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爆砕と平和賞  作者: じむ
プロローグ
8/12

6:少女の視界で

「お、誰かと思えば今日の……なんだっけか名前。あ、聞いてねーや」


呆然とテロリストのいた己の場所を眺めていた少年兵は、その声で我に返った。

目の前にいたのは。


「この状況で、よく耐えたもんだ。大人達(ざんねんども)より仕事が出来るぜ、お疲れさん」


今日、収監された犯罪者を捕まえたカーストセーバーの青年だった。

「ああ、まだ下級階層にいたのか」

「大門が開いたから、調査とかで残ってるのかな」

「ああ、たしか重要参考人がどうとか」

「そういえば自分も名前きいてなかったな」

「ていうかカーストセーバーって隊員の名前とか全然聞かないな、緘口令とかひかれてるのかな」……。

エトセトラ、エトセトラ。様々な思考が雑踏のように通り過ぎ混乱する。

と、本日二度目、青年に対して口ごもる少年兵に、後ろ手に手がつき付けられた。


「今日は早上がりだ。あとはまだ元気な俺達(いぬっころ)と中間管理職に任せな」


そしてそれだけ言い残すと、完全に背を向けた。


さて、と。

漸く、テロリスト側からのざわめきに、青年……バクスは一瞥を返す。

視線の先に群がるテロリストたちには出鼻をくじかれたことへの動揺と、カーストセーバーの紋様をつけたバクスが現れたことへの驚きが如実に表れていた。

そんな動揺の中でも、一人の男は口火を切った。

少年と刃を交えていた、テロリストのリーダーだ。


「……カーストセーバーが下級階層なぞにいるとはな」


どうやら、バクス達カーストセーバーが下級階層にいることは知らなかったらしい。

その言葉に、バクスは笑った。


「はっ、情報弱者も甚だしいとかそれ以前に、大門が開くとかいう爆世紀末なイベントが起こったんだからちょっと考えりゃわかんだろ。ガキにも束にならなきゃ勝てねーわさっきのも避けられないわ思慮は爆浅いわてめえらは中身も外も案山子かなんかか阿呆共」


……背後の少年が、唖然としてバクスをみているのが背中越しにでもわかる。

先刻も大分フランクだとは思っていたが、今回はフランクどころか、テロリストもびっくりな口の悪さである。

一方、目の前のざわつきには、少しではあるが、はっきりとした敵意が含まれた。


「カーストセーバーは、もう少し毅然としたものだと思っていたよ、驚いた」


「ほーかい、そりゃ夢壊して悪かったな。」


少年が思っていたようなことを、奇しくも男が口にする。

前からも後ろからも伝わってくる似たような感情に、バクスは笑って肩をすくめた。


「まぁ安心しろよ俺だけだ、イメージ通りの武人みたいなやつなら、近いうちにお目にかかれるだろうぜ」


「……他にも、この階層にいるのか?」


「あー言っちゃったーやだー。お二人さんが後ろからえっちらおっちらなんて、口が裂けてもいえないわーん」


固い表情での質問に、ふざけたようにおどけて回って見せる。

そんな様を見ても、その内容は動揺を格段に助長させていった。

あと二人。

こんなふざけた態度で、あっさりと先頭の仲間をまとめて葬った人間が、あと二人。

……冗談ではなかった。

そして動揺は恐怖となる。


「さあて、散々革命だとか言いつつ中級階層にさえ来ないで大したこともしてないお前らも、今回ばかりは多少お灸が必要だよな?」


己らの想定を遥かに越えたがゆえに、本当に案山子のように立っているだけのカーストレス達に、バクスは笑みを浮かべた。

脅威に怯える人間にとっては、その脅威が笑う事さえもが、ひどく恐ろしい事であったらしい。


「っ、撤退だ!」


「ーー次は俺と遊んでくれよ」


焦燥に満ちた鋭い指示と、笑みを称えた気楽な声が重なった。


カーストレスたちは即座に踵を返す。

その際に殿となる集団はそのままバクスを警戒するべく半身に構え、先頭となるものは一点突破を狙って、陣形を形作る。

彼らの行動はごく自然で、迅速だった。


こと撤退戦においては、彼らはカーストの兵士より遥かに優れている事だろう経験がある。

これまで堂々と道に出て兵士に戦いを吹っ掛けた後に、最小限の犠牲で逃げ仰せる実績がそれを物語っていた。

さらに、今回はそれに輪を掛けて鋭く速い撤退行動であった。

目の前にいるのはカーストセーバー。

この都市最強の矛と盾、最大の脅威と言われる精鋭の一人。その現実が、彼らに過去最高とも言えるスムーズな動きを実現させたのだ。


「行くぞ!獲られるな!」


リーダーが叫ぶと同時、陣形は一体となって走り出した。


「おーおー、来るねえ」


――その進行方向に、いた。

先ほど自分を追う位置にいたはずの、(バクス)が。


「……なん、」


理解が追いつかない。

先ほどまで背後にいた彼が、自分たちの進路上に立っている。

今まで、こんな事は無かっただけに、彼らの動揺は激しく彼らの歩幅を鈍らせた。


……なんにせよ。

彼らは悟ることになる。

このカーストセーバーから逃げることは不可能である、と。

リーダーの逡巡は一瞬。


「……構うな。どのみち退路は無い!突き進め!」


すぐに、その突進は鈍らせた歩幅に力を取り戻し、さらには勢いを増すまでになった。


「お、諦めがいいのはいい事だぜ?」


「生憎、諦めの情など抱くつもりは毛頭無いがな……!!」


そんな彼らにもおどけるようなバクスの言葉を、リーダーは一蹴して会話をきった。

どの道もう、会話が続くような距離ではない。

ここから先は、暴力がものを言う距離となる。


───────────────────────────―――――――


状況はなかなかにまずかったようで、なんとか間に合ったことにリーはひとまず安心した。

と。手に掛かる軽い重みに視線を向ける。


「は、速い……」


全く少女の事を考えていなかった事に気づいた。


「あ、ああ!ごめんごめん、ちょっと緊急事態だったんだ」


手を離して謝罪を述べる。

述べながら、視線は前……バクス達へと向く。


「お陰で間に合ったよ」


「……でも、あの人数じゃあ……?」


満足げな笑顔のリーに、少女は息を整えながら訪ねる。

視線を追って人数の差に気が付いたようで、その表情にはありありと不安と疑念が浮かんでいる。

しかし、その問いよりもまず、リーは別の質問に対して口を開いた。


「さて、お嬢さん。バグ持ちについてだったね?」


「え、あ、うん」


先程の問いを思いだし、頷く。

戸惑ったような少女に淀みなく続ける。


「この世界がどうやって出来たのか、知っているかな?」


「……バクス、さんたちから聞きました」


名前を思いだしながら、現在対峙しているバクスに指を指して答える。


「それなら話は早い」


頷くと、そのままリーは説明を始めた。


「──聞いての通り、この世界は前の世界の骸の上に出来上がった新しい世界らしい。

そう考えられている理由の一つに、この"バグ"という存在があげられる。

バグは、この世界が生まれたときからある、この世界の法則を歪める力だ。

その実態は定かではない。一説によると、残留した前の世界の概念や法則が、そのまま人や物、現世界の森羅万象に干渉している、いわば自然現象の様なものとされているらしい。

……その"バグ"を身に宿した人間は、この世界の誕生から存在している。

超常的な概念と法則の力を、その身一つで振るう人間。それが、バグ持ちと呼ばれている人間だよ」


「……私も?」


「そうかもしれないという話が出たってだけだけどもね。

バグ持ちにはタイプがいてね。お嬢ちゃんみたいに気が付いたらバグが発現する突発的なタイプ。逆に生まれながらに自覚しバグを振るえるタイプ、とかね。……いや、お嬢ちゃんの場合は記憶がないから、なくなる前は普通に使ってたのかもしれないけどね」


記憶がないんじゃあ分類さえままならないと苦笑する。

苦笑しながら続けた言葉に、少女は目を見開くこととなる。


「そんなすごいバグにはね、色々な種類がある。例えば、物を加速させるものもあれば、遅くするものもある。くっつける力もあれば、遠ざける力もある。元々が世界の法則だっただけに、本当に多岐にわたって、バグは存在するんだ。

……そんなバグ持ちはね、種類によっては人間離れした力を発揮する者もいるんだよ


──彼のようにね」


咄嗟に視線を追って、その"彼"を見た。

……そこには、七名の突撃と真正面から対峙しているバクスの姿があった。

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