17話
「そろそろ口を利いてくれないかい?」
我孫子は困ったような顔で俺に言っている。俺は答えない。あれから三日、いや四日が経ち既に俺の串刺し状態は周知のものとなっていた。
恐らく喋ろうと思えば喋れる。しかし、気力が湧いてこない。完全な無気力状態。ここ四日ほどは本当にだめだ。このまま死んでいくんだろうと思えるほどに気力が湧いてこない。もちろん、もともと死ぬつもりでいたんだからこのまま死んでしまおうと構わない。
「八神君、僕は寂しいよ。最近じゃみんな忙しいから僕暇つぶしの相手が君しかいないんだ」
もう何度聞いたか分からない台詞をまた我孫子は吐いているが、気力前回の俺だったとしても仕事しろよと言うだけだろう。
「最近はゴーストが多くてね」
それも俺のせいなのだろう。ゴーストはゴーストを呼ぶ、いつかボスに言われた。つまり、俺がゴーストを呼んでしまったのだ。さらに俺は二人を手負いにしている。どうしようもなく俺はこの世界に危険の種をばら撒いたということだ。
ただ、俺はもう関係ない。どうせすぐに死ぬ身だ。一度ゴーストになったせいか嫌に体が丈夫なのが腹立たしいが、決して無敵というわけではない。きっといつかは死ぬ。
「はぁ、八神君。ご飯くらいは食べなよ。体に刺さった刀のことも喋らないことも、僕は構わないでいてあげるけど、食事は取らないとだめだ。いざって時困るからね」
そう言って我孫子は去っていく。
俺をまだ何かに使う気なのだろうか。もしそうなら、体に刺さった刀のことくらいは気に掛けるべきだろう。正直刀を抜いて三十分も放置しておけば傷口が塞がる程度には修復されそうではあるが、しかし気には掛ける部分の一つではあるだろう。
俺はここでこのまま死ぬつもりだが。
「いつまで、俺は生きているんだ」
ぼそぼそと、掠れた声で言った。
何で俺は死ななかったんだろうか。我孫子は零石がどうのみたいなことを言っていたが、それにしても心臓を突けばいくらなんでも俺も死ぬはずだ。しかし俺は生きている。意味が分からない。それに遥が俺に撃った弾丸が弾かれたのもそうだ。
誰が俺を生かしているんだ。誰が俺の死を妨げているんだ。
わけがわからない。
「八神君」
神妙な面持ちで我孫子がやってくる。帰ったんじゃあなかったのか?
「君がゴーストになったときに僕達が観測したのと良く似たパターンの信号が検知された。タイムリミットは六四時間だ」
六時間、よほど大きなやつなのだろう。もしくはよほど強いのか。まあどちらにせよ俺には関係ない。なんたってまずここから出れないし、そもそも出る気がないし、出たところで即座に自分の首を落とすだろうかな。
我孫子は俺の反応を見て、半ば諦めたような笑みを浮かべる。
「まあ、頭の端にでも置いておいてくれると、嬉しいよ」
そして再び我孫子は去った。
もちろん、置いておくつもりなどない。しかし、俺の頭はいらない情報をすぐさま捨てるなどという便利機能は搭載されていないらしく、六時間程度ならばどうやっても記憶に堂々と居座ってしまうだろう。
というわけで、17話でした。
至らぬ点が多々あるとは思いますが、少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。




