vol.4...Spline・Air
『白い手、白い指が貴女の首を締めていくだろう―――?』
『どうしてそんなことをなさるのですか?』
『遊びだよ。単なる。暑かったからなんて言えば良かったかい?』
『いえ、ただ……愛していると言って頂ければ私は了解します』
夕食はスモークサーモンの冷製パスタだった。夏だからだろう。
ヒカリの粒が汗の粒と溶け合って、暑さに馴染んていく季節だ。そんな季節にピッタリな夏のオシャレなレシピの一つ。
料理は基本的に母は作らない。母は簡単な料理しかつくらない、というのが正しい。
代わりに私が料理を作っている。アクセントのミントの葉が可愛らしい形をしている。可愛いから取り入れたのだが案外悪くない。ノンアルコールだったら別にokだと考えている一家だ。だから基本的に大丈夫なのだが、取り敢えずサングリア風ドリンクを作った。リンゴやザクロ、葡萄などを漬けてみたツボにグレープジュースと最後に切ったパインを加え出来上がりだ。
夏はこれに限る。毎日アイスコーヒーやウーロン茶だと飽きるからだ。
今日は父は出張で出かけているが、母と三人分作った。勿論兄弟姉妹がいるわけではなく、今日は鵲さんをゲストに呼んでいるからだ。よく鵲は食いしん坊だから、食後に自分でケーキでも買ってくるんだよ、というと、はーいとラインから返信が来た。
そろそろ7時に約束しているが、おっと来たようだ。ラインがなる。開けてらしい。ドアマンまでやらされるのか、最近の女子って。
「はい。こんばんは。鵲さん」
「お礼として三人分ケーキ買ってきたよ。良かったらどうぞ」そう言って、ケーキを差し出す、鵲さん。ベージュのトップスにネイビーのフレアスカートとヒールの履いた靴でやって来た。
鵲さんとのラインは尽きない。だから鵲さんと私はライン友達だ。今日週末は鵲さん友達と一緒に映画館を見ていたらしい。映画は最近流行りものの恋愛映画。全く面白くない、というのが彼女の感想。頭使わない映画って興味ないしね。とのこと。SFで間違い探しとかするのどう?とか言うと、ラインが止まってしまった。
しまった、彼女文系だったから、怒らせたのか、と思っていたら。
一言、「いや、無理じゃね?キュー」と返ってきた。どうやらSFを勉強して沈没したらしい。最近のSFは高度だ。宇宙の構造を知らないと分からないものやSFオタクじゃないとよく知らない知識などが相まって俗にいうカオスというやつだろう。カオス理論はまだ勉強していない。私は独学で勉強する質だったけど、まだ勉強していないことはたくさんある。それもこの鵲さんのライン猛攻撃のせいだった。
「理解できるのは、スターウォーズは火星に行けばありえるのかもしれない」そう言ってた、不思議な女子だ。どこで理系を勉強したのか知らないが。
「スターウォーズみたいな予測をする前に、君は少し理系を勉強したほうがいい。第一ライト・セーバーは出来ない」
「うっそん!あれ無いとジェダイ戦えないじゃん」
「ある程度コヒーレンス性の高い光を照射するしかないが、最近のレーザー光の照射距離から行くと、それでも直方に伸びてしまい、あの長さよりも長い光が生まれる」
「げっ、あんくらいの太刀みたいなのが良いんじゃん。マジ残念」
「現在だと、携帯型の蛍光灯でも作ればまあそれに近いものは作れる」
「うわ、ダッサ」
「ダッサじゃない、科学の知識だ」
「科学ねえ、あんたそんなん知ってどうすんの?就職するんでしょ?」
「就職のために文系に行ったのか。まあそういう奴もいるだろう。私は単に興味があったから理系にした」
「ああそう」
それきりラインは来なかった。んで、蛍光灯で作ってと言う話が出来てしまい、無茶振りを振られたのだが、当然そんな材料を置く余裕はない。私が丁寧に断る、と。
「じゃあ、遊びに行って良い?久々ディナー食べたい」
「やはりラインに本音を言い合おうとは言ったが、完全にスイーツ女子だな」
「うるせえ、バーカ」
「鵲さん少食?」
「いやめっちゃ食べるよ」
「だったら食後にケーキでも買ってきたほうが良いよ」
「ああそうね、サンキュー」
そこでラインは終わった。
このときまでは知らなかった。私はずっと彼女と居られるものだと信じ切っていた。彼女には父親が居ない。もう亡くなっているのらしい。毎日仏壇で線香を焚いている。ずっとこの彼女の家に居るのだろう、と信じ切っていた。
このときまでは。
あの頃の私の回想を思い出す。
彼女の夢は光を放ち、夢から予定となり、悪者の心の闇を切り裂く永遠の刃となり活動していくのだということを、私は知らなかった―――。