叔母
秋穂を迎えに来た親戚の男は、見るからに嫌そうな顔をして車に寄りかかっていた。
(ああ。やだなぁ。)
ズボンの裾をきゅっと握りしめる。
見も知らぬ親戚に自分を預けた母親を恨めしく思いながらため息を吐きたいのを堪え、家から出た。
***
ちらちらこちらを伺ってくる真白を視界の端に映して、延々と広がる田んぼの広がりを眺めてぼーっとしていた。
空気が良いから、と母親が言っていたことを思い出す。
古い一軒家で車は停まり、真白は荷物降ろしの為先に降り、秋穂ものろのろと車を降りて、何となく真白の傍に立っていたのだが、突然目の前に荷物を突き出され初めての経験に体がとっさに動かない。じっと見ていると真白が取らないのかとおかしなものを見るような目で見てきたので、我に帰り、リュックの肩紐に手をかけた。
ずっしりと、荷物の重さが腕にかかる。
少しドキッとした胸は気にしないことにしたが、やはり少し怖い気持ちも持って真白について家へ入った。
***
素麺が無くなり昼食を食べ終えてしまうと、いよいよ時間が近づいてくる。薬を飲む時間だ。これを飲まないと胸が苦しくなってしまうのだ。
しかし真白がいる前で飲みたくなかった。
病気と分かると皆、秋穂を可哀想な目で見る。知らないらしい真白にはそのまま知らないでいて欲しかった。
タイミングが掴めず、結局薬は飲むことができなかった。
***
(…ーーはぁ、苦し)
銭湯に備え付けの石鹸で髪を洗い、お湯で流した後、体を洗う石鹸を泡立てて手で体を洗っていたのだが、密閉された湿度の高い空間が思いの外辛く、くらくらしながらなんとか泡を流すところまでは終えた。
一刻も早く浴室を出ようと湯船に浸からず出ようとすると、
「秋穂くん、入らないのかい?気持ち良いよ。」
湯船に入ろうと片足を突っ込んだ真白の父親が優しく声を掛けてきた。
(もう、限界)
さぁーっと血の気が引いていき、頭がふわふわして立っていられなくなった。しゃがみこむと真白の父親が驚いて近づいて来る。
「あらあら、のぼせたかな?」
真白の父親に体を支えられて浴室を出て、急に温度が変わったからだろうか、さらに胸が苦しくなった。
「う…ん…」
母親に、急に涼しいところや暑いところにいってはいけないと言われている。
「どうしたんだ、秋穂くん?」
真白の父親の声が、妙に遠い。
秋穂を支える腕に必死にしがみついて、ぎゅっと目をつむった。
一度書いた場面なのであまり細かくは書きませんでした。