vol.6...June・pride
『どうして人は記念日というものを考えるのだろうね―――?』
『それは、きっと確認がしたいから』
『何の?』
『愛とプライドよ』
一夜明けた。
静寂な夜で月はもう明るみ、白く冷たい印象を受ける夜の静けさは終わり、朝の鳥たちの囀りを聞きながら、有限の時とすら思えない朝を迎える。
朝は詩的だ。何故ならば、朝は、まだ、夏の迸る暑さも比較的収まっており、
彼女はどうしているだろうか―――どこへ行き、何を観て感じ、過ごしているのだろうか―――将来も宝珠のようなままであり続ける、半永久的な輝きを失わなかった貴女に会えるだろうか―――?
などという、美しい人魚が住んでいるだろうと噂されるくらい透き通った、海の奥底のような夢を見たからだ。
きっと彼女は私の部屋には来ないことは知っているが、しかし。彼女は、まだ私の家にいる。朝食も食べたいと言い始めたからだ。
『少しは自重をする気はないのか、お前』
『だって美味いじゃん。アンタの料理』
「そうか・・・・・・あの時」
彼女はそんな理由を言って帰るのを引き止めたのだろうか、と思い私は、笑顔が綻んだ。そうして、昨日のキスを思い出す。感情的に成りすぎた、半ば強引なキスに少し自身でも戸惑ってしまったけれど、あそこまで自身は彼女のことを真剣に想っていたんだろうか。
「いや、違うだろうな。そうか・・・・・・仕方ない」
彼女もまた本気ではないことは知っている。彼女のキスというのは一時的な発作から来る思春期によくありがちなパターンだろうか。いや違う。彼女の目は真剣だった。
彼女の本気のうっとりとした眼。
しかし、それを逸らさざるを得ない。彼女はきっと、私だったから許せたのだろうか。そうではないはずだ。であれば何故?
分からない。女性というのは謎である。きっと。
そんなことを考えながら、うとうととした目覚めから顔を洗い、目が覚めると、朝食の準備に取り掛かった。
おなじみの豆のサラダは作らない。今度はシーザーサラダを作った。旬ではないが、ゴボウを笹垣に切って、水洗い。そして、枝豆を入れてみた。1つのアクセントになるだろう。そして、キャベツを少々、トマトは大きいサイズのものを薄くスライスして色どりに。秋に食べるべきなのだろうが、サバの煮付けにして、圧力鍋で煮た。出汁は一応取ったが、味噌仕立てが一般的だろうからそうした。後は、スムージーを作った。ヨーグルトまで入れて、豪華な朝食の出来上がりだが、如何せん、和食と洋食の組み合わせでかみ合わせが悪いかと思い半ば悪気に朝食を出すと、以外に高評価で危ないところだった。母が久々口にした言葉は何かと思えば。
「和食で助かるわー、胃に優しいわー。ぐっとくるわーこの感じ」
「なんだそれは。なんだグッとくるというのは」
「いいのよ、知らんでも」
どういう意味かしつこく問いたかったが、どうでもいいので辞めた。
「鵲さんはどうなの?黙って食ってるけど」
「グッジョブ!」鵲氏はそう発言するなり、親指を立てた。何の真似だろうか。アニメにそんなシーンがあったような気もするが覚えていない。
「あぶねー、マジ朝食和食と洋食のミックスだから不安だった」
「バッドジョブ!」鵲氏はそう発言するなり、親指を下げた。それは意味が違うぞ、おい。
とにかく、朝食を食べた後、鵲氏は帰って行った。今日はちなみに学校は休み。土曜と日曜日は休日である。週休二日制ってところか。
「じゃあね!」朝日を浴びる彼女の姿はどことなく、あどけない表情をしていた。その姿を、私はスマホで撮った。
彼女の私服姿なんて未だかつて見たことなかったからだった。
「何すんの?それ」
「付き合った記念日」
「なにそれ、女々しい」
「雄々しいな、お前」
「煩いわね、サバサバしてるだけよ私」そう言って、アカンベーをする。その姿も写真に撮った。
「この写真魔」
「痴漢魔みたいに言うな」
「似たようなもんでしょ、後で男の子のやることなんて。やらしー」
「しねーわ、ばーか。記念に撮影しただけじゃい」
「そう。バイバイ。―――楽しかったわ」
「それなら良かった」
そんな秋の落葉みたいなどこにでもあるくらいの会話に馴染んでいくのもまた一興かも知れないと思うのだ。
精神の安定も得られ、非常に私的な少女と共に、リンクし楽しいと感じている。