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爆砕と平和賞  作者: じむ
プロローグ
9/12

7:名誉の無い戦いの先で

──それは剣戟と呼ぶには、あまりにも、決定的に、質が違う。そう思ったカーストレスのリーダーの頭には、驚愕と疑問で埋め尽くされていた。

その原因は、目の前の状況にあった。

カーストセーバーは変わらずに笑みをたたえて立っており。

その足元で先陣を切った仲間たちが、またしても吹き飛び、叩きのめられている光景である。


何が起きたのか、まるで理解ができない。

目の前の青年一人なぞ楽に轢き潰せる速度と人数での陣形を組んだ槍と剣の特攻。並の兵士の包囲網ならば余裕をもって突破できるし、事実今まではそうしてきた。一度として一人の仲間も損なったことがない。

それが、止められた。

それも先頭の、屈指の突破力を誇る仲間達二人を二度も叩き伏せた上で。


……しかし、それでも全員が止まらなかったのは、決死の覚悟を持った者の英断であり、土壇場の判断力に自信を持たせる経験のなせる業であった。

倒された仲間をかばう形で後ろの人員が素早くバクスを取り囲んだ。

一転突破はこの男には通用しない。

ならば、多角的に。

剣を振りおろす。

そして、その音を聞いた。

先ほど仲間が叩き伏せられた、その剣戟を。


自分が降り下ろしたのは剣である。オーソドックスな幅広の長剣。

しかし、それを受け止めたバクスの得物は、少々剣と呼ぶには特殊な形状であった。


それは巨大な歯車の一部を鶴嘴のように柄に取り付け、無理矢理に刃に加工したような形状をしていた。

歯車の左右の歯は小さく鶴嘴状に尖った柄の先端辺りに付いているが、注目すべきは中央の歯である。

それは歯と呼ぶには遥かに長く、剣と呼ぶには少々短く分厚く、しかし刃だけはしっかりと形を成していた。

そして、その長く伸びた柄や鍔に当たる刃との接合部には、更に幾重もの機械仕掛けの歯車とパイプがついていた。

穿ち叩き斬る機械。そんな印象を受ける武器であった。


それでも、近接武器である。そして同じような体型の人間が、同じような速度でそれぞれを狙った一撃である。

何より、一人対五人。

最初の十人から半数が削れたが、それでもその数は未だ力。負けるわけがなかった。

だというのに、結果は何もかもが違う。

衝撃も、感触も、音も。

まるで、岩山に叩きつけたように、自分たちのの剣が負けるのだ。

しかし今度は驚きはなかった。

そうなる前に、衝撃がリーダー自身の身体を襲ったからである。

転がり、受け身を取り、ようやく体勢を立て直す。

顔をあげた先には、時間差で多角的に攻撃を入れた仲間が全員自分と同じように吹き飛ばされ、体が痺れたように倒れたまま、あるいは膝を屈して満身創痍の様相を呈していたりと、死屍累々の光景が広がっていた。

全員をほぼ同時に吹き飛ばしたのだろう。

一体何がそれを実現させたのか、解らなかった。

たまらず、声が出た。


「こんな……こんな事があるか。都市最強の精鋭といえど、生身の人間が、この人数を正面から相手取るなど、まかり通っていいものか!」


「おう、そうだなあ。こんなこたぁ全く出鱈目だ。


――お前ら"普通の人間"ならな」


そして返された言葉に、止まり、その言わんとすることに驚愕を覚えることとなる。


「……まさか、」


「そ、バグ持ち」


軽く言い放たれた言葉は、絶望であった。

今の世界の前に存在した世界……旧世界の法則を身に宿したとされている者の存在を知らぬほど、名誉無も無知ではない。

そして彼は同時に理解せざるを得ない。今まで自分達が挑み、完膚なきまでに叩き伏せられた物は、世界の法則の一端そのものであるということを。


「安心しろよ、俺のバグは単純なもんさ。勝機はあるかも知れねえぜ?」


そんな言葉も、気休めにもならなかった。

事実とあまりにもかけ離れているのを考えずとも、バクスがリーダー、ひいてはカーストレス達の事を完全に侮っていることが解った。

それに怒りが沸く。

しかし、同時にそれも仕方がないと思ってしまった。

リーダーはその考えに自分を叱咤する。


絶望的ではあるものの、心まで折れてしまったら本当に勝てなくなってしまう。

この場合の勝利は挑発に打ち勝って、最低限の被害で撤退することであると。

冷静に。冷静に。

息を吐くと、その顔に浮かぶ動揺はまたなりをひそめた。


「……全く、悪い冗談だよ。しかし、私は未知数の勝機にすがりはしない。逃がしてもらおうか」


そういうと、叫ぶ。


「お前達!行け!!」


どうやらそれは合図であったらしい。

その音を聞いたとたんに、それまで三人一組で他の兵士の足止めに当たっていた取り巻きのカーストレス達が動いたのだ。

まるで蜘蛛の子を散らすように、兵士たちから離れる。

そして、兵士たちが追うより早く、一つの塊となって踵を返し、走り出したのだ。


「……ほお。仲間を逃がして自分は足止め、ってか?感動的ぃ」


その光景に、バクスはあわてるでもなく、感心したようにつぶやいた。

自嘲気味にリーダーは返した。


「当然の結論だろう。バグ持ちのカーストセーバーがひとり。そして後から来たカーストセーバーが二人。この程度の被害で済ませるならば、安いものさ」


どうやらその場に到着したバラドラルとリーに気づいていたらしい。

その返事に、「そうかい」とバクスはつぶやくと、リーダーに剣を向けた。


「んじゃあ、足止めよろしく頼むわ」


予想外の反応であった。


「いいのか?悠長に私などの相手をして」


「まぁ、決死の覚悟だ。相手しなきゃ失礼だろうよ」


リーダーの質問に、肩をすくめて答える。

その言葉に何を思ったのか。

リーダーは苦笑をして、剣を取ってバクスに向けた。

そこには先程よりも強い気概があった。


「では、私は散れども、仲間の未来は逃がして貰おう」


「頑張れよ」


その言葉を皮切りに、リーダーは痛めた体で踏み込んだ。

繰り出したのは突き。

速く鋭い、そしてリーチに優れた一突きである。

振り下ろしは駄目だった。ならば、少しでも速く、長く、局所的に。

果たしてその狙いは、叶ったのだろうか。


否であった。

金属音。続いて起きる乾いた音。

刃が、根から折れた。


「――っ!!」


「――はい残念」


わかっていたことだ。

カーストセーバーのバグ持ち相手に、多少腕が立つゴロツキのリーダーがかなうはずもないと。

だから、それだけでは終わらなかった。

そのまま、剣を投げる。

もちろんバクスは難なく避けた。

しかし、次の行動は予想だにしないものだったらしい。

リーダーが、避けたバクスに飛びついたのだ。

捨て身。その表現が似合うほどに鬼気迫る顔つきで、自分の身体をバクスにぶつけたのである。

それを受けたバクスは、改めてリーダーの覚悟を知った。

逃げるチャンスなどはなから期待していない、本当に仲間を逃がすための特攻。


「いい覚悟じゃねえか」


珍しく、心から相手を称賛する。


――だからこそ、謝った。


「――無駄にして悪いな」


……最初、意味がわからなかったリーダーは、その視線を追うことで理解する。

絶叫は、怒りか、絶望か。その両方なのだろうか。

逃げていた仲間たちが、次々と倒れていた所であった。

なぜだ?

なにがあった?

疑問と驚愕が支配する。

そしてすぐにそれも理解した。

風切り音が自分の横を通り過ぎた。

矢のように飛んだそれは、倒れた同胞の剣であった。

飛んできた方を見ると、二人のカーストセーバー……リーとバラドラルがいた。


瞬時に理解する。

そして、今度こそ、心が折れた。


「は、はは……なんだ、やはり、出鱈目だな、カーストセーバーというのは――


――バグ持ちが三人だなんて」


「……安心しろよ、俺達だけだ」


「何の……気休めにもならない……な……」


ずるずると、腕を掴んで離すまいとしていた手が、落ちていく。

それを見て、何を思ったのか。バクスは声を上げた。


「……名誉がないやつに人権は無ぇ。

だけど例外はある。たった三人でこんなに使える駒を、罪人に仕立て上げる必要はない。外に出して危険を増やすのなんざ論外だ、ってのが、お上の考え方だ。


自分の逮捕が取り消しになった理由がわかったかい?お嬢ちゃん」


――飛んできた質問に、少女は何も返すことが出来なかった。




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