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第二体育感4

「おかりなさい、ソウくん?」

 帰宅し、自分の部屋に戻ると、サエカが椅子に足を組みながら腰かけていた。

彼女の家は隣のはずなのに、ブラウスにタイトスカートというフォーマルな服装。

ストッキングが部屋の光で妖しく輝いている。

「ただいま、サエカ」 

挨拶をすると、彼女が椅子の前に転がっている座布団を差したから座布団の上に正座した。

目線が、サエカ先生のスカートと同じ高さにあるのに、足を組んでいるせいで見えない。

 思わず舌打ちをすると、組んだ足に重ねられた手が、一瞬ピク、と反応した。

 ……あぁ、まずい、サエカが怒ってる。顔が見れない。

その一瞬、視界の隅でサエカが足を組みかえた。

 これは見える!

 とっさに顔をあげたときには、彼女の足は組みかえられている。完全にトラップだった。サエカにさりげない動作で顔を上げさせられていたのだ。

 もはや、顔を下ろすこともできなかった。

 サエカのグロスで輝く唇が動いた。

「帰宅部なのに帰り、遅くない?」

「帰宅部の活動だよ……ノボル達と遊んでたんだ」

「へぇ? 夕飯作って待っているお母さんに連絡もなしに?」

「もう高校生だしさ、報告するまでもないよなぁって――」

「私がどういう人が嫌いか知ってるよね?」

「……うそをつく人でございます」

 彼女はよろしい、と笑顔を浮かべると問いかけてきた。

「ソウくんは、最終下校時刻を過ぎてまで学校で一体何をしていたのかな?」

 観念して、学校のことを素直に話した。

ノボルに見せてもらった写真のこと。それを確かめるために、第二体育館に入ったこと。でも写真を撮っても何も起こらなかったこと。

 ミヤビがいたことについては黙っていた。彼女は一生懸命練習に取り組んでいる。それに水を差すような真似をしたくなかったのだ。

「あの時間に、三人で、人がいないのにも関わらず、第二体育館へいったのね?」

「さようでござ――」

「この大バカ者!」

 返事をする前に、サエカは血相を変えてソウマの両頬を抓った。彼女の手にはかなり力籠っており、そのまま、床に押し付けられる。とても痛かった。ほっぺたよりも、心の中がヒリヒリと痛むのがわかった。

 サエカの表情から、本当に心配していたのがわかったから。

「なんであの時間に、体育館に行ったの! ソウくんみたいな怖がりが。危ないじゃない!」

「でも、別に何もなかったし――」

「それがラッキーだったの!」

「え? でも……」

 ミヤビは、きっと毎日のように残っている。それでも、なにも起こってないのだから、大丈夫なのではないか。

 喉元まで出かかったその言葉をどうにか飲みこんだ。サエカは小首を傾げながら、訝しげな眼差しでこちらを見つめながらも、ゆっくりと話を薦めた。

「第二体育館は本当に危険なの。一人であそこにいると、たまにだけど、大怪我したり、気が狂ったりすることがあるから……あそこには、悪霊みたいのがいるのよ」

「オレに何も起こらなかったのは?」

「きっと、ココネちゃんやノボルくんがいたからだと思う」

 身体から、血の気が引くことがわかった。もし、体育館に入ったとき中でミヤビが一人で練習していなかったなら、本当に悪霊に遭遇していたのかもしれない。

 脳裏に体育館に入ったときの状況がフラッシュバックした。

ミヤビの外れたシュートがリングに弾かれたとき、明らかにおかしな軌道を描いて、ボールが飛んできた。舞台に飛び乗ろうとしたときも、誰かに足を引っ張られた感覚があった。

 今なら確信できる。それは、サエカが言うところの悪霊の仕業だと。

 きっと、ミヤビがいたからこそ、悪霊からの攻撃もあれくらいで済んだのだろう。

 そこでようやく、ハッとした。

「もしかして、サエカはナオトを悪霊対策に呼んで浄化してもらおうとしている?」

「本当に出席日数も危なくなるから注意しているのもあるけどね。だけど、数日前も顔を出しに行ったんだけど、やることがある、と言って学校に行こうとしないの」

 サエカに、ほっぺたを弄遊ばれた。

「分かっていると思うけど、ナオトちゃんは、穢れを浄化する力を持った巫女の血を引いているわ……その娘のナオトちゃんに、あの体育館を見てもらいたいの」

 でも、ナオトは自分の霊力が弱いと言っていた。だからこそ、浄化に時間がかかっている。

 心の中の言葉を理解したように、サエカは一度頷き、真剣な表情でこちらを見つめる。

「ナオトちゃんは悩んでると思うの。だから友達として、あの娘に手を差し伸べて欲しいの」

 そしてサエカはベッドから立ち上がると、少し捲れ上がりそうになっていたスカートを直し、部屋から出て行った。

「ソウくんが無事でよかった」

 扉越しで、そんな声が聞こえた。


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