シルバの独白
~五分後~
「ぶべあー……ぢぬー……」
毛むくじゃらの男が奇声を上げてテーブルに突っ伏した。
それを見てシルバが勝ち星をつかみ取るようにこぶしを天に突き上げた。
そして残りの酒も一気に飲み干す。
酒場の中は割れんばかりの拍手と大歓声に包まれた。
「やっぱシルバが勝ったな」
「ああ」
「あいつ親父さんに似て昔から馬鹿みたいに酒が強かったからな」
「よくやった、シルバ」
「久しぶりにいいもん見させてもらったよ」
シルバは周りの称賛の嵐を一身に浴びながらカウンター席に戻ってきた。
「さすがだね、シルバ。あの酒を飲み干せんのはこの店であんたとあんたの親父さんくらいだよ」
「ああ……」
「まだ何か飲むかい?」
「いやいい……水ください」
飲めるけど、まったく酔わないわけではなかった。シルバの頭の中は重力から解き放たれてふわふわとした空中浮遊を楽しんでいた。
久しぶりに飲んだ。
一年ほど前に父親を不慮の事故で失ってから、シルバはその間酒と遠ざかっていた。
彼の父親はいわゆる飲んだくれで仕事終わりなど、よく飲みに連れてかれていたのだ。
「はいよ」
水の入った透明なグラスが出てきた。
「どうも」
シルバはそれに口をつける。
シルバはわりと小さい頃から父親に酒場に連れて来られていた。もちろん兄のミシェルも一緒に。でもミシェルの方が酒がてんでだめで、よく酔いつぶれたミシェルを真ん中に肩を組みながら親子三人で家に帰ったものだった。
「なつかしいな……」
シルバは目の前のグラスに向かって言葉をぽとりとこぼした。
酒に酔っていたということもある。
父親と兄のことを思い出して、シルバは自分の情けなさに強い憤りを感じていたというのもある。
何かが彼の背中を押していた。
ここで何かしなくては――自身の内側で生まれた強い使命感がシルバを前に向かせていた。
気がついたらシルバは酒場の客に向かって声を出していた。
「あの……」
酒場にいる人々の目が一斉にシルバに向けられる。
頭の中で言葉が生まれるよりも先に、シルバの口から思いが形となってどんどん溢れ出ていった。
「俺、子供の頃から竜の背中に乗りたくて……それがずっと、俺の夢で。いつか叶えられるって信じてたんだけど、全然だめで。大人になるってそういう夢をたくさん捨てなくちゃいけないってわかってるんだけど、捨てられなくて。自分でも子供だなって、大人になれよって思うんだけど、やっぱ捨てられなくて。やっぱ俺は竜の背中に乗って、大空を飛び回りたい。世界中を旅したい……これは俺の捨てちゃいけない大事なものなんだって……そう思うんだ」
シルバの独白を酒場にいる人々は黙って耳を傾けている。
「だから、もしよかったら何だけど、俺と一緒に旅に出ませんか? 魔王を倒すついでに。誰でもいいから俺と一緒に……」
急に酒場の静けさが耳を突いてきた。シルバは徐々に冷静になっていく自分に気がつく。
彼は顔を真っ赤にした。周りの視線が自分の顔をちくちくと刺してくるようだった。酒を飲み終えたときよりも、それはひどいものだった。
自分のさっき吐き出したセリフが頭の中で強烈なエコーを伴ってリフレインされる。酔いなんて初めからなかったみたいにどこかに吹き飛んでいた。
「あの……やっぱ……さっきのはなしで……」
シルバは顔を隠しながら慌てて外に出ていこうとした。そのとき、
「はいでし」
店の片隅に勢いよく天井に向かって伸びる小さな手があった。