公園の端で
とある街の住宅街、そこにあるのかも分からないような、小さく寂れた公園のベンチには、月明かりに揺れる2人の人影が話しているようだった。
空にはオリオン座と歪な形をした月が貼り付けられたように、浮かんでいる。
「お互い似たもの同士なのだろうね、ここで話すのも運命を感じるよ」
「俺は運命なんて感じないけどな、お前と似てるなんて言われると吐き気がしちゃうぜ」
「そんな事言わないでおくれ、私のメンタルは障子紙より脆いんだ」
1人は芝居じみた口調で、1人は抑揚のない声で、お互いの心の内を悟られないようになのか、元々そういう口調なのかは分からないが、2人の会話がひどく噛み合わないように聞こえる。
「君はどうしてこんな所にいるんだい?」
「いちゃいけないのかよ」
「いてもいいよ、君がここにいることに反対する人なんて誰もいない」
「俺はお前に消えて欲しいんだけど、俺は1人になりに来たんだ」
「それなら他をあたる事だね、ここは私のお気に入りだから」
そういうと1人は立ち上がり不気味な笑い声を上げて、空を見上げる。
「まあ、嘘だけど」
そう言うとジャケットのポケットに手を突っ込み寒そうに足踏みを始める。
「本当かどうかとか俺には関係ない、俺の目に映るものが真実で俺の目に映らないもの全てが虚偽だ。誰の言葉も信じない」
「おー、素晴らしい信念だ。自分の意思で決定するのはとてもいい事だけど、寂しい人生送ってるね。そんな君にはプレゼントを送ろうじゃないか」
ジャケットのポケットから手を出すと右手には包丁が握られていた。刃がきらりと光り、目を眩ませる。
「ここで話した事は天国でも内緒にしてね」
「随分話し込んだ気がするな、それでも天国までこの話を持っていくのは難しい」
刹那、ドンッと鈍い音を立てて包丁が突き刺さり、その場に倒れる。流れた血がジャケットに染み込んでいく。まるで無理矢理にでも、命を終わらせようとしているかのように血が流れ、そこには何も残らなかった。