イチとパート4
畳36枚分の青白い床は、地下施設の中央にある一本の長い柱だった。その柱は、下に収納する形で坂倉たちを地下まで降ろした。
降ろされた先で坂倉は、地下にできたこのバカ広い空間を見渡す。
白い。真っ白。壁から天井まで真っ白だ。光が反射され綺麗な光沢ができている。触って確かめたわけではないが多分つるつるしている。・・・・アレ?地下に光?
「なあ、ここって地下だよな。何でこんなに明るいんだ?」
坂倉はそう問いかけたが誰も答えない。というより誰もいない。坂倉が呆けている間に、みんなは先に行っている。
坂倉はすぐさま追いかけた。
後ろから文句でも言ってやろうとしたが目に映るすべてが新鮮で言葉を失う。
むき出しのエレベータ?から降りた正面には大通りができている。みんなはその通りを歩いているのだが、その地面は麦畑のようなものが黄金色【こがねいろ】にゆらめいていた。
でも麦のように背丈が高いわけではなく芝生よりやや高いくらいだ。
みんながそれを踏みしめて歩いているが踏まれても跡が全然残らない。・・・不思議だ。不思議は他にもある。
大通りに面している建物がボールのように丸く作られている。底の所を平らにして均衡を取っているわけではない。本当の球体。どうして転がっていかないのか不思議だ。相対的に見て普通の家と同じくらいのでかさはあるが・・・あんな形で人は住めるのだろうか?
天井を見上げると何もない。ただただ天井たけーという感想が出てくる。
そんな坂倉は迷子になってしまった。
油断した!ぽけーとしてた!
坂倉は辺りを見渡す。本当に誰もいない・・・
心細い。ものすっごく心細い!
見ず知らずの土地どころか見たことがない世界だ。そんなところに独り・・・
大声出して呼んでみるか?でも俺、上に残った桂馬以外名前を覚えていない!
幸子!!
って女の子の名前を叫ぶのも恥ずかしい。そもそも迷子になって助けを求める事、事態が恥ずかしい。
・・・・・・・
・・・よし!ここは自力でどうにかするか。
そう思った坂倉はたくさんある球体の建物を見た。その内のたまたま目についた一軒に歩を進める。
コレ・・・人住んでんのかな・・・
坂倉は玄関だと思われる扉に手をかけた。
どうせ開かないだろうと思っていたが普通に開く。
そして坂倉はこの家に住むシワシワのおばあちゃんと孫に出会う事になった。
「わああああああああああ!!」
孫が坂倉を見ただけで絶叫した。
「わああああああああああ!!」
坂倉も絶叫した。
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「あれ坂倉はどこだい?」
最初に気付いたのはミミさんだった。そんなミミさんに見張り役の兵士が銃を向けた。
「おい、止まるな。教授の所に早く行け」
「手厳しいね。あっちの方は見張ってなくていいのかい」
「一緒に連れてきた小僧は監視対象ではない」
「そうかい・・そういえば今回は入口よりも俺たちについてくる人数が多いな。上でサボるな!、とかでも言われたのか?」
「黙れ!トットと歩け!」
ミミさんは言われたとおり黙って歩いた。
そう、前までは地下に来る兵士は一人か二人だった。今みたいに六人も来ていない。
まあ昨日勝手にここを抜け出したからな。この兵士どもは上司から大目玉をくらった事だろう。
「クソ。まさか桂馬まで俺たちに泥を塗りやがって・・・」
兵士がブツブツと独り言を言う。
地下の入り口で待機している桂馬だが実はこの兵士たちとそこまで険悪な仲ではなかった。
桂馬は人懐っこく人当たりがいい性格だ。好奇心もある桂馬は入口で待機している兵士と会話をすることで多くの兵士から信頼されていた。
信頼されていた・・・というよりも、コイツは俺たち兵士に従順だ、と思われていた。そんな思惑を桂馬は見抜いていたのだが・・・・
ミミさんは深くため息をついてボソリと言った
「これから俺たちはどうなるのかねー」
一行は教授が待っている建物に入っていった。
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坂倉は玄関を開けて絶叫している。
建物の中にはいくつも驚くものがあった。
まずこの建て物は球体のため当然中も丸くできている。座れる場所などないと思っていたが中にいたおばあちゃんは座っていた。
空中に。
若干空中に浮いて、お茶をすするおばあちゃんは中々にシュールだ。
そして近くにいる孫?
5,6才くらいの子供は刀を携え、そして叫びながら抜刀した。
こちらもシュールだ!
「わああああああ」
子供は叫びながら坂倉に突撃しようとした。だが・・・
「落ち着きな」
ガンっとおばあちゃんに頭を叩かれてしまう。おばあちゃんは杖をお茶の横に置く。
杖で叩かれた子供はしおらしくなっておばあちゃんの横に座った。
いやいやいやいや・・・なんで何もない空中に杖や湯飲みを置けるの?座れるの?
頭が混乱する中、おばあちゃんが無言で睨む。
何か言わなきゃと思った坂倉はとりあえず聞いてみる。
「あの・・・なんで浮いているんですか?」
ガチャンッ!
質問をした瞬間におばあちゃんは杖で湯呑をたたき割った。
「私らは座ってるのに立って質問かい?座りな」
怖い怖い怖い。このおばあちゃん怖い。
坂倉は球体の建物の中に入っていった。すると体がふわりっと軽くなる。なんだこれ?
疑問を置いて坂倉はとりあえず座った。・・・俺も若干浮いている
「正座」
「はい!」
坂倉は素直に応じる。座り直して改めて質問し直した。
「なんでここに入ると浮けれるんですか?」
「私の名前は山川 千【やまかわ せん】、こっちの子は国松 尾割【くにまつ おわり】」
質問には答えずいきなり自己紹介始めた。もう結構な歳だろうしボケてるのか?
「名前も知らずに質問とは不躾だよ。名乗りな」
「はい!」
坂倉は返事をして自己紹介を始めた
「俺の名前は坂倉 おさむ、と言います!」
「そうかい・・・おさむ。なぜ浮けれるのか、という質問だったね。それは私らにもわからん」
わかんねえのかよ。
坂倉は心の中でツッコミを入れた。そんな坂倉の心を老婆は読んだ。
「お前さんは人が何で地面に足をつけれるのか知ってるのかい?」
「え、・・・それは地球の重力で・・」
「重力とは何だい?」
「え?}
「重力とはそもそもどうやってできている?」
「え、ええっと・・・」
坂倉は逆に質問攻めにされ混乱した。だってこんなこと当たり前すぎる現象で・・・
「私が言いたい事は全ての事象は突き詰めて行けば分からないということさ。だがこの世のすべてが分からないということでもない。確かな事実というものはある。おさむ・・・お前はなぜここにいる?」
哲学的なことを聞きたいわけじゃない。きっと人間味のある話をこのおばあちゃんは求めている。
「俺は・・・生きてる意味がほしいです」
なぜか本音がポロリと出た。
「ここに来る事で生きる意味を見出だせるのかい?」
「わかりません。でも・・アイツらについて行けば何か・・俺がいてもいい理由を見つける事ができるかもしれない。そう思ってここに・・・ついて来たのかもしれません」
「おさむ、分からないだとか、かもしれませんだとか、あやふやなことを言っているお前に、確かな事実を私がお前に教えてやる」
「人がいる意味は必ずある」
老婆の言葉に坂倉の脳が震える。
世界がほんの少しだけ開けた気がした。
「それが悪い意味なのか、いい意味なのかは周りが決めることだが・・・もしお前さんが周りにいる人に、いて良かった存在だと思われたいのなら、そうなるように頑張りな」
「はい」
坂倉は会ったばかりの人に自然と返事を返した。
「おさむ、お前が向かう場所はここを出た後、右手側だ。その道をまっすぐ行ったらこの建物とは違った四角い建物が一軒だけある。みんなはそこにいるはずだ」
「はい」
坂倉はそう言われ立ち上がり背中を向けて玄関に向かう。玄関の扉を開けた後坂倉は言った
「お邪魔しました」
「いんや、いいよ」
おばあちゃんの返事を聞いた後、坂倉は皆がいるであろう場所に向かった
「長老、行かせてよかったんですか?あの人、地上人ですよ。地上人に長老の存在を知られては・・・」
「なあに、心配ないよ。あの子はただの迷子だ。地上の兵士でさえなかったしね。でもまあ私の家に来たのは何かの予兆を感じるね」
赤い宝石を握りしめて遠い目をしているおばあちゃん。
刀を持った子どもは、
長老がこのまま消えてしまいそうで
・・・少し怖くなった
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「ジャっじゃジャーン」
教授は陽気に言う。
教授が見せたがっているのは宇宙人の死体だ。その死体は解体され標本のように見世物になっていた。
髪飾りの女性が先頭に立ち尋ねる。
「それはなに?」
「なに?ってお主等が狩った者ではないか。死体をそのまま放置してはイカン。ちゃんと保存できるように防護処理しなくては」
「そういうことじゃなくて何でそんなものを私たちに見せたのかって話よ。まさか、それだけを見せるために呼んだんじゃないでしょうね。私は弟を探すために時間がないのよ!」
「ほっほ。宇宙におる弟君をどうやって探すのか見物じゃの~」
教授は明らかに馬鹿にしていた。馬鹿にした後ここに呼んだ理由・・・その前ふりを言う。
「この宇宙人の死体、首から上と、胴から下しかないわい。」
「だから何?」
「全部欲しい。頭の先から足のつま先まで全部!!実験用に数もほしい!持って来い!!」
教授の目は完全に狂ってる。
「宇宙人が地上に降りてきたら、あなたに言われるまでもなく狩るわ。死体もあなたにプレゼントしてあげる。・・・これ前にも言ったはずなんだけど」
こんなに興奮していなかったが、このような会話を以前にも教授と髪飾りの女はしてた。
何を再度言うとんじゃ、このボケジジイと思っていたら教授は抜けた歯を見せて嫌な笑みを向けた。
「数がほしい。聞くところによれば地上に降りる宇宙人は少ないらしいじゃないか。まあ擬態で上手く姿をくらましているだけかもしれんが・・・どちらにしろ地球で宇宙人を見つけるのは難しい。だから宇宙に出て取ってきてくれ」
「宇宙に出る?」
髪飾りの女は聞き返す。
「そうじゃ。もしかしたらそこに君の弟もいるかもしれんの~」
一縷の望みが生まれ、髪飾りの女性の気が少し緩む。
でも昨日のことを思い出しそれを口に出した
「でもブライム長官が言うには弟の居場所はわからないって・・・地球にいない弟の居場所はあいつ等にも把握できないって、言ってたわよ!」
「かっか!誰がお前らに義眼を仕込んだと思っておる。ただワシの話を鵜呑みにして話をしているだけのボンクラは何も理解しとらんよ!・・・確かに正確な位置はわからん。だが宇宙に出てどの方角にいるくらいはわかるわ。わしが作った発信機じゃぞ」
それを聞き、髪飾りの女性は笑う
「乗り物も用意しておる。おあつらえ向きにこの地下にずっとあった宇宙船。300年前宇宙人どもが忘れていったものじゃろ。それを改造して地球人にも動かせるようにした。どうじゃ?行くか?」
「もちろん・・・決まってるでしょ」
髪飾りの女性は仲間の意見も聞かず決めてしまった。
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坂倉がおばあちゃんの家を出て五分ほど走った所に四角い建物はあった。四角いというか地上の建物だ。坂倉は無事に見つけて一安心・・・した時にそれは動いた。
ゴウン
ゴウン
ゴウン
周りから何やらデカイ駆動音が聞こえてきた。
そして
ガチャンっ!!!
と何かがはまった音が聞こえだすと、周りにあった球体の建物が回りだした。そして回りながら下に収納されていく。
「おばあちゃん目ぇ回してないといいんだけど・・・」
坂倉はいきなりの事に動揺し、少しズレた事をいう。
ガシャアアアア
今度はシャッターが上がる音が鳴った。
球体の建物がすべて収納される中、一つだけそのままの建物がある。地上の建物だ。その建物の横には倉庫がありそこのシャッターが上がっていく。
そしてシャッターから出てきたのは・・・
「ジェット機?」
そう口にしたがどこか違う気がする。でも少なくともそれが乗り物だということは分かった。
そして嫌な予感もした。あの中にみんなが乗っているような気がする。
そしてあの乗り物は前進し進み始めた。
「ちょっと待ってくれーー!!」
坂倉は大声をあげながら全力で走った。
「ぬおおおおおおおおお」
勘弁してくれよ。おばあちゃんに頑張りなって言われたばっかだぞ。頑張るって走ることをか?なんじゃそりゃ。
「ほおおおおおおーー」
俺ここに来る前も走ってたんだぞ。五分くらいだけど。ジョギングぐらいの速度だけど・・・
「じゅううううううう!!」
そんな俺に・・・いや全然なんもしてないけども、でも・・・
「ああああああああーー!!」
もう逃げ出して・・・苦しみたくないんだ。
しかし、そんな坂倉の想い虚しく、ジェット機はどんどん遠ざかっていく。坂倉の足ではもうどんなに頑張っても追いつけなかった。
諦めたい気持ちが沁みてくる。足を止め、呆けたくなる。
でも・・・
坂倉は最後の手段に命一杯叫んだ。
「俺は!正義の味方の!!・・・味方に!なりたいんだ!!」
・・・・・・・
・・・・・・・
その叫びに答えるかのように乗り物のハッチが開く。そしてそこから飛び降りる人影も・・・
飛び降りたのは髪飾りの女性だった。
髪飾りの女性はトントン、トンと坂倉のいるところまで簡単に距離を詰めた。坂倉はその姿を見て不思議に思う。
確かに一番最初に宇宙人から守ってくれたのはこの女だ。でもその後は宇宙人の仲間なんじゃないのかと疑われた。なんで・・・・?
だがそんなことを考える余裕はすぐに無くなってしまった。
髪飾りの女性は乗り物がある所まで坂倉を思いっきり投げ飛ばした。
「ぎゃああああああああ」
坂倉の顔が恐怖と風圧でゆがむ。
一体これだけの短時間で俺は何度叫べばいいのだろうか。
ぁ、でもこれ絶対死ぬ。
そう脳裏をよぎったが、そんなことはなかった。ハッチの所で待機していた人物が坂倉を自慢の胸板で受け止めたからだ。
「あ、ありがとうございます。・・・・えっと・・・」
「俺は周りからはミミさんって呼ばれてる。よろしくな。坂倉」
「ょ、よろしく」
ああ、そうだった。確かにそう呼ばれてた気がする。そして桂馬じゃないもう一人いた男はたしか幸子の兄で・・・名前は
「あし、おそいな」
「にいーちゃん。地上人にそれは酷だよー。それよりも、こっちてつだってー」
兄の郷間と
妹の幸子
その二人は乗り物が加速していったのでロープを投げ髪飾りの女性を回収しようとしていた。
加速し続けるこのジェット機は流石の髪飾りの女性でも追いつけない様子・・・
つーかそもそも人が乗り込もうとしている時に加速しようとするバカはどこのどいつだ。文句言ってやる。
そう思って乗り物の中を進んでいきコックピットの中を開けた。そこにいたのは林田 勢だった
「なんで、あなたなんかがここにいるんですか?」
デジャヴだった。
そして俺はこいつにこう言いたい
「俺のセリフだよ!」
林田勢はただの教授の助手。
そんな奴が何で操縦席に座ってるんだよ!免許持ってんのか!ぶん殴ってやろうか、コノヤロー・・・
・・・と思っていたら操縦席から見える景色を見てそんな気は一瞬にして消えさった。
「すげー」
球体の建物が下に収納されジェット機は走行できている。
つまり目の前には何もない。そこに生えているもの以外。
辺り一面が黄金色の麦畑
・・・きれいだった。眼前に広がるものがたった一つ。
それだけのもので統一された景色がここまできれいだなんて・・・何やら悟りが開いて新しい価値観が生まれそうな景色。
時間が止まったかのような・・・・ん?んん?んんん?
「ストップストプストーップ!」
坂倉は慌てる。この速度、目の前にある壁。悟りとかクソくらえだ。
「とまれー!!」
坂倉の叫び虚しく勢は全くスピードを緩めなかった。
激突した!!
そう思い坂倉は頭を屈んだ。だが・・・何も起こらなかった。微弱な衝撃さえ来ない。坂倉は恐る恐る頭を上げて見た。
真っ暗だった。でも何やら進んでいるような気がする。
「この船は、胴体が太く頭と尻がとがった形状に作られています。そしてその外観には宇宙人が使っていた特殊な素材が編み込まれています。その素材の特性は反発。触れる前にこの船の先端を基準に分かれ、そして分かれたものは尻の先でまた繋がるようにできている」
勢が説明してくれているがよく分からない。
「平たく言うと、この機体は何でもすり抜ける事ができます。……今は土の中ですがすぐに海に出てそこから上空、宇宙へと飛び立ちます」
「へ、宇宙?」
坂倉はこのジェット機の行き先を知らずに、付いて来てしまっていた。