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イチとパート1

これは真が宇宙船で起き上がる前の出来事。


ワニ寺公園。

真夏の真昼間の中、さびれたその公園のベンチに一人の少年が座っていた。その少年の名前は、坂倉おさむ(17)


坂倉はその場所で待ち合わせをしていたのだが、相手は数時間待っても現れない。

坂倉は空を見上げて、真夏の暑さにイライラしながら感情を口に出した。


「あっちー、真ニイ全然来ねえじゃねえか。一体、今何してるんだよ」


坂倉の待ち人は宇宙人に結婚を申し込んだ林田真だった。その林田真は宇宙船に連れて行かれている。真がここに来れるハズがなかった。しかし、坂倉は苦しくても真を待たなくてはいけない理由があった。


「あ~、…オヤジさんとの間を取り持つ約束してたのになー。死ぬ~…あと一時間だけ待とう」


坂倉は孤児院出身である。その孤児院にはオヤジさんと呼ばれている人物がいるのだが、坂倉はその人とケンカ別れして15歳の時に孤児院を飛び出していたのだ。

しかし15歳の一人の少年が世の中を渡って行けるわけもなく、こうしてまた泣きつく羽目になっている。そして、そのオヤジさんとの仲介をしてくれるのが坂倉にとって孤児院の先輩である真だった。同じ孤児院で育った坂倉は真の事を真ニイと呼んでいた。


坂倉は何時間でも真ニイを待つつもりでいた。切羽詰まっていたこともあるが、何より真ニイが約束を破るとは到底思えなかったからである。だから、『あと一時間だけ待つ』そう何度も口に出した。


しかし、火照った体が少しだけ冷え、辺りが暗くなり始めたころ、坂倉はボソリッと言った。


「もう日が落ちる寸前。来ないのか・・・真ニイは」


坂倉は自分の横に置いてある空のペットボトルを指で数えた後、そのまま財布の中身を見るのだった。


「残り77円。缶ジュース1本も買えない」


坂倉の今の心境は鉄骨渡りをしている気分だった。

そしてその数秒後、


坂倉はその鉄骨から突き落とされる感覚を味合う。


坂倉は化け物を見た。


まばたきを数度繰り返してみるも、その化け物は消えない。

その生物にはキバや鋭い爪があるわけでもない。危ない生き物ではないのかもしれない。しかし薄暗くてよく見えないにもかかわらず、一番最初に来るものは近寄りたく無いという嫌悪感だった。何かに例えるなら二足歩行のカエル。気持ち悪い。しかも二匹もいる。

ヒタ、ヒタ、ヒタ。

二匹のバケモノはゆっくりと近づいてくる。


坂倉は逃げ出そうとしたが体にうまく力が入らない。それどころか吐きそうだった。


ヒタ、ヒタ、ヒタ。

バケモノは容赦なく近づいてくる。得体の知れない者への恐怖がどんどん心を侵食していき頭の中はショート寸前だった。

ゆっくりと、ゆっくりと、

ヒタ、ヒタ、ヒタ。

ゆっくりと、ゆっくりと、

ヒタ、ヒタ、ヒタ。ザシュッ


足音以外の効果音とともにバケモノの腹に日本刀が突き刺さる。


「ァ・・あが・・ああー」


バケモノは悲鳴にも似た声を発しながら、せあわしなく腕をバタバタとさせている。気持ち悪い。もう一体のバケモノは驚いているのか大きく口を開いて固まっている。

そして一瞬のうちにバケモノの胴体は高く高く切り上げられた。そこに一人の女性が映り込む。


その一瞬、

坂倉は運命を感じた。


血しぶきが盛大に飛び交う様はグロテスク。なのに綺麗だと思ってしまう。

周りの薄暗さ、血しぶき、見たことがない化け物でさえその者の美しさを際立たせるための装飾品。

そう思ってしまうほど日本刀を持った彼女は美しかった。


坂倉が見惚れている間に女性はもう一体の化け物の首を一太刀で切り落とす。

血の雨を降らせ、胴体が切断された遺体と首を切断された遺体が転がっている中、日本刀を持った女性は坂倉を見てこう言った。


「安心して。ワタシ正義の味方だから」


背が高く髪飾りが特徴的な女性と

この俺、坂倉おさむ(17)との出会いだった。


cccccccccc

cccccccccc


「おっそい!早く来なさい!」


坂倉は怒鳴られながら正義の味方と名乗る髪飾りの女性の後ろをしぶしぶついて行く。


「なんで俺がこんな目に。しかもこんなものを持って・・・」


そういいながら手に持っているものを確認する。それはあの女性が首を切り落としたバケモノの死体だった。気持ち悪い。


「なんだったら交換するー?こっちの方が軽いわよ」


そういいながら上半身のみのバケモノを軽く振る。切り口からは今なお血がしたたり落ちていた。


あんなもの持てるか!あれ持つくらいなら首なし死体の足首をもって引きずったほうがまだマシだ。ていうか、このままアイツについて行っていいのか?


坂倉は改めて髪飾りの女性を見て、思う。

・・・・・正義の味方じゃなくて異常者がピッタリだろ!あの時のときめきを返せ!

そしてコイツ・・・


「おーい。聞こえてんのー。返事しなさいよー。ヘタレー」


そして性格悪い!!!


そうこの女、バケモノに襲われそうになって心が疲弊しきっているのにもかかわらずバケモノの死体を押し付ける奴だった。

助けられたという手前はある。運命も感じた。

しかしいきなり死体を持てとか無理だから。もちろん最初は断った。だが・・・


「いいからこっち持って運べ」


日本刀という凶器を持った人から低い声であんな風に脅されたら誰だって従うしかない。もう一回俺は思う。今のアイツは正義の味方じゃない!絶対!自衛隊とかいってたけど嘘だ!!


そんな風にブツブツ思いながら下を向いて歩く。すると下を向いていたため坂倉はアスファルトに亀裂が入っていることに気が付いた。


「なんだこれ?」


ちょっとしたヒビなどではない。明らかに補修工事が必要なレベル。その亀裂はどんどん広がっていきその亀裂から何かが飛び出してきた。


「うわああああああ!」


坂倉の足首をつかみ、宙ずりにしたしたそれは

植物だった。


ありえない。太いところで豚の胴ほどもある。

その植物はウネウネとやわらかく動いていた。そしてこれには何か意思というものをはっきりと感じられる。


「助けてくれーー!」


坂倉は情けなくも叫ぶことしかできない。


ザシュッ


気持ちのいい斬撃音が鳴った後、足首をつかむ力が弱まった。坂倉が地面に急降下する中やわらかい何かが坂倉を包み込む。


「あんたって・・・情けない男ね」


お姫さま抱っこで抱えられた坂倉は悔しくて赤面した。

着地と同時にこの女性は坂倉をお姫さま抱っこの体制から片手持ちに変えた。なぜかまだ抱きかかえられたままだ。


「おい、離せよ!」


坂倉は女性の顔を見て怒鳴るが髪飾りの女性は見向きもしない。坂倉は女性が見ている方向を見た。そこには坂倉と女性が無造作に放り出したバケモノの死体を植物が優しく運んでいる・・・その先に信じられない人物が立っていた。


「・・・・・真ニイ?」





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