テンとパート5
「デデン!
この場に集まっているのは・・・
三年という長い期間の中で初めての地球からの客人・・・
林田 真
元、転移石選別教官・・・
ユミ大尉
【帰天】と呼ばれる生まれながらにして超能力が使える希少な存在・・・
サン&ムーン
回復ならこの人にお任せ!内気な性格だが意外とファンが多い・・・
キュア中尉
残念大尉・・・エンカ
であります!!」
「・・・であります!!じゃねえよ!俺の紹介はなんだ!?」
ふざけた感じに人物紹介をしてたピルク少尉にエンカ大尉はゲンコツをお見舞いした。
「タタた・・・残念大尉、イタイであります」
「よーし、お前が俺の事をなめていることはよくわかった。そこになおれ!」
「まあまあエンカ。それだけ親しみやすいってことだから落ち着こう」
客人であるはずの真が間を取り持とうとする。
それは何故か?理由は他の人がそういったタイプではないからだ。
「やったねエンカ大尉。親しみやすいよエンカ大尉。いや残念大尉」
ホラもう・・・ユミ大尉がすぐにあおってきた。そしてサンとムーンもそれに便乗する。
「残念♪残念♪残念大尉(^^♪」
「ピーピ♪ピーピ♪ピー(^^♪」
「誰が残念大尉だッこのババア!お前は一生結婚できねえよ‼!」
「アアン怒、もういっぺん言ってみろや、このゲドサレ畜生が!」
エンカ大尉は分かっているのにユミ大尉の地雷を踏みつける。ユミ大尉はもう少し女らしい言葉遣いを・・・ゲドサレ畜生ッてどいう言う意味ですか。
真はもう間に入ることができなかった。
あおり好きのサンとムーンでさえあまりの迫力にプルプル震えている。
事の発端になったピルク少尉はめっちゃ引いていた。物理的に。
二人は今すぐにでも超能力バトルをおっぱじめようとする雰囲気だったが、ここで待ったがかけられる。
「あ、あの!!」
キュア中尉が大声を出した。いきなりどうしたのだろう?
実はずっと前からキュアは意見を挟みたかったのだが声が小さくて誰にも聞こえていなかった。そんな彼女は音量を間違えて大声を出したのだ。
皆がキュアに注目する中、彼女は恥ずかしげに言った
「わたし・・・ファンなんていません」
涙目になって訴えた事はこれだった。
そんなキュアにさっきまでいがみ合っていた二人は同時に肩をたたく。
「そんなことないよ」・・・と優しく言いながら。
「キュア、あなたはもっと自信を持ちなさい。それさえ持てば大尉にだってなれたんだから」
「そうだぞ。ちなみに俺はファンクラブ会員ナンバー007だ。もっと自信もて」
いや、ユミ大尉はともかく、エンカ大尉。それはないよ残念大尉だよ。
・・・・と誰かが言う前に真は質問した。
「そういえば中尉とか大尉とか階級があるみたいですけど他にも階級とかあるんですか?」
「少尉がありますぞ。真殿」
ピルク少尉がもう危険がないと判断したのか近づいて言ってきた。
「いや、そういうことじゃないでしょ。・・・真君は私たちがどういった組織なのか理解してる?」
ユミ大尉が元の口調に戻ってた。
「地球を調査する組織?」
「ン~当たっているんだけどちょっと違う。組織の百万分の一しか地球の調査をしてないわ」
「ひゃ、百万分の一ですか?」
流石にこれには驚く真。
「そう。なんてたって私たちの星一番の組織だからね。そしてその構成員全員にコレがつけられている」
そう言って見せたのはユミ大尉の転移石。右腕に付いており透明がかった水色をしていた。
「それでこの転移石には純度があるのよ。その純度が高いほど強い超能力が使える。そして最も純度の高い転移石を持つことを許されているのが大尉ってわけ」
「・・・ということは大尉より上の階級はないってことですか?」
「その通り。さすが一目見ただけでルイちゃんに求婚する男」
「でもテルはルイの事、ルイ様って呼んでましたよ」
「ぁ、スルーしちゃうんだ。別にいいけど・・・ルイちゃんの転移石は見た?」
「・・・赤かったです」
「そうね。ルイちゃんのは特別。この世でたった一つしかない唯一無二のものなのよ」
「唯一無二・・・」
ここでピルク少尉が追加説明をした
「さらに付け加えると、この船には大尉が六人・・・ルイ様も一応大尉という位置づけだから七人この宇宙船に乗っております。約50人しかいない大尉の内七人もこの船にいますぞ真殿。数は百万分の一ですが質は半端ではありません。ちなみにこの七人、地球人の姿になれて羨ましいですぞ!」
真は知っている大尉を指を折って数えた
ルイ
テル
カイ大尉
・・・トム大尉
そしてこの場にいるのが・・・
ユミ大尉
エンカ
あとはサンとムーン?
「あれ、八人いない?」
「ああ、違う違う。サンとムーンは大尉じゃない。素がその姿なんだよ。ちなみに階級は少尉だ」
エンカに言われてサンとムーン、二人の子供をじっと見てみる。
たしかにサンは顔、ムーンは手の甲に宇宙人特有の模様があった。でもそれだけだ。それ以外は地球人その者の姿をしている。
「その子らの祖先には地球人の血が混じってるんだよ。今では地球姿の子が生まれるのはめったにいないが昔はちらほらいたらしいぞ」
ここで耳よりの情報が飛び込んできた
「地球人と子供作れるのか!?」
「おお、生まれるぞ。ハーフ位なら大体地球人よりの子が生まれるな」
「お~・・・」
真は感心したように声を漏らす。そんな真を見てみんなニヤニヤしてた(キュアだけは顔を赤くしていた)
「お前いっつも一歩引いたところにいたからな。でもやっぱこういう話になると踏み込みたくなるよな~」
エンカが真の肩を組んできた。
「そうよね~。でもあんまし激しくしちゃだめよ。ルイちゃん繊細なんだから」
ユミ大尉が真のもう片方の肩を組んできた。
二人は世話好きで余計なことを言うおじちゃんおばちゃんのように詰め寄ってくる。真は助けを求めるかのようにピルクに視線を向けた。ピルクはその視線の意図を理解しコクンとうなづく。
「デデンッ!!」
大きな声を出しコチラに注意を向けさせる。ピルク少尉は報告した。
「転移石が真殿に与える影響について・・・この一週間の記録結果を申し上げます。記録結果!もう少し頑張りましょう!!」
cccccccccc
cccccccccc
ルイは赤面していた
何の話をしてるんですか!!
そう大声を出したかった。
真さんと仲良くなるのはいいですけれども、もっとこう・・・健全に仲良くなってほしいです。覗き見している私が言うことではないかもしれませんが・・・ああもうホントあのまま行くとユミ大尉なんて昔の私の話をしそうで怖いです。だからピルク少尉、ナイスです。そのままずっと仕事の話をしてください。セフレ発言忘れてあげますから!
そんなことを思っていたらテル大尉がルイに話しかけてきた。
「ルイ様そっちはどうですか」
声をかけられてルイは仕事モードに入った
「いえ、こちらも目新しい情報はないです」
ルイとテルは資料室にて、あることを調べていた。それは・・・
「神獣様についての記述は・・・んっしょ。やっぱ少ないですね」
分厚い本を元の位置に戻す。背が低いため一苦労しているテル大尉。
「そうですね。倫理観で言えば私たちのご先祖様はかなりひどいことをしましたからね。後世に残すのを躊躇うのは分かりますが、現代にも関わる重要な歴史なのでもっと残してほしかったというのが正直な本音です」
ルイはコンピュータに映し出された資料を見ながら言う。チラッとテル大尉のほうを見た。テル大尉は背伸びして上にある本を取ろうとしている。でも届きそうにない。
「テル大尉がこちらを調べますか。文書関係はわたしが調べますよ」
「いえ、問題ないです。ルイ様のほうが読み上げるのが早いです。コンピューターに納めている記録のほうが多いのでルイ様はそっ・・・ちおねがいします」
頑張って目的の本に届いたテル。気遣いは不要なようだ。
ルイはまた長い資料と向き合った
神獣様
かつて私たちの星には神様がいた。
数十億とつくほどの昔・・・私たちの星には生命が宿っていなかった。あるのは燃えさかる炎だけ。そこに神様が現れた。
神様は余分な熱エネルギーを吸い取りその熱エネルギーを変換、別のエネルギーに変えた。それは大気だったり、水だったり、大地だったり・・・
とにかくいろんなものを星に与えた。
結果、星に生命が宿った。神様はその後も星の調整をし続け、私たちのような知能指数が高い個体【人】が生まれるまでになった。
でも神様にとってそれは悲劇の始まりだった。
その時代の【人】が傲慢にも言いました。
「神を引きずり下ろそう」
傲慢ですが、残念ながら無謀な発言でもなかったのです。
その時の【人】は数も科学技術も最盛期。神にも届く力を持っていました。
端的に言って神様は負けました。
神様は力を封じられ獣になりました。
もう神様に考える力はありません。目もくりぬかれてしまいました。神様の目からはひたすら涙が流れ続けます。
そうやって【人】に飼われること、千年・・・
【人】は怠惰になりました。
理由は神様・・・神獣様の涙です。
その涙は物理法則を超えた力を、人の身に宿すことができました。もう科学技術に頼る必要がありません。何かを学ぶ必要がありません。何かを努力する必要がありません。なぜなら神獣様の涙を宿すだけで世界が回るからです。
それから百年・・・
神獣様の涙が枯れました。
【人】は怒りました。神獣様をたくさん痛めつけます。
それから十年・・・
【人】は色欲に溺れました。この神獣様がダメなら子供を作らせようとしました。失敗します。
それから一年・・・
【人】は貪食に神獣様を食べました。お腹を壊して死者が多数出ます
【人】は遠くの星、地球に嫉妬します。
その頃の私たちは荒れていました。過去の遺産だけでやっていました。奪い合っていました。ドンドン後退していくのを肌で感じていました。でも地球は?アチラはどんどん進歩していきます。まだまだこちらの文明には遠く及びませんが進歩するという一点において嫉妬します。
【人】は貪欲になるため地球に向かいました
「コレで終わりですか・・・」
ルイは他とは異彩を放つ文章を読み終わり肩を落とした。
大まかな流れは他の資料と違わないけど、ここまで【人】の罪を露わにする文章は他にはなかった。
「・・・でも、これもここまで。地球に行ってからの記述がない」
神獣様を連れて地球に降り立ったという記述ならある。でもそこで何があったのか資料がない。つまりそれ以降、神獣様の資料が全くない。神獣様は地球で死んだという噂話位ならあるが、公的には何もない。
ハア
ルイは小さくため息をつき自分の胸に埋め込まれている転移石に触れた。この文章を読んだ後だと、ひときわこの赤い転移石が重く感じる。
この赤い転移石は神獣様の瞳だそうだ。くりぬかれた眼からできている。この世にたった一つしかないと言われる転移石。
・・・・重たい
でもこの赤い転移石が神獣様の眼からできたものなら神獣様が単眼でない限り、これと同じものが・・・
「ん?アレは・・・なんでしょう」
ルイは神獣様についての思考を停止させ別のものに目を向ける。ルイが今注目しているのは管制室、そのレーダーに映っているものだった。
「テル大尉。急いで管制室に飛びます。コチラに」
そう言われてテルは疑問を挟まず「はい」と答えルイの近くに駆け寄る。
「転移」
ルイとテルが資料室から姿を消した
cccccccc
cccccccc
管制室はこの宇宙船の頭の役割をもち、24時間常に人が配備されている重要な場所。ちなみに主任はテル大尉である。
ルイとテルはその管制室に転移した。テルの部下である彼らはルイ様とテル大尉がこの場にいることを確認するとそれぞれ状況報告をした。
「17秒前レーダーに捕捉。目標物は人工物です」
「8秒前信号を送りましたが今のところ反応ありません」
「相手の船の速度でました。このまま行くと・・・3分後にはこの船と接触します」
「船の軌道をそらしなさい!」
テル大尉が命令を出す
「了解」
テルの部下がこの船の進路をコンピューターを通して少し変えた。
・・・・
「ダメです。向こうも進路を修正しました」
信号無視、この距離でこの速度、そしてこちらの動きに合わせて軌道修正。
「もう一度信号を!」
・・・・・・・
「・・・応答ありません。接触まであと二分」
・・・再度信号無視。どう考えても敵だった。
テル大尉はフンと鼻息をついた
「レーダーの精度を上げなさい」
平面の図に点と点しか映し出されていなかったものが立体的なものに変わった。これで相手の船の外観が映し出される。
「ルイ様、私の眼で視認できました。能力で潰しますが構いませんか?」
テルの超能力は鉄を操る。視認さえできればどんなに遠くても能力の範囲内であった。
「はい。構いません」
ルイは迷うことなく言い切った。
まず一番の優先順位は私たちの船の安全。そう決断するのは当たり前のこと。
・・・私はこの船の総指揮を任されている責任者なのだから
テル大尉はルイ様の確認を取ると手をだしてグッと握りつぶす。これだけで相手の船はぺちゃんこになる
・・・ハズだった。
「っ・・・」
握りつぶそうとした瞬間バチッ火花が散り、テル大尉の手は軽く火傷してしまう。
「テル大尉!?」
「大丈夫ですルイ様。でも・・・」
迫りくる敵の船は健在だった。ルイはここである可能性にいきついた。
「まさか神様と戦った時代のもの?」
いや、ありえない。そんな古代遺産が今も残っているはずがない。・・・そう思考した時だった。
相手の船の速度が上がる。
異常なほどに・・・
考える時間を与えることなくそれはやってきた。
ガシャアアアアアン!!!!
船に衝撃が走った