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Air Cloud Spot...  作者: ampoule
8/15

vol.8...P-model

『どうして、人の目って2つあるんだろうと思う?』

『さあ、2つが丁度いいわ、私』

『表か裏か。女か、男か。XかYか。そして大事なのが丁か半か。全て2つなんだよね』

『2つだと分かりやすいわ自然で』

『2つは自然だろう。しかし私は違うと思う』

『何?』

『2つは、1つである確率に統合される。量子が教えてくれた概念だ』

『そんなのつまらないわ。私は、きっと、分かりやすいからだと思うわ。貴方の考えていることも』

『唇も2つあればいいのに』

『キスも2つあればいいね』



「アンタって、クラウドNO.7 の映画に出てくるような男みたいね」

「なんだ、それは?」

「私が友達と見た恋愛映画、気に入ったから小説版も持ってる。お礼にあげるわ」

「どんな話?」

「なんでも出来る男スティーブンが女にフラれる話」

「俺は振られるのか―――?」

 俺はそう言うと、鵲氏は聞こえないふりをした。何故そんな事をするのか、問いただす。

「達朗君は逆だと思う」

 そういって、長いキスをした。おいおい、人前だぞ。

「おい、ここは外だぞ」

「達朗くんが分かっていないから教えてあげるだけよ」

 そこから三人での共同生活が始まった。

 そうだ。バーベキューの日程明日じゃなかったっけ?

「バーベキューはいつにしたんだ?明日じゃなかったか?鵲」

「由真でいいわ。バーベキュー矢沢誘わないと。あの子の親父かなり厳しいからそれ次第」

 私は慌てて電話をかけると、矢沢が電話に出た。

「おっ、鍋島、どうした?」

「どうしたじゃない。お前の親父にバーベキューのこと話したんだろうな?」

 しばらくの沈黙があって、「忘れてたけど、既にオッケーよ俺」

「早く言え、それを!」

 そう言って電話を切ると、「由真、エア・スポットの傍にある海岸公園に行くぞ。細川は由真が呼んでくれ」

「あい、分かった」

 しばらくすると、「細川さんもオッケーだって、今日にしましょう」と言ってきた。当たり前だ。

 自転車を取りに由真は帰る。俺は途中まで自転車でこいで由真の家まで連れて行くと、案外すぐに着いた。自転車の鍵を取りに帰ると、家のドアが開いた。

「アンタ、今日バーベキューするって言ってなかった?」

 母親らしい。俺は挨拶をすると、「彼氏?」と由真に聞いてきた。「達朗くんっていうの宜しく」そういって他己紹介が終わった。

「道具裏にあるから持っていきなさい」そう言って、ドアが閉まった。

「やべ、うっかりしてたわ。あたし持っていくから、車母さんの借りるし。丁度良い、アンタ今すぐ帰って自転車置いてかえんなさい。車で行こう」

「じゃあ、すぐ帰る」

 帰り道の途中、水たまりが、鏡のように太陽の光を反射していた。その姿は、実にきれいで、虹が出来ていた。そんななんでもない事をすごく愛おしく思う。

 自転車をおいていくと、ついでだから、サングリアの残りを水筒に入れて持ってきた。鵲はもう飲まないだろう。彼女はアルコールで失敗しているからだ。彼女に会うと、水筒について尋ねられた。

「何それ」

「サングリア」

「いや、あたしはイイワ。他の人にあげて。もし要るなら」

「酒は抜いてる」

「いや、でも要らない」

「あそう」

「何してんのふたりとも、出発するわよ」

 母親の一言に鵲達は乗った。大きなメタリックボティのワゴンだった。家の場所を指定して、細川さんと、矢沢を連れ出した。

 バーベキュー場にまで到着するまでに、クラウドNO.7を読んだ。ライトノベルのように軽い文体で非常に読みやすいものだった。カプチーノを日課として飲んでいるイタリア人の男が、水泳やテニス、ゴルフを目的の女にしている姿を見せていると、突然、英語で別れを告げるのだ。そのときのセリフが頭から離れない。

『あなたは、そびえ立つ大木のようだわ』

『どういう意味だい』

『私は、雨宿りをするツバメ。あなたに腰掛けてもらっていたことは認めるけど、出ていかなくちゃいけない』

『そんなことってあるか!』

『あると思うわ、私は』

 そう言ってスーパーマーケットのショーウィンドウから出ていった。

 その一節が実に詩的で忘れられないのだ。きっと、私の料理している姿が大木のように見えたのかもしれない。彼女は腰掛けている―――?

 幻想だ。ちょうど、雲の中の蜃気楼のような砂上の楼閣のごとく虚飾を演じたに過ぎない。

 だって、彼女と私は、しっかりした深い仲間として繋がっているからだ。

 海は、寄せては返す。

 頭上には高く太陽がそびえており、青色の空とともに、見下されている。

 それでも、海は寄せては返す。

 波の呼応は、地球の神秘だ。などと考えている間は、肉の焼ける美味しそうな音とともに消え失せた。豚バラを串に刺して焼き鳥風にする。手羽先の焼けるチキンの油の滴るところとか見ていて圧巻である。

 矢沢は動作がキビキビしていて、見ていて清々しい。その姿をみて、「アンタも手伝ってやって」と私の背中を押す。

 私は、矢沢の準備に黒胡椒や粉山椒などのペッパーを、丁度良い配分で作っておいたミックスペッパーを振りかざす。これが味の決め手になった。

「美味しい!」細川が言った。ビキニ着るには寒いよねって話になって、矢沢はだったら、フラッグを砂に刺す。「かけっこしようぜ」

 そんなこんなで、ビキニ大会はかけっこでそれどころじゃなかったけれど、胸に砂が入り込んで、時々辞退しなくちゃならなかった。

「由真、喉乾かないか」

「何?サングリアは辞めてよね」

「はちみつレモンだけど」

「おっ、助かる」

 そう言って、彼女は一気に飲み干した。夏の暑い盛りは過ぎてるとはいえ、まだまだ残暑が厳しい。

 そんなこんなで、CCレモンを持った、矢沢の音頭でバーベキュー大会はシメに入った。

 水平線に浮かぶ、島々の眺めが特に美しい田舎町で私達は出会った。しかし、そんな整備のうまくいっていない土地であっても、こんなに素晴らしい人達に出会えたことは感謝している。矢沢は、歌が上手く、アカペラで最近の洋楽を歌った。拍手が鳴り止まない。

 かもめを写真に撮った。

 


 あの時の飛行機を連想させるから、撮ってみた。



 パイロットの夢を共に載せた、灰色の巨鳥。



 彼の思考はどこまで羽ばたいているのか。



 分からない。かもめの思考が分からないのと一緒だ。



 『どうしたんだ?考え込んで』矢沢が聞いた。



 『ハッピーエンドを考えていたんだ。私の素敵な道の後先と言う名のハッピーエンドを』



 『そういうのは女とやってくれ。俺とやるな。俺はガキのカッコいいなんてどうでもいいからさ』矢沢が怒っていた。



 『どうしてそんなことをいうのさ?私の夢の話だぜ?』



 『そういうのは酒のんで、女と語るのが素敵なんじゃないか。全く誰にも彼にも吹き込んで良いもんじゃねえ』矢沢は肉をつまんで自分で食う。



 『どうしたの?』そういうのは鵲さんと細川さん。



 『いや、何でもねえ。俺がアイツのケツ吹いていただけだぜ』矢沢は言った。『人生のケツを』



 『きゃーきったない。別れようかしら。私』鵲さんは言った。『ところで人生のケツって何?』



 『女にしか教えてはいけないもん聞いちまったもんでね。俺が注意してやったんだよ』



 誰にも聞かせないだろう。きっと。



 ハッピーエンドは一人で静かに終わるべきだ。



 人はやがて一人になる。



 だから女の子に言わず、矢沢に言ったのに。彼はそこまで知らない。



 この思考を懐き続けているかぎり、ハッピーエンドは一人にしかやってこない。



 だから女神も私のことを嫌うのだろうか。



 夢を追いかけ続ける男の残像は、残雪のように孤独に散っていくのみだ。




 もう、夕方だ。夕陽が暖かい色をしていた。やがて海の底に沈んでいってしまうのにどうして見つめているの?って彼女に聞かれたことがある。




『それはね、墜ちる時に音がするんだよ。音の無い音が』

『音のない音ってなあに?』鵲さんが聞いた。

『キスにも音があるだろう?』

『分からないわ』

『まあ、波が波の音をかき消しているんだ、って私は信じている。きっと、キスも夕陽も生命活動を支えるという事実に辟易して、隠れたがっているんだよ』

『そうかしら?』

『え?』

『あたしには、夕陽がダークサイド・ムーンに変わるその瞬間は陽炎が視えるわ。あれはきっと、太陽の存在自体を隠したがっているんじゃないかしら、そんな事ばかり真実を知りたいという科学者の気持ちを漆黒の闇で溶かしたがっているんだわ』

『そっちの方が随分詩的だ』

『だからキスだって一緒。隠れてする方が素敵でしょ?』

『そうだね』

 そう言って、どちらかがキスをした。




 キスには音がしなかった。




 私達、まだ、大人しいのかもしれない、とは思わなかった。




 ヘリコプターの音が、夕陽の墜ちる音をかき消す。



 夜は、いつだって無を彩る宇宙の色だ。だから、こぞって科学者は愛するのだろうか。



 私はそんな事を考えたが、もう彼女には話さない。




 この事実を思い出す度に、そういう事を言うのは苦手になったからだ―――ミルクティーと同じくらいに。




 しかし、朝食で私が作ったのはミルクティー。




 そこにほろ苦いカカオを入れる。




 甘いものは好きだった。




 カカオくらい暖めて入れないとそんな自分を反省出来なかったからだ。




 だから、ミルクティーが嫌いだった。




 そう彼女に白線のチョークの書く瞬間に生まれた粉のように、すぐに伝えた。




 彼女は微笑んだ。



 

 そして、地平線の曖昧になりそうなくらい激動の輝きをたたえたまま、暖かい太陽の日差しの下でそっと頭を撫でた。




 『気持ち良いよ』




 『そうかな?あたしは達郎君がまだ反省しているように見える。ポプリとか植えたら?奇麗に咲くわ。蝶々のように、美しいものを眺めるの、貴方好きじゃない?』




 『どうかな?そんな事思ったことないけど』




 『バイバイ達郎君』




 私は音楽を切り替えた。偶然選んだのはthe brilliant greenの「like yesterday」だった。




 『昨日のようにカッコよければ、彼女はもっと笑ったかも知れないな。彼女はそんな私を好きでいた訳じゃないし』




 そんな、水たまりのようなどうでもいい事を一人で呟く。




 さて、どうだろうね?




 毎日の日常くらいどうでもいい事ばかりだ。




 そんな時は、the brilliant greenの「like yesterday」を聞く。

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