③
ふぉぉぉぉ、なんじゃこりゃ!
マジか!幻覚とかじゃなく、本気か!
どっ、えぇー。
どうすれば、いい?何が、正解?
誰か教えてください、神様、仏様、稲尾様~~~!
混乱の境地、今の夏海の心情を良く表す言葉である。
風呂場で発生した彼女の叫び声は病棟の端から端まで響いた。
もちろん看護師さんたちの詰め所にも届く。
次の瞬間、バタバタという足音共に扉が勢いよく開かれる。
「なっちゃん、大丈夫!」
此方の様子を窺うように顔をのぞかせる数人の白衣の天使たち。
彼女たちの心配が杞憂であると思わせるために、なるべく元気よく答える。
「うん、大丈夫!ちょっと転んじゃって!」
「どこか打った?」
「ちょっとお尻打っただけだし、大丈夫!」
苦しい言い訳である。だが、ここで納得してもらわねば意味がない。
身振り手振りを加えつつ、なんとか大丈夫だという事を納得してもらう事に成功し
お風呂が終わったら処置室に顔を出すという約束と引き換えにようやく一人の空間を手に
入れる。
「はぁ~、びっくりした~」
安堵のため息と共に湯船に浸かり直す。彼女の目の前には宙に浮かぶステータス画面。
「どうしたもんかな~」
困惑のまま凝視するステータスは五つのタブから構成されているようだ。
一つ目はHPやMP、腕力や知性などの各種ステータス装備など
RPGで良く見る情報が掲載されている。以後のタブも似たようなものだ。
二つ目は持ち物、三つ目はスキル、四つ目は称号、五つ目はその他である。
恐る恐る手を伸ばせば、どうやらタッチパネルの様に触って操作するらしい。
以外にしっかりとした感触が返ってくる。
そのまま指を縦にスライドさせ一枚目の情報を見る。
名前 江田夏海 職業 なし
Lv.1
HP200/MP75
力9
知性12
魅力5
運3
敏捷1
器用3
(装備)
頭:なし
顔:普通の眼鏡
体:なし
足1:なし
足2:なし
(装備はなしか…まぁ入浴中だしね。それにしても、これらの数値は高いのかそれとも低いのか?)
自分のステータスに疑問を持ちつつ、指を動かし、他のタブも見ていく。
【持ち物】
なし
【技能】
情報開示Lv3:再出発のおまけとして何者かから贈られたもの。
自分と同レベルもしくは自分より引くレベルの人物のステータスを見ることが出来る。
レベルによって精度が異なる。
【称号】
人生再始動者;人生をもう一度やり直した者に与えられる称号。
レベルアップ時に運に+5、他ステータスに+3のボーナス
病弱;人生の大半を病院で過ごした証。
状態異常にかかりやすく、また、かかった場合HPの減り方が通常よりも早くなる。
???;条件を満たしていません。
【その他】
なし
(まんまゲームみたいだな。知らない内にVRMMOが実働、これまた知らない内にログインしちゃったとか?
でも、それだったらこんな売れない世界観にはしないだろう。じゃ現実?過去の自分に戻ってなおかつステータスが見られるようになるのが?…やめよう。思考がドツボに嵌っていく)
驚きに思考が刺激されたおかげで考えが暗い方へ暗い方へと移動していく。
それを力づくで押し留め、緩やかなお湯に身を任せる。
(じゃ、取り敢えずはステータス強化かなぁ?レベル上げの方法がわかんない以上それしか出来ないし)
そのステータス強化も入院中という環境から出来ることは限られてくる。
(まずは知性辺りが妥当かな?あとこの画面の使い方を理解しなきゃ!)
夏海の私物が【持ち物】に反映されていないところを見ると、情報を反映させるためには何か方法があるはずだ。
(たぶんこの流れで言えば、専用の呪文みたいなのがあるはずなんだけど…わからん!)
脱衣所で体を拭きながら心当たりのある呪文を唱えたが、何も起こらなかった。
使用済みのバスタオルは手に収まったままだ。
(さっぱりわからん!)
上の空のままパジャマを着て、上の空のまま次の人にお風呂を譲る。
夏海は今【持ち物】タブに首ったけだった。
トイレの中でタブの空欄を見ながらどうしたら情報が反映されるのか考える。
右手には――今の所――あまり使わない私物が握られていた。
(呪文は駄目だった…となると)
あまり使わないであろう私物―――ランドセル―――を【持ち物】タブが選択されている画面に押し付ける。すると指を乗せていた時の反動が嘘のようにランドセルが画面に沈み込んでいく。
「おぉ~なんか気持ちいいかも!」
感触的には一昔前の蒟蒻ゼリーや半解凍の鶏肉を押している感じが近いかもしれない。
ズブズブと押し込み画面を確認するとそこには『ランドセル1つ』と記載されていた。
思い通りの結果にこぶしを握るが、新たな問題も浮上する。
入れたものをどうやって取り出すか、である。
「理屈的に言えば、入れたんだから普通に取り出せばいいって話なんだけど、っと!」
言うが早いか、夏海は画面の中に右手を肩まで突っ込む。
ランドセル、ランドセルと呟きながら弄っていると指先に堅いものが触れる。
そのまま掴み、引きずり出す。ランドセルが入れた時のまま手に握られていた。
「そっか、こう使えばいいのか!よし、じゃあ、次行こう!」
問題が一つ片付いた。障害は、もう無いに等しい。
夏海の唇は自然に弧を描く。
「ぐふ、ぐふふふふふ!こうなったら行けるところまで行ってやんよ!」
くよくよしたり、悩んだり、考えたりは本当にここでおしまい。
面白い状況に興味深いおもちゃそして目標。
やるべき事は盛り沢山である。時間を無駄にしている暇はない。
便器から勢いよく立ち上がり、こぶしを天に振り上げる。
「目指せ、最凶レベル1!見てろよ、やってやらぁ!」
その表情は先程までとは違い、前途洋々の希望であふれていた。
次回から手さぐり修行編が本格始動です。
拙作をお読みいただきありがとうございます。
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