作家or勇者
「俺、作家になりたいんだ」
「ああ……シルバ……」
シルバの言葉を聞いた瞬間、リラはどぶに片足を突っ込んだみたいに顔を歪めた。
「冗談だったら冗談だと言っておくれ。作家なんてそんな……世捨て人と一緒じゃないか。そんなもんにあんた本当になろうとしているのかい?」
リラの戯言を一切許さないよう切迫した直視を受けて、シルバは慌てた。
「違う。もちろん冗談だよ、母さん。俺は本を読むのが好きだから、ちょっとかぶれちゃっただけだよ」
「そう。それならいいわ」
リラは一応の納得みせた。
息子がまともな収入を得ずに根なし草みたいな日々を過ごす道を選ぼうとしているの止めない親なんていなかった。
「で、仕事は?」
「あ……う……」
母親の問答無用の追及にシルバは完全に逃げ場を失った。これはどうやらちゃんと仕事を見つけるまでは許してくれないようだ。シルバはとっさの口実を考えた。そして閃く。枕元に落ちていた紙を拾い上げて、母親に見せつけた。
「これを見てくれよ、母さん」
「何だい、それは?」
それは買った本の間に挟まっていた一枚のビラだった。そこには――。
勇敢なる者よ。我々は力を求めている。これ以上、卑劣で、愚かな魔王の横暴を許してはならない、そのために我々は力を結集し戦う必要がある。勇敢なる者よ、ローゼン王国に来たれ。参加条件は三人以上のパーティーであること。旅の資金として三十万ゴルカを即時支給致す。
などの文言が、一枚の紙に書かれていた。
「……兄さんが騎士団に入団したとき、世のため人のため俺も戦わなくちゃって思ったんだ」
「ふーん……」
「お金ももらえるしさ。もらったお金はそのまま母さんのところに送り届けるよ。今までさんざん苦労をかけたからね」
「ああ、そう……ところで」
「ん?」
「そこのパーティーの条件として三人以上って書かれてるけど、あんた仲間なんていたっけ?」
「あ……」
「旅先で見つけるのかい? あんたみたいに何の特技もない、力もない、旅をした経験すらないあんたの仲間に誰がなってくれのかねー? そんな奇特な人間がいたら母さん会ってみたいよ。いたら紹介してくれるかい? 母親としてちゃんと挨拶をしておかなくちゃねー」
「じ、実はもう仲間はいるんだよ……」
「へぇー……」
「今から連れてくるよ」
「ああ、気をつけてね」
シルバは平然としたふりをして部屋を出て行った。
「……仲間なんているわけないじゃないか」
リラはシルバの背中に向かってぼそっと呟いた。