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12話

 二度目の訪問となる夢世界に、ほんのりと緊張を感じながら、一人の女性を待った。

「こんばんは」

 突然俺の前に霧のようなものが寄り集まって、一人の女性を形成していく。やがて姿をはっきりさせると、俺は夜とは思えないほど白いこの世界の中で、夜の挨拶を口にした。

 今回、女性は白地のワンピースに黒い花柄の刺繍が施されたワンピースを着ている。これはイメチェンということだろうか?

「イメチェンですか?」

 困ったように肩を少し持ち上げてから、女性は首を横に振る。

 他に何か変わったことはないかと、辺りに注意を払ってみると、所々にひまわりのような見慣れない植物が生えていた。見た目はひまわりその物なのだが、色が黒かった。葉、茎、花びら、種に至るまで、黒一色。まだ、無限と続いているように思えるこの世界に、片手で足りる本数しか生えていないが、この植物で辺りを埋め尽くしてしまうようなことがあったら、ちょっとしたトラウマ物かもしれない。

「目元とかがなんか影になってて見えにくいんですよね。それがどうにかなれば思い出せるかもしれないんですけど……」

 もしかすれば思い出せるかも、と思い尋ねてみるが、駄目ということなのだろう。女性は頭を下げた。

「頭を上げてください。仕方ないことですからね」

 今日はやたらと頭を下げられる日である。

「うーん、それにしてもこの夢どんな意味があるんですかね?」

 夢の国の住民に尋ねることではないと思うが、しかしこのやけにリアルな夢の中であれば俺の予想など超えてくるかもしれないと僅かに思っていたのかもしれない。

 女性は指で宙をなぞり、文字を描いていく。絵がかれる文字は、煙のようなもので実体化していき、鏡文字ではあったがそれによりはじめて言葉らしい言葉を俺は受け取った。

『ケイコク』

「警告? 何かよくないことが起こるってことですか?」

 女性は力強く一度だけ首を縦に振る。

 俺は彼女の言葉の意味をいまひとつ理解できずにいた。言葉の意味自体は理解できるのだが、もしも本当に警告ならいつもタイミングが少しだけ遅い。一回目はタケミカヅチが抜けなくなった後だし、二度目――つまり今回はゴーストに襲われた後だ。

「これから起こるんですか?」

 女性はやはり首を縦に振る。きつく結ばれた唇や、力強く頷く様がどうしても嘘を言っているようには思えなかった。

「あ、そうだ。俺たちはどんな関係だったんですか? 今みたいに書いて教えてください」

 少し悩むような素振りを見せた女性だったが、こちらは少し笑みを唇に浮かべ頷いた。

 そして一言一言しっかりと考えながら文字が浮かべられていく。

『ヒーローとヒロイン?』

 最後のはてなマークが気になるが、どうやら彼女にとって俺がヒーローで俺にとって彼女がヒロインらしい。俺のヒロイン、というのは過去にかかわった女性ならば全員に当てはまる可能性を持っているが、果たして俺が誰かのヒーローだったことなど一度だってあったのだろうか。

 俺が一人悩んでいると、より薄くなった文字でこう書かれた。

『ムリハダメ』

 気が付けば女性は姿を消していた。

というわけで、12話でした。

至らぬ点が多々あるとは思いますが、少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。

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