テンとパート14
トム大尉に言われ、真は記録室に足を運んでいた。
助手を二人配備しているという話を事前に聞いてはいたが、まさかこの二人だったとは真は思っていなかった。
「おー、真きたー」
「真殿!ささ、こちらへどうぞ」
出迎えたのはムーンといつも一緒にいた男の子のサンと、
地球人に好意的な感情を持っていたピルク少尉だった。
予想していなかった相手。
子供のサンと階級が低いピルク少尉、
頼りがいがあるかといえば嘘になる。
だがしかし、二人の自分を迎えいれる振る舞いは、真の顔をほんの少しだけ和らげてくれた。
ccccccc
ccccccc
「真殿どうですか?」
ピルク少尉が真に尋ねる。
そう言われ、真は俯いてこう答えた。
「なんか・・・いたたまれない。見ちゃいけないものを見ている気がして・・・・」
真はいま、ルイが学校生活を送っている映像を見ている。
日常的な風景しか流れてこないが、女の子の生活をのぞき見しているようで、なんだか悪い気がする。
いや・・・元々俺はこの時もルイを監視していた。
その時は聞き耳を立てて、音だけだった。
しかしこう・・・映像まで見せられると罪悪感がこみあげてくる。
「まあまあ、真殿。これも全てはルイ様のためですよ。侵入者が本当にルイ様のご友人なのか?会わせてもいいのか?・・・その調査なのですから」
「そう、だな」
ルイのためと言われ、再び映像に目を向ける真。ここでふと疑問に思ったことを映像を見ながらピルクに聞いた。
「ところでこの映像って、どうやってとってるんだ?」
「それはねー。僕たちにつけてる転移石が記録してるんだよ」
真の膝に乗っているサンがそう答えた。
「転移石が?」
「そうですぞ真殿。転移石の記録はこの宇宙船のコンピューターに記録されるようにルイ様が繋げております。つまりこの記録室にはルイ様だけでなく、この宇宙船に乗っている約100名の乗組員全員の活動記録が残っておりますぞ」
ピルクの説明に真は少し考える。
「それって・・・任務だけでなく日常的・・・プライバシーに関わる事も記録されてしまっていないか?」
「それは大丈夫ですぞ。記録といっても誰でも彼でも好きに、この記録室の情報を漁れるわけではありません。それこそ大尉以上・・・トム大尉やルイ様のような上の方の承認が必要ですし、それに本当にプライバシーに関わるときは支給されている転移石の力を抑えるカバーをつけてます」
真はピルクと初めて出会った時の事を思い出し、
「そういえば、そんな物もあったな」
と軽く言葉を返した。
そして、あの日の出来事を思い出していた。
「レンズをはめてたってことは裏切り者の可能性が出てきましたね、ルイ様」
髪飾りの女性と敵対する前、テル大尉が言っていた言葉。
ペペ中尉とトト中尉。
レンズカバーをはめ無断で地球に行き、髪飾りの女性に殺された二人。
何故、地球に行ったのか・・・未だに分かっていない。
【人】信者であるドメ大尉の直属の部下らしいが・・・
・・・・・・・
・・・・・・・念のため調べておくか。
「ピルク、地球に無断で降り立ったペペ中尉とトト中尉の活動記録を見れれるか?」
「え、あの二人のですか?中尉クラスの活動記録ならトム大尉の承認パスで問題なく見れますが・・・でも今はルイ様の活動記録を見たほうが・・・」
「ルイのほうも同時に見る。頼む。ピルク」
「・・・ハッ!わかりました真殿!」
ピルクはビシっと敬礼して真の頼みを受け入れた。
ピルクはお調子者であるが故に、誰かに頼られることが少ない。
ピルク少尉は使命感を持ってトト中尉とペペ中尉の活動記録を探した。
真はルイの活動記録を見ながら額に指を立てて考え込む。
ルイの友人は恐らく問題はない。会いたがっている理由もおおよそ予想はつく。
それよりも今は、こっちの内部事情をもっと知っておきたい。
もうテル大尉とエンカ大尉がもめた時のようなトラブルはごめんだ。杞憂で終わるかもしれないが、不安要素はなるべく消しておこう。
頭の中でそう思っていても、真にとってこの調べ事は物のついでであった。
何故なら当人の二人はもう死んでいる。終わった事。
そう思っていた。
しかし真は後で思い知らされる事となる。
ルイはこの二人を探して地球に転移し真と出会った。
この二人が殺されたことがきっかっけで地球人と宇宙人は敵対した。
この物語の始まりは・・・仕組まれたものだったという事を。
cccccccc
cccccccc
拘置所
その場所ではテル大尉とその部下数人。あとは教授がいた。
重傷を負っているテル大尉は診察台の上で仰向けになっている。
テル大尉は診察台をトン、トン、トンと指で叩く。
その様子を見ていた教授はニヒッと笑って
トーン、トントン、
と返す。
この二人にとっては意味のある行動だったが、近くにいたテル大尉の部下たちは二人が何をしているのか分からなかった。
しばらくそのやり取りが続いた後、テル大尉は自分の部下たちに、こう命令した。
「小型艇・・・を、用意して…」
そしてこの後、テル大尉と教授は人知れずこの宇宙船から出て行った。
cccccccc
cccccccc
真がトト中尉とペペ中尉の活動記録を見る事、三時間。
二人の活動記録の大半は地球についての勉強だった。
勉強といっても何か良からぬ事をするために調べてるわけではなく、ただ純粋に地球についての勉強。
当たり前ではあるが地球人と宇宙人とでは文化が違う。
言語、文字、習慣、社会、その他色々。
300年前に持ち帰った情報もあったが、日本語という言語以外はあまり役に立たなかった。
そして現代の地球の情報を収集していたのが、一人単身で地球に潜伏していたルイだった。
本来なら宇宙船のトップであるルイの活動記録は大尉複数名の承認パスが必要であるが、ルイの活動記録は大尉一名、もしくは中尉複数名の承認パスがあれば、自由に閲覧できるようにルイ自身が設定してあった。
ただ、ルイは何度か地球人に対して自分の姿を見せたらしいが、その時の映像は見当たらない。
恐らくレンズカバーを上手く使って地球人に対する悪いイメージを残さないようにしてたんだと思われる。
地球の情報を仕入れていたのは、そのルイの活動記録
・・・それと、蟲だった。
蟲
ピルクに聞いた限りでは、蟲はテル大尉一人が作った地球探索用の超小型機械監視カメラとの事。さらに地球人に、このカメラの存在を知られないようにするために、サンの擬態の能力によって地球に生息するただの虫にしか見えないようにしてあった。
この蟲は管制室で操作と映像の保存が行えるらしく、ペペ中尉とトト中尉の遺体を発見した時にも活躍したらしい。
真は色々と新しいことを知る事ができた。特に蟲については初耳だった。
しかし、真の知りたかった情報はなかなか出てこず、
「ハア~・・・」
・・・と真は深いため息をこぼした。
すると真の膝に乗っているサンが文句を言った。
「ちょ!?…真~、そんな間近でため息すんなよ~」
不機嫌そうではあったが可愛げがあるサンに、真は口角を緩ませながら返事した。
「ああ、悪いサン。活動記録がこうも勉強漬けだとは思っていなくて、つい溜息出てしまった」
「どんなの思ってたの?」
サンが不思議そうな顔をして真に聞く。
サンの眼は純粋そのもので、裏があって物事を調べていた真は真っ赤な嘘もつけず、中途半端なことを言ってしまった。
「・・・この二人はドメ大尉の直属の部下なんだろ?俺はそのドメ大尉とだけは面識がなかったからな。活動記録を見てドメ大尉の事を知ろうと思ってたんだ。次の戦いではドメ大尉の力を借りるらしいから」
しかし、このセリフは失敗だった。
サンは真の言葉を聞くと、
冷たく「・・・フーン」と相槌をうつ。
さっきまでの和やかな感じがしない。空気が変わった気配がした。
そしてサンは何も言わず真の膝から離れて行く。
「サン?」
不安に駆られ、真は名前を呼んだ。
「ちょっとトイレ」
そう言ってサンは振り向かずに記録室から出ていった。
バタンッと扉が閉まる音の後、静まり返る記録室。
「・・・・・・ピルク。俺、何かまずいこと言ったか?」
真の問いにピルク少尉は言いにくそうにして、質問に答えた
「ドメ大尉は女、子供が嫌いで有名なんです。それに十中八九、あの【人】信者ですからね」
「そっか・・・」
ピルクは具体的な事を言わなかったが、ドメ大尉がサンみたいな子供に、何かひどい事をしたことは理解できてしまった。
無神経なことを言ってしまった自分に真は苦笑いし、こう言った。
「ムーンだけじゃなくてサンにも嫌われてしまったかもな」
「真殿・・・」
ピルクは真の心中を察する。
「いや、いいんだ。俺は、お前らに見せちゃいけないものを見せてしまったんだから・・・」
俺が見せてしまったもの。
・・・・・・・
・・・・・・・・
それは俺が獣になって日米共同基地の地球人を殺しまくっているところ。
ルイが日米共同基地につかまっている時、ピルクは俺を宇宙船から逃がした手伝いをした。
そのことにより同胞から追い立てられていたのだが、サンとムーンが居合わせ、ムーンの透明化で何とかピルクは身を隠せれたらしい。
どうせ身を隠すなら真の応援に行こう・・・と健気な案が出て、小型艇を使い日米共同基地に行った。
そこでピルクとサンとムーンは獣になって地球人を殺している俺の姿を見る事となった。
幸いなことに俺は上空にいた小型艇に危害は加えてはいないらしいが、
しかしサンとムーンはそこで喧嘩になった。
喧嘩の原因はムーンが俺の事を【化け物】とぼそっと言ってしまったから。
ムーンが肌身離さず大事にしていた笛をサンは投げ捨てた。
サンとムーンはいつも一緒にいて、あんなに仲が良かったのに・・・そんなことが起こってなければきっとムーンも一人で勝手な行動はしてなかったはずだ。
本当に心苦しい。だから・・・
「・・・だからピルクも俺の事が怖いんなら、俺から離れても・・・」
バチン!!!
真は最後まで言い切ることはなかった。ピルクが両手で真の両頬を叩き、間近に来ていたからだ。
「真殿!怒りますぞ!!」
ピルクの行動に真は面食らう。思考できないでいた。
「あいつらはペペ中尉とトト中尉の・・・同胞の亡骸をルイ様に見せつける悪魔です!真殿はそれをやっつけた!それでいいじゃないですか!!・・・真殿はルイ様を助けた!!…それだけでいいじゃないですか!!」
ピルクの目は震え、泣いてるように見えた。
ピルクの目が、言葉が、真の心に突き刺さる。
真はまだ心ここにあらず状態に近かったが、お礼の言葉が自然と出てきた。
「ああ、ありがとう」・・・・と。
一方ピルク少尉は自分がしてしまったことに動揺を隠せないでいた。
「ああ、すいません真殿。自分は何をして…真殿に対して何て失礼を・・・」
慌てふためくそんなピルク少尉に、小さき者がロケット頭突きをした。
突然の痛みに、いつもの調子を取り戻すピルク少尉。
「イッたたたた・・・いったい何事でありますか!?…ってサン殿?トイレから帰ってきたにしては速すぎませんか。はッ!さては扉の前でさっきの会話聞いていましたな。この・嘘・つきー」
ピルクの茶化した言い方にサンはバシッバシッとピルクの膝を叩いた。
そして、振り返り真に言う
「真!トイレに行ってきただけだから!!」
子供ながらにサンは気を遣っているのか、見栄を張りたいのか
・・・どちらにせよ。真はその言い分を素直に受け取った。
「ああ、分かってるよ」
でも、つい余計な事も言ってしまった。
「サンが戻ってきてくれて、うれしい」
サンは膨れっ面になって真の膝を軽く叩く。
「はは、ごめんごめん」
真はサンに軽く謝る。そしてもう一度言った。
「俺のそばにいてくれて、うれしい」
きっとこのうれしいという気持ちは自分だけではどうにもならない。他が自分を認めてくれた時だけに与えられるもの。
・・・・・・・・
・・・・・・・・
「ルイにもこの気持ちになってほしいな」
学校生活を楽しそうにしているルイの映像を見ながら真は心の底からそう思い、
言葉にした。




