5話
「零石とは今までゴーストが食らった人間の搾りかすの集合体だ」
突然我孫子が口にした。
「ゴーストハンターが使用する武器には必ず零石が含まれている。そしてその量によって武器としての強さが決まる」
突然やってきただけではなく突然始まった謎の一人喋りに俺は唖然とするしかない。
「零石を使用した武器は、使用者を選ぶ。選ばれていない人間が使おうとすれば、まるで使い物にならない。刀なら斬れなくなるし、銃なら撃てなくなる」
そこまで言うと、一度席を立ち我が家の冷蔵庫を何の遠慮もなく開けた。中からジュースを取り出すと、一瞬のためらいも見せずにそれを直接口に運ぶ。
「まあ、選ばれていても精神的、肉体的疲労の溜まりようによっては使い心地に変化が出てくるんだけどね――八神君、このジュース美味しいよ」
そう言って更に我孫子はジュースを口へと流し込んでいった。
「ただし、タケミカヅチはどうも例外らしい――まあ、零石を四倍近く使っている時点で例外なんだけどさ。適性のない人間には鞘を触ろうとしただけで辺りに電流を撒き散らすし、消えるし、初めて手にした君だって鞘から抜けなくなってるし、声が聞こえたって言うしね」
我孫子は牛乳パックの中を覗きこむと、少し残念そうな顔をして、それをシンクに置いた。中身がなくなったということだろうか?
「僕が思うに、タケミカヅチは意思を持っている」
「嫌われてるとでも言いたいのか」
「いやいや、とんでもない」
ニヤニヤとした、見ていて気分のよくならない我孫子の笑顔に、疲れを感じながら話の続きを黙って聞く。
「使用した零石の多さゆえに精神的負担が大きいために、ある程度の精神負担に耐えうる程度に心の余裕みたいなのがないと使わせてくれないんじゃないかと僕は思うよ。もしかしたら強い意思とかで強引に使うことは可能かも知れないけど」
「なんか俺の心に余裕がないみたいな言い方で腹立つな」
「僕はそう言ってるんだよ」
笑顔のまま、ニヤニヤとした笑顔のまま、我孫子は平然と言った。
「だからね、今日僕がここに来たのは、しばらく休むといいよって言いに来たのと、まだ書いて貰ってなかった書類へのサインを貰いに来たんだ」
そう言って俺に差し出された書類には細かな文字で、長々と頭が痛くなりそうな硬い文章がびっしりと詰まっていた。
しかし、最後の最後、サインをすると思われる場所のすぐ上に明らかに手書きで、やたらとでかい文字で、
『己が目的のために力を振るえ』
そう書かれていた。
「ああ、そこに書かれていることは気にしないでいいよ。ボスがいつも勝手に書いてるだけだから」
我孫子はそう言ってあっさりと帰ってしまう。
彼は何がしたかったんだろうか。もちろん、書類のことが主だろうが、わざわざやってきて唐突にタケミカヅチの話をしだし、人の家の冷蔵庫を漁っただけでなくジュースを一本飲み干して平然と立ち去る。
やっぱり我孫子は変な奴だ。
というわけで、5話でした。
至らぬ点が多々あるとは思いますが、少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。