夢の端で
夢が叶うなら、どれだけ嬉しいことだろう。夢を実現したならば、達成感に心を震わせるだろう。自分の目標だったものや叶えたかった夢が、手のひらにおさまるのだ。夢が叶ったならその人は祝福されるだろうし、仲間と達成した夢ならその幸せを仲間と分かち合うのだろう。これを悪い事だと思う人は心が荒みきっていない限りはいないだろう。
夢が叶う人がいるなら夢が叶わない人も、いる。
嘆き、悲しみ、涙し、悔やみ、悲壮感に身を包まれる。夢を叶えた人と同じく、周りからは声をかけられる。しかしそれは祝福の声ではなく、「残念だったね」「ドンマイ」といった同情の言葉のみ。仲間がいれば分かちあえたのだろうか。分かちあえれば気持ちの整理が出来たのだろうか。
彼女はそうはいかなかった。彼女は陸上の全国大会を目指して日々練習を重ね、努力の上に努力を積み、彼女には陸上の全てが彼女の青春だったし、彼女も陸上に全てを捧げていた。そして、遂に3年最後の大会で予選決勝まで上りつめ、優勝すれば全国大会への出場が決まる大会で、彼女は。
あっさり負けた。あっけなく、負けてしまった。勝負にすら、ならなかった。彼女が悔し涙を流す中、優勝し全国大会への切符を手にした彼女は笑っていた。走り終わったあとにも関わらず、ニコニコして、まるで今の走りなど興味が無かったようだった。
彼女は許せなかった。自分の3年間を踏みにじられた気分だったのだ。周りからは、「あの子が凄かったんだよ」「天才なんだよきっと」「あれに負けるのはしょうがないよ」と言われ続ける。彼女にある感情がふつふつと湧き、蝕んでいく。
嫉妬だ。嫉妬に対して彼女は向き合えなかった。嫉妬の炎が燃え上がり、彼女は一生恨み続ける。あの一瞬を、夢が敗れた、その瞬間を。