イチとパート9
坂倉と郷間、そしてムーンは透明化の能力を使って、見渡しが悪い所まで来た。
その場所まで来ると郷間は宇宙人であるムーンを無造作に手放し、話を切り出す。
「どういうつもりだ。宇宙人のガキ」
ムーンは少し震えながらも、しっかりとした目で答える。
「ルイ様を助けてほしい」
訳の分からないことを言う宇宙人の子供を、郷間は蹴り上げた。
「ちょ、おい郷間」
いくら相手が宇宙人だからといって、その光景は非道というには十分だった。
坂倉がやりすぎだ、と抗議しようとしたが・・・
「お、・・・お願いします」
ムーンが蹴られた後だというのに、郷間に頼みごとをする。その姿を見て言葉を失った。
坂倉だけではない。郷間もまた、この宇宙人の子供をどうすればいいのかわからなくなっていた。
・・・いや最初からわからなかったから郷間は拒絶して蹴ったのだった。
「・・・なんなんだ、お前・・・・何が助けてくださいだ?たくさん人を殺しておいて・・・・・」
「たくさん人を?」
「お前らが基地のやつらを殺したんだろうが!」
郷間が怒鳴りつける中、ムーンは落ち着いて言葉を返した。
「違うよ。私たちじゃない。真がやった」
「は?」
ムーンの信じられない言葉に坂倉は反応する。真が?人殺し?
同じ孤児院で育った坂倉にはとても信じられなかった。
「ま、待ってくれ。なんで真が基地のやつらを殺すんだ。理由なんてないだろ」
「ルイ様が基地に捕まって、それで・・・」
「またルイ様か・・・何なんだそいつ」
「私たちのリーダー」
「は!だったらその宇宙人のリーダーを助けるために、その真は基地のやつらを殺したのか。宇宙人が殺したようなもんじゃねえか!」
「違う!!ルイ様は自分から基地に向かった。話し合いをするために・・・。ほかの皆もルイ様の帰還を待ってた。・・・でも真が…」
「勝手に助けに行った…てか。どうでもいいよ。宇宙人のそんな事情」
そう郷間からバッサリ切り捨てるように言われ、ムーンは涙目になる。
ムーンは12歳の女の子である。
そんな子が真の凄惨な殺しを目撃し、ルイ様は監禁された。
どうにかしなければと思い、
不安でいっぱいになりながらも、地球の人と接触した。子供ながらに使命感を持って行動してきたムーンだった。だが、そのストレスは子供には酷なものであった。
「ぐすッ・・ぅう・・うえ‥‥・・」
「お、おい泣くこと・・・」
ここでムーンの緊張の糸が完全に切れてしまう。
「わあああああああああああああ!!」
ムーンは堰が切れたように泣き崩れた。
「おい坂倉どうにかしろ。このままだと、さっきの宇宙人に見つかる」
「どうにかしろって言われても・・・」
坂倉は戸惑いながらも孤児院でのことを思い出す。たしか泣き崩れた子供にベルさんはこうしてたはず・・・
坂倉はムーンの後ろに回り背中をさすってあげた。
「う、ぐす・・・」
少しは弱まったけど、またすぐにぶり返してしまいそうな雰囲気がある。ムーンは前が物寂しいのか小さなお手々を伸ばしていた。
「おい郷間、前頼む」
「はあ?なんで俺が・・・」
「背中さするの止めたらまた大泣きするかもしれないだろ」
「ぐ・・・なんで俺が・・・・」
郷間は仕方なくムーンの前まで行き、座った。するとムーンは郷間のズボンを力の限り握りしめた。そして寄りかかるように郷間の膝の上に自分の顔を乗せ、涙を押し付ける。
「おい、宇宙人!勝手に・・・」
と文句の続きをを言いそうになった郷間だったが、ムーンがビクっと震えたため、それ以上何も言えなくなってしまう。
「郷間」
坂倉が、大人になれと言いたそうに視線を送っている。
「クソガキが。鼻水付けんじゃねえよ」
そういいながらも郷間はムーンの頭をやさしくなでることにした。
触れた時こそムーンは気が気でなかった事だろうが、それもしばらくすれば手のぬくもりを感じ、安心感へと変わっていく。
こうしてムーンは精神的に疲れてたこともあり、気持ちの良い眠りについていった。
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
「ようやく泣き止んだか?」
「泣き止んだっていうよりも寝たな」
ムーンが寝たことにより安堵する二人。郷間は宇宙人の子供の寝顔に見入っている。
「頼んでおいてなんだが、お前よく協力してくれたな。あれだけ宇宙人殺す殺す言ってたのに・・・」
坂倉がそんな質問をしたが、郷間からすぐに返事が返ってこない。
やっぱり怒ってるのだろうか・・・
そう思っていたが違った。
「俺は宇宙人が憎いのとは少し違う。・・・怖いんだ。」
郷間の口調が普段と全然違った。そして語りだす。
「俺たちは・・・いや俺は、宇宙人という敵から弱い人たちを守る選ばれた人間だと思っていた。力があるのは自分たちだけ。宇宙人と渡り合えるのは自分たちだけ・・・そう‥思ってたんだ」
しおらしく言う郷間に坂倉は口を閉ざす。
恐らく郷間はさっき水を操る宇宙人に手も足も出なかったことだけを思ってこの言葉を吐いていない。地上の近代武器や兵器にも劣等感を抱いている。・・・そう感じた。
「そんな力を持ってるはずの俺がとった行動が見るからに非戦闘員の子供を人質に脅迫。・・・俺がガキの頃思い描いた予想図は、こんな感じじゃ無かったんだけどな・・・」
・・・・・・・・
・・・・・・・・
しばしの沈黙。郷間のこの言葉に坂倉はなんて声をかけていいのか分からなかった。
励まし?
叱咤?
どちらも違うような気がする。少なくとも部外者である俺がいう事ではない気がした。
そう思っていたら郷間はフッと笑った。
「お前に愚痴を言うなんて・・・俺はどうかしてるな。忘れてくれ」
そして郷間は寝ているムーンを背にからう。・・・別の表現で言うとおんぶ
「え?おい・・・どうするつもりだ」
「これから地下に戻る」
「そいつを連れてか?」
「こいつは透明化できる。敵になるんだったら怖い能力だ。手元に置いておきたい。それに、こいつ自身望んでたことだ。文句はねえだろ」
「・・・」
郷間の顔つきが変わっていた。まるで憑き物がとれたみたいに。
それに、
敵になるんだったら・・・か。
弱音を吐いて見せてくれたからだろうか。
それとも顔つきがとっつきやすく見えたからだろうか。
坂倉は郷間に初めて意地悪をしたくなった。
「おまえ、その子のお腹蹴った時、痛くないように手加減しただろ?」
郷間は無言で坂倉から背を向け歩を進めた。
坂倉は冷やかしたい気持ちを抑え、その後を追っていくのだった。
ccccccc
ccccccc
「おい、起きろガキ」
郷間は地下施設に入る前に上体を揺らしてムーンを起こそうとする。
「ム~」
ムーンはまだ寝たそうにしていた。
「このまま寝かせといたらどうだ?」
「地下の入り口には、いつも自衛隊の兵士がいる。余計なトラブルを起こさないためにも、こいつには透明になってもらう。・・・おい起きろ。ガキ」
郷間は再度上体を揺らしてムーンを起こした。
「ナに~」
「自分の体だけしばらく透明にしてろ」
「わか…ったー」
ムーンはまだ寝ぼけている様子だったが郷間の言われた通り透明になった。
「よし、行くか」
ccccccc
ccccccc
郷間、ムーン、坂倉は無事に地下施設に着いた。その頃になるとムーンの目はバッチリさえていた。
「わ~すごい。きんいろ。きんいろー」
地下施設の黄金色の風景を見てムーンは、はしゃいでいた。
「おい静かにしてろガキ。お前は姿を消せれても声は聞こえるんだ」
「う、うん。わかった」
「それから降りろ」
「あ、はい」
「降りたら俺の服をつまめ」
「はい。つまみました」
「よし。ついてこい」
「お、…おー」
・・・・・・
・・・・・
坂倉は二人のやり取りをじっと見ていた。
「なんだよ坂倉」
「・・・いや…何でもない」
仲良いな。と言いたかったが、あんましイジるのはよくないなと思い止めた。それよりも・・・
「これからどこに向かうんだ?」
敵の子供を秘密に連れてどこに向かうのか本当に気になる。
「そうだな・・・とりあえずは、長老の顔でも見に行くか」
そう答えた後、何故か郷間は遠い目をしていた。




