vol.7...Air plane・Air Good bye
『空って怖い』
『何で』
『死を覆い尽くしてキレイにするでしょ?セルリアンブルーとホワイトカラーの馴染んだ色が怖い』
『そうだね。死なんて言えば、人間が空に向かう話知っているかい?』
『きっと、空に向かえば死ねるわ。簡単に。私も行ってみたい』
『どうして死にたいんだい?』
『Let us flyっていうでしょう?あるいはwe can flyって私達、皆羽ばたきたいんじゃないかしら?』
『それは、きっと頭脳の中が飛びたがっているんじゃないかな―――夢が飛翔するとも言う』
『我々も飛翔しましようか。夢の先まで』
『ええ、貴女となら構いませんよ』
今日は休みだから、どっか行こうか、と思い、石井昭久という私の友人を呼び出した。石井は普通な男で、安心する。個性的な連中ばっかりだからだ。
「どうしたの、鍋島君。僕なんか誘い出して」
「ちょっと、男同士の秘密の話があってさ」
「え?どうしたの、急に」
「エア・スポットに行こう」
「エア・スポット?ああ、鍋島君がそう呼んでるって言ってた、飛行場」
「そこが私達の出発点だから」
「何か関係があるの?エア・スポットに」
「いや、行ってからのお楽しみ」
何があるんだろう、とワクワクする石井を差し置いて、私は自転車で駆け出した。早く行かないと、間に合わないかもしれない。
「どうしたの、慌てて」
「終わっちゃうかもしれない。航空ショー」
「え?何だって」
「いいから付いてきて」
その声すら、聞こえなくなった。何故ならば、もうエア・ポケットに付き、航空ショーの真っ最中だったからだ。
「今のがクリフ・エッジっていう名前の技。吉高浩二さんっていう戦闘機のパイロットが付けた技の名前」
「クリフ・エッジ?」
「あんなに、縦に旋回しながら、くるくると落ちていくだろう?あの技」
「へえ」
「テレビでやってたけどやっぱ凄いな」
そう行って、彼は回る。飛行機という太空のステージと黄金の太陽の対比が織りなす一種のグラデーションに私達は魅了された。
彼らの太空の夢は、飛翔する―――夢の軌跡という素敵な残根を残して。
日が高いとこんなに青空が透き通って見えるのか、と感動した。飛行機は次に煙を吐き出す。文字は勿論、英語でAir spot sounds good!この飛行場の名物だ。
「あ、だからエア・スポットなんだ」
「知らないの?石井君」
「いや、ずっとエア・スポットって呼んでるからそんな単語あるのかとばかり」
「違うんだよ。―――ずっと、詩のように美しいリズムを描くように飛行機って開発されているんじゃないかと想ってた。私」
「そうかもね。何だか鍋島くん凄いね。言うことカッコいい」
「でも人を殺すために開発されたとは思えないよね。こんなにかっこいいのに」
「―――カッコいいと人を殺すんじゃない?人間かっこよくないと人を殺さないよ」
「石井君、実に考えさせる事を言うね」
クリムゾン・ムーンが出た。ゆっくりと回転しながら、上に上昇を続け、降下すると同時に煙で巻く。第二番目の大技が出た。
「凄いね。んで話って何だい?」
「鵲にキスした」
「え?聞こえない」
そう言うので、私は、鵲の写真を見せて、キスしたと大声でいった。
「そんな・・・・・・鍋島くん。付き合うの?鵲さんと」
「分かんない。まだ分かんないんだ」
「男らしくないな」そう言い放つ石井くんの眼は鋭かった。
「鋭いね、石井くん。実は、あのときのキス、何故やったんだろう、って考えてしまってよく分かんないんだ。好きになった理由も。真剣に付き合いたいと想った理由も」
「それは、恋かな?」石井君は言う。そうかもしれない。
「そうかもね。だけど。飯くらいは誘える仲には成ったことは間違いないね」
「それでいいんじゃない?鍋島くんは。そういうフレンドリーな仲でずっと続けば」
「そうだね・・・・・・彼女が許してくれるかなあ」
「分かんないね」石井くんは言う。「ただ僕としては、何も考える必要なんて無いと思う。感情的で良いんじゃないかな?」
「石井くんがそういうならそうするかも」
そう言って、お互い別れた。
どちらが先に帰ったのかは知らない。
しかし、報酬だけはこの胸に留めている。
この胸に、あの航空ショーの感動は胸に・・・・・・
空は雲に覆われ、曇になる。少し肌寒くなってきた。そろそろ残暑も厳しい季節は過ぎたのかもしれない。季節は移ろうものだし、仕方がない。温度調節のため、帰ろうかと思っていると、石井君が本を取り出した。
これ読んで。ロックだから。
そう言って手を渡してくれたのは、NANAという漫画だった。表紙は少女漫画だったけれど、内容は後で読んでみたら、凄く面白かった。
あとで、ラインで鵲に話そうなどと考えていると、寒気がする。
早く帰ろう。
自転車を押して坂を登ると、待っていたのは鵲だった。
「チェーン掛けられてる。ケータイ出なくって。またアンタの家行ってOK?月曜日まで学校休みだし」
「ま、いいけど」
「よっしゃー飯食えるで」
「おっさんかお前」
「アンタの方がおっさん顔じゃん」
「うるせえ!」そう言って、腕を殴るフリをする。防御して鵲氏が一言。
「アンタって面倒見良いからアンタにしようかな、結婚相手」
「ぶっ、急に何言うんだお前は」
「良いじゃん、もう結婚できる年だしアタシ」
「まあ、私でも良いんだったらいいけど」
「良いよ」そう言って笑う彼女の顔はこの日の朝の空を表しているように元気で快活だった。
「そっか」
「本当だよ?」
「知ってる」
朝は、怖い。
朝の快活さに勇気づけられ外に出てくるときもあるが、いつも彼女の詩的な言動に振り回されてしまうからだ。
『青空の色の瞳に生まれたかったわ。あたし―――吸い込まれそうなセルリアンブルーに魅了されることもあるんじゃないかと思って、貴方が』
『どうして、急にそんなことを言うんだ?私の好みなんて聞いて?』
『緑という自然にも似たエメラルドグリーンも素敵よね。外国の人と付き合いたい。運命のダイスによって見つけた彼の瞳を見つめていたい』
じゃあ、君は女神じゃないんだね。
神はサイコロを振らないのだから。
女神は味方をして微笑んでいるくらいだろうか。
そのくらいの何でもないくらいの味方が私達を奮い立たせる。
だって、そうだろう?
誰かに決められた将来があるのは、ロボットだけなんだ。
私達ではない。
そのことは生まれたときから知っている事実だ。