宇宙船の中の攻防7
一瞬で幸子の足が吹き飛ばされた事により、ミミさんたちはこの場から逃げ出すことができない状況が生まれた。それどころか一人の敵を前に、何もすることができない。
ミミさんたちは緊張した様子で、余裕のある敵を見据えていた。
しかしトム大尉にとっても不安の種はあった。
さっきルイから【天元の間】に入り地球に転移する、とだけ連絡があった。・・・ということは、侵入者は捕らえるのではなく、この宇宙船から逃がす方向でいくのか。だったら無理してこいつ等を足止めする必要はないが・・・
正直な話、この地球人たちは捕らえて故郷に連れ帰った方がいいような気がする。地球の調査を開始して三年、これといった成果がない。
300年前の実験体の子孫。当初の目的とはだいぶかけ離れているが、何も持ち帰らないよりかは幾分か体裁を保てるだろう。
・・・こっちは二人、死人も出ている。
ここまで考えたトム大尉だったが、すぐにこの考えを切り替える。
いや、ルイの考えに従おう。
殺された二人・・・トト中尉とペペ中尉は小型艇を使い無断で地球に降り立って殺された。裏切者の疑惑がある。それに階級も中尉だ。
まだ、立場が悪くなるだけで制裁までは下されないレベル。名誉の挽回は地球とは関係ないところでやればいい。
そんな打算を考えていたトム大尉だったが、トム大尉はまだ知らない。カイ大尉が死んだことを・・・。
ルイは必ず反対意見が出ると思い、カイ大尉の死をトム大尉には報告していなかった。
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「ガ嗚呼あああ」
髪飾りの女性は叫んでいた。
叫んで叫んで・・・・地面をのたうち回っていた。
・・・・片目を押さえつけて・・・
「コ・・の・・・やめ、ろー!!」
女性はそう言って痛みの元凶である義眼を引っこ抜いた。
「ハア、ハア・・・」
正気に戻った髪飾りの女性には疲労の色が見れる。おまけに片目からは無理やり引っこ抜いたためグロテスクに血が流れ出ていた。
「クソ、いったい何があった?」
女性は自分の血が付いた義眼に話しかける。
義眼からピ,ピ,ピ,と光る点滅信号が出される。女性はその信号を解読する。
「私、暴走、仲間、ピンチ、背後、行先・・・まあ大体わかったよ」
女性は勢が送ったモールス信号を理解した後、手に持っていた刀を鞘に納める。
そして振り返り仲間の元へ歩を進めようとした。
だが・・・
「ハア・・・最悪」
女性は振り返ったばかりだというのに、もう一度体を反転させる。そこには、さっきまで誰もいなかったのに二人の人物が立っていた。
「アホ毛と・・・・もう一人は誰だ?」
「では真さん、気を付けてください」
「ああ」
二人はそんな会話をした後、アホ毛だけが姿を消した。男は残っている。
男は構えて戦う姿勢を見せた。
「・・・私、忙しいんだけど。見逃してあげるから消えてくれない?」
男は低い声でこう言ってきた。
「あまり俺を舐めるなよ」
その瞬間、男が消えた!
・・・かに見えた。それほどの動き。
片目だけだったためと、またアホ毛の力と思っていたため、髪飾りの女性は、男の動きに反応が遅れてしまい刀を抜く暇がなかった。
防御に徹っしたが、真の勢いの乗った上段蹴りはガードの上からでも女性にダメージを与える。
「ガはっ」
踏ん張り切れず壁にたたきつけられた。ガードした腕もしびれる。
こいつ、下手したら私よりも・・・強いかもしれない。
「クソ、宇宙人どもめ・・・」
仲間はピンチ。その時に現れる強敵。引っこ抜いた右目も痛い!
・・・・・・・
・・・・・・
「まあ…あくまで素手の戦闘なら、て意味だけど!!」
圧倒的不利。でもここで弱気になる彼女ではない。フラストレーションがたまり切っている髪飾りの女性は目をギラつかせ、勢いよく刀を抜いた。
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お、おお。
真さん・・・相手が女性でも以外と容赦ないんですね。
ルイは転移した先で最初だけでもと思い、真と髪飾りの女性の戦いを見守っていた。
ユミ大尉たちの前では周りをよく見て、守りに徹している戦いをしていましたが・・・
一人だと結構積極的に攻撃してます。動きも今までよりもずっと速い。
あんな戦いをしていて危なくないのでしょうか?
わっ!・・・真さん時間稼ぎでいいって言ったのに、あんな危ない戦い方して・・・
ルイはドキドキしながら真と髪飾りの女性の戦いを覗き見していた。そしたら、この人物に声をかけられる。
「ルイ様、【天元の間】ではすでに準備ができております。こちらへどうぞ」
テル大尉は労う様にかしこまった言い方をしてお辞儀する。これから入る部屋はそれだけルイに負担がかかる部屋だった。
【天元の間】
その部屋は名前からとれるイメージとは裏腹に、仰々しい管が天井一面びっしり敷き詰められている。その管は中央の所で螺旋状に絡み合って垂れていた。
ルイはこの管と繋がることになる。
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「ウっ」
「全部つなぎ終わりました。ルイ様」
「・・・・ありがとうテル大尉」
天井近くでは図太い管も、ルイに取り付ける所までくれば直径数センチの細さになっている。その管は先に小さい針があり、その針でルイの体の至る所に貼り付けられていた。
血がにじみ出ることはないくらいの細く小さい針。それでもチクリとした痛みは不快でしかなかったはずだ。
「ルイ様、大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫です。それにここからが本番です」
この管はこの宇宙船のシステムコンピュータと繋がっている回線だった。この回線を通してルイの意識をコンピュータと同調させる。
宇宙船がルイの体の一部となるための荒業。
しかし同調にはデータをダウンロードするように幾何かの時間が必要だった。
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ミミさんたちは、トム大尉の言う通り一歩も動くことなくただ時を過ごす事しかできなかった。しかし身動きが取れず立っているだけというのはキツイ。
おまけに動いたら足が吹き飛ばされる緊張感。不安。
それがずっと続く。苦行である。
ミミさんたち地下出身者にはどうという事もない事であったが、一般人である坂倉に耐えきれるはずがなかった。
坂倉は顔面蒼白になって、前のめりに倒れこんだ。
坂倉が倒れたことを機に、幸子の足を吹き飛ばした宇宙人は坂倉に指を向けた。
「待て!!疲れて倒れただけだ!攻撃する必要はないだろ!」
ミミさんが坂倉を気にして声を上げる。
トム大尉は無機質に言う。
「何かを仕掛けるための演技の可能性がある。言ったことを実行させてもらう」
トム大尉は坂倉に攻撃の姿勢を止める気配がなかった。
そんな時、片足を飛ばされ、うつ伏せに倒れている幸子が言った。
「あははー。だったらおかしいなー」
トム大尉は幸子が言った言葉に耳を傾けた。
「何がおかしんだ?」
「そんなに私たちのことを警戒しているならさー、私の首を落としとけばよかったのにー・・・て事だよ」
幸子の目には反撃の意思が見て取れた。
トム大尉はすぐさま坂倉から幸子へ攻撃対象を変えた。しかし、時遅し。
幸子の攻撃が先手を取る。
「ガァっ」
トム大尉は足先から強烈な痛みを感じた。
足元を見ると奇妙なものを見た。
指だ。
床から生えた指がトム大尉の右足をガッチリと掴んでいた。さらにその握力はゴリラ級でトム大尉の足先を握りつぶしそうなものであった。
「ぐう・・」
トム大尉は苦悶な声をあげながら右足先にまで高エネルギーの膜を張った。
足をつかんでいた指と同時にトム大尉の能力で床が蒸発する。
「クソ、船に穴開けちまった。床には重要な配線があるっていうのに」
トム大尉が言うようにそこは重力制御装置の配線が敷かれてる空洞があった。だが明らかに配線とは異なるものも混じっていた。
「なんだこれは?」
トム大尉が蒸発させた指・・・いや手と繋がっていたものだ。
それはワイヤーロープみたいな物が螺旋状に編み込まれていた。床下を通ってここまで来た。
どこから?
もちろん目の前の敵からだった。
しかし今はその敵はもういなくなっていた。
トム大尉が足元に気を取られている隙に坂倉たちはトム大尉から逃げおおせていた。
あるのは幸子が倒れそうになった時に手をついてあけた穴と、切り離された腕の一部だけ。
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幸子は片足でトントンと跳びながら、ミミさんたちに並走する。
「ありがとー。上手く攻撃できたよー」
幸子は片足と片腕が無い状態というのに、のんび~り口調でお礼を言った。
「最初、お前が手をついて床に腕をめり込ませたときは、妹がそんなに体重が重くなったかと思って俺は悲しくなったぞ」
「あははー、にいちゃん後で覚えてろよ。こんちくしょう」
郷間に対して幸子はのんびり口調ではなく早口に言う。
「片腕無くて平気か?幸子」
「うん、ヘイキー。腕はー、あの宇宙人にプレゼントしたよー」
幸子は片足を吹き飛ばされた時に倒れそうになった。その時に片腕をつこうとしたが腕が床にめり込んでしまう。
トム大尉は、機械の体の重さでそうなってしまったと判断したが、実は違う。
幸子は頭と脊髄を残して全身機械に教授に改造されているのだが、その体には教授の趣味がめちゃんこ詰まっていた。
そのうちの一つに伸縮自在の腕があった。
幸子はこの腕を使いトム大尉の足を攻撃する機会をずっと伺っていたのである。もっと言うなれば髪飾りの女性が来た時に使う予定であった。
ちなみに、その予定を組み立てたのは林田勢である。勢は義眼を通してミミさんたちに指示を送っていた。
つまり義眼じゃない坂倉だけがこの作戦を知らなかった。
坂倉はその説明をミミさんに抱えられながら聞かされる。
「・・・じゃあ俺が倒れたせいで、その作戦は失敗したってことか」
坂倉は気落ちする。
何かの役に立ちたいと思っていた。しかし、今のところ足手まといにしかなっていないじゃないか。
坂倉は自分の無能さに苦虫をかみしめる思いをした。
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ミミさんたちと坂倉は体育館のようにひらけた場所に出る。
そこは真がユミ大尉やエンカ大尉たちとともに模擬戦闘を行っていた場所だった。
そしてその場には何故かこの人物がいた。
「おや?おやおや??、もしかして地球の方でありますか?」
その者は侵入者であるはずのミミさんたちに気軽に話しかけてきた。
その者の名は地球人に対して憧れを持っているピルク少尉であった。