レベルとかステータスとか魔法とかある世界に召喚されたけど……思っていたのとなんか違う。
凄く短い異世界召喚ものです。
「申し訳ありませんが、規定レベルに達していないようです」
「そっ、そんな!?」
冒険者ギルドに絶望の声が響き渡る。
「それじゃあ、いったい何レベルからなら冒険者になれるんだ!?」
「規定では50レベルからになります」
「ごっ、ごじゅう……れべる……?」
悲壮な顔でギルド職員に詰め寄った少年に、無情な言葉が返される。
「またのお越しをお待ちしております」
夢遊病者のようにフラフラとギルドから出ていく少年――小倉剛の背にきわめてビジネス的な声が送られた。
小倉剛は異世界人だ。
もともと異世界召喚ものの小説を好んでいた剛は、この世界に召喚された時は歓喜した。
今日から俺TUEEEハーレム生活が始まるのだと確信した。
なにしろこの世界にはレベルやステータスといったものがあったのだから。
だが――現実はそんなに甘いものではなかった。
なにしろモンスターを倒せばレベルが上がり、確実にステータスが増すのだ。
当然のことながら、この世界の住人が弱いままでいるはずもない。
まだ幼いうちから積極的に害虫などを殺しレベルを上げ、ステータスが上がればモンスターを狩る――それがこの世界の住人の一般的ライフワークだった。
結果として一般人でもレベル20程度は当たり前。
モンスター狩りを生業としていた冒険者はレベル50が最低値というインフレ具合だ。
その上、先人たちが積極的にレベルを上げ、モンスターを狩っていったために魔王や邪神の類は軒並み全滅。
弱いモンスターは低レベルの一般人のレベル上げ用に飼われ、強いモンスターは絶滅危惧種。
今となっては冒険者とは日雇い労働者の別名という有り様だ。
そしてレベル1の剛は生まれたばかりの赤子並みに脆弱な存在だった。
いや、子供の方が成長が速くレベルが上がりやすいことを考えると、さらに立場は悪いと言えるだろう。
しかも剛にとっては最悪なことにこの世界は――
「何なんだよ……この世界は……」
こんなはずではなかったのだ。
異世界人としてがんがんレベルを上げて、凶悪なモンスターや悪人を蹴散らし、魔王を倒し世界を救い、そんな自分に惚れた女の子たちとイチャラブする――それが剛が想像していた異世界召喚なのだ。
しかし現実にはそこらの子供ですら剛よりもはるかに強く、モンスターや魔王なんか居やしない。悪人に至っては――。
当然ながら可愛い女の娘との出会いもない。
それならば知識・技術チートをしようと思い立ってもこの世界では――。
剛は絶望的な心境で顔を上げる。
眼前にはもちろん異世界の光景が広がっている。
自分のいた世界よりも格段に進歩した未来世界のような異世界の光景が――。
――この世界には魔法というものが存在した。
それは言うなれば、人間がいる限り尽きることがなく、環境汚染の心配もないという夢のエネルギーだ。
剛が想像していた中世ファンタジー風だった時代も確かにあった。
しかし外敵であるモンスターの駆逐が概ね完了した頃から、人間は技術力の向上へとその力を注ぎ始めた。
なにしろステータスにおいて地球人を凌駕する彼らである。
闘争へとリソースを振り分けなければ、その進歩のスピードは圧倒的だ。
加えて魔法という独自技術が備わればどうなるかと言えば、それは剛の目の前の光景が如実に物語っている。
……剛の有する知識など誰も必要としてはいなかった。
剛はこれからどうしていいか分からず頭を抱える。
彼を召喚した王様はこの世界で自活できるまでの支援を申し出てくれたが、それを思いっきり蹴っ飛ばしてしまったのである。
「自分は飼い犬にはならない」――そんな風に嘯いて。
冒険者になって活躍すればいいと思い込んでいたのだ。
いまさら保護は求められない、さりとて働き口があるかもわからない。
それでも生きていかなければならない――どうしようもない弱者の立場で。
犯罪者になることなど考えられない。
恐ろしいことにこの世界では犯罪行為に走る人間などほとんどいない。
……なぜならば犯罪者は狩られるからだ、少なくなったモンスターの代わりに。
精神魔法の進歩のおかげで冤罪もあり得ないらしい。
改めて自身の立場を整理した剛は、死んだ魚の眼のまま職業紹介所へと足を向ける。
ステータスが低くともできる仕事を求めて――。
召喚理由はただの実験で、王様の申し出は純粋に親切心です。
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