大きく吸い込みトラウマと向き合う覚悟を決めた。
「ユーちゃんは今どこですか?真さん」
ルイの目に、ようやく力が戻った瞬間だった。
これで真はようやく・・・本当にようやく本題を話せる。
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優香を閉じ込めている場所をルイに知らせた後、真は話を切り出した。
「ルイ、お前は幸せにならなければならない」
「そうですか。ユーちゃんはあの【弟】を閉じ込めてい・・・・真さん?今なんと??」
「お前は幸せになれ」
「ええぇ!!??」
さっきまで真面目な話をしていたのに急に何を!?・・・いえ、真さんは真剣な表情です。真面目な話だとするとこれはもしや・・・プロポーズ??
でも真さんからのプロポーズなら受けました。そして私はその時、真さんを受け入れ返事を「はい」と返して・・・・ない!
私、はっきりとプロポーズの返事を返していません!!
・・・・・
だから改めて!
改めて、プロポーズをし直したという事でしょうか!!!
ここは何と返事を返せばいいのでしょうか??
子供は何人ほしいですか
いやいやいやいや。
おかしいです。おかしいです。おかしいです。
とんでます。話が!
そもそも今現在私は真さんの事をどう思っているのでしょうか?
好き?嫌い?
ルイは、瞬きをする程のほんのわずかな時間に様々な想いを駆け巡り、そしてこの結論に至った。
・・・・こんな事考えても無意味ですね。
私に未来なんてない。ましてや誰かと幸せになるなんて。
だって私は・・・
「ルイは地球で起きた失態を全部背負うつもりだろう」
真にドンピシャで言い当てられ、ルイはドキッと心臓が止まる想いをした。
「宇宙船の乗組員全員、お前が不幸になる事を望んじゃいない。テルやトムに至っては自分や他人を犠牲にしてでも、お前の幸せを願っている」
真は嫌われる覚悟でルイの逃げ道を塞ごうとしたが、あっさりと躱される。
「・・・部下や仲間からそこまで思われて私は果報者ですね」
ルイは冷静に言葉を返す。
「でも私は総司令です。この船で一番偉くて、皆を正解に導かなくちゃいけなくて・・・失敗したら責任を取らないといけない立場なんです」
「違う!」
真は強くその言葉を否定した。
「責任を取らないといけないのは悪い奴だ。ルイたちをこんな目にあわせてる元凶。・・・・俺だ」
自分が悪いのだと、真は言う。
その瞬間ルイは鏡を見ている気分になった。そしてすぐに客観的に見る事ができた。
自分と真さんを。
「俺が日米共同基地の兵士を殺さなければ、こんな事態にはなっていない。そして、この出来事は必ずルイたちが地球と和睦するのに障害になる。だから俺を利用して地球人と仲良くなってくれ。ルイ、俺がお前と地球人の共通の敵になる」
真さんの喋るスピードは速く、急いでいるように見えた。
目は今ではなく、未来を見ている気がした。
「シナリオは考えてトムにも言ってある。反対されたが、俺が実際に動けばきっと動いてくれるハズだ」
真剣なのは伝わってくる。でも余裕がない。
だから私は真さんに…
「地球人の友達である優香が成功率を上げてくれる。だから優香の所に行く前に説明す…」
ルイは自分の両手で真の両目を優しく隠した。
突然の事に当然驚く真。
真が今の状況を理解する前にルイは正面から優しく語りかけた。
「真さん・・・少し落ち着きましょう」
「ル、ルイ?」
「真さん。失礼ながらこのまま聞いてください。今のあなたは、前からの目隠しに気付かないほどに視野が狭くなってます。一つの事に集中しています。それは決して悪い事ではありません。きっとあなたが考えたシナリオはよくできている事でしょう。ですが、ふとした瞬間に何かに落っこちてしまったりするんです。私のように」
ルイは地球を侵略しようと皆を大広間に集めた時の事を言う。
「私は地球を侵略するために皆を先導しようとしてました。ですがユーちゃんや他のクラスメイトと過ごした何気ない日々を思い出し、最後の最後でひっくり返したのです。結果は真さんも知っての通り、みんなに混乱しか与えてません」
「それは、俺がルイに地球を侵略するよう唆したから・・・」
そこまで口に出して真は今の自分を認識した。
「またか・・・俺はまた・・・」
「そう自分を悲観しないでください。決めたのは私ですし、その時は侵略しかないと思っていたのも確かなんです。でも今回真さんが考えたシナリオのように、まだ何かあるかもしれませんよ?あなたが悪役に回らずに済む何かが」
「そう…かもしれいけど・・・でも!」
「目隠しのお返しをさせてください」
「目隠しのお返し?」
「ペペ中尉とトト中尉の遺体を見つけた時です。あの時私は仲間が殺されて目の前がカッとなってました。さらにその後、急に暗闇にされて困惑しました。でも、こうしてまた目を開けた時・・・」
そう言ってルイは真の目から手を離す。
「ほんの少しだけ冷静になれたんですよ」
視界が開かれたその先には
暖かな微笑みをかけてくれるルイがいてくれた。
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「真さん。テル大尉は手足の欠損と全身の大火傷とのことでしたけど、今は大丈夫なのですか?」
「あぁ・・・テルの部下がちゃんと治療を…」
「真さん。私、嘘がわかるんですよ。ちゃんと話してください」
ルイは唇を尖らせて言う。
「・・・神様とやりあう予定だったから、テルには機械の体をあの…その…取付けさせた。あの老人に。丁度今頃終わったみたい・・・だと思う」
「エンカ大尉のほうはどうですか。転移石の力を奪ったそうですが、どれほどの量を?」
「途中邪魔が入ったおかげもあり、トムが言うには6割だそうだ」
「6割・・・何かしらの障害がでるか五分五分くらいですね。まあ、エンカ大尉なら大丈夫でしょう」
「エンカ大尉に対しては随分と軽いな」
「なんだかんだでエンカ大尉は致命傷にならないくらいで運がいいんです」
「単純に運がいいのではなく致命傷にならない程度に、というところがほんとエンカ大尉らしいというか・・・残念大尉だ」
「前みたいにエンカって普通に呼ばないんですか。真さん」
「エンカ大尉には死ぬような思いをさせてしまったから・・・でも許してくれたらまたエンカって呼ぼうと思う」
「それがいいと思います。大尉ってつけると他人行儀みたいですしね」
「それ言ったらルイは皆につけてるだろ」
「私はいいんです。総司令なのですから。威厳と礼節を弁えないといけないんです。その点でいえばテル大尉とトム大尉とは仲が良くなったんですか?」
「トムに関しては色々と世話になったよ。テルに関しては・・・さらに嫌われたかな」
「ふぁ、ファイトです!真さん!!」
「ハハ・・」
ただの現状確認のつもりが、いつの間にか冗談まで言えるにようになっていた。冗談を言うと切羽詰まっていた心に自然と余裕が生まれた。
「真さん」
ルイは手を差し出して言う
「ここまで来てしまったのは、私のふがいなさとあなたの傲慢です。だから責任を取りましょう。二人で」
傲慢
そう言われ納得した。
俺は何もかも、一人で結論を出してた。
「ああ」
真とルイが今日会うのは三度目。
その三度目にして、真とルイはお互いの手を取り合った。




