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目指せ、最強レベル1!  作者: 秋風しゅろ
小学校入学前
2/4

主人公はナチュラルに口が悪いですので、ご注意ください。

どうしよう、本当にどうしよう。

寝て起きても状況が変わらないとか、なんて頑固な夢なの!

っていうか、本当に夢なのコレ!?

何か腹とか抓ったら痛かったんですけど!

はっ!ドッキリ――これはドッキリね!

きっと一般人巻き込み型の大規模ドッキリなんだわ!

きっとそう、絶対そう、誰かそうだと言って~~~~!

眠りの波のなか、浮き沈みする思考が叫ぶ。

聴者を想定していない独り言に誰かが小さく吹き出す音がした。


起き抜けのぼやける頭を抱えて、眠い目を擦る。

変な格好で寝てしまったせいか、所々痛い。

背伸びするままの勢いで周りが見える。

寝る前と全く変わらない――もう、戻りたくないと心底願った過去が見える。

まだ夢の中に居るらしい。

そう判断を下した働かない脳みそは肉体に指令を出す。

下された命令に従い、腹を抓り、頬を叩いた。

「いたっ!」

夢のくせに痛い。しかも、周囲の景色は変わらない。

嫌な予感再び、である。

「もしかして、これって…いやいやいやいやいやいや、ありえない。

ねーよ、これはない。あらゆる意味で。ないないないないない、絶対ない。

しかもここって、この場面って。なんでだよ!なんなんだよ、くそがっ!」

どうやら夢であってほしいという願望は外れたようだ。再度、頭を抱える。

そのままの勢いで罵声を吐き続ける夏海を同室の者たちが遠巻きに見つめる。


約30分間、現状に関する呪詛を紡ぎ続けていたが、漸く治まったらしい。

何かをやりきったように、その表情はひどく晴れやかだ。

「なっちゃったものはしょうがないし、言いたいこと言ったから愚痴はもう無し」

落ち込むのも早いが、立ち直るのも早い。

これからを考える夏海に隣のベットに入院中の加奈が恐る恐る声をかける

「なっちゃん、だいじょうぶ?さっきから何かへんだよ?」

(誰だ、この子)

友人に向かってひどい言い草である。

夏海の隣に、彼女と同じ病気で入院している少女、高木加奈。

この場所で出会い、今は遠い未来においても夏海と友人関係を保ち続けている心の広い

少女だ。しかし夏海は幼い頃の彼女の顔を覚えていなかった。

元来、人間に対して興味が持てなかった夏海は、たとえ友人もしくは血縁関係にあるもの

であろうとも、一日会わなければ顔を忘れてしまう。

夏海自身は特技だと胸を張っているが、忘れられる方にとっては堪ったものではない。

これ以外にも彼女には人間社会で生きていくことが難しいと断言できる――彼女曰く特技

を多数所持している。

例えば

親しくなると会話に暴言が混じる

不機嫌でも混じる

気を抜くと言葉遣いがチンピラになる

出不精

筆不精

面倒くさがり

上記トリプルコンボのおかげで連絡が返ってくるのが遅い

方向音痴

地図が読めない

などが挙げられる。

パッと思いつくだけでこれである。時間をかけて考えれば、もっと出るだろう。

こんな難点ばかりの彼女とかれこれ十年以上続ける(予定)の少女に向かって

本当になんという言い草だろうか。

「なっちゃん?」

訝しむ目の前の少女の顔を凝視し、必死に頭の中の人物名鑑を捲る。

「もしかして、加奈ちゃん?」

数十秒後おずおずと問いかける。

ただで薄い名鑑の中でも先頭近くに位置していたため、すぐに見つかったようだ。

そもそも幼馴染と呼べるほど付き合いのある友人を思い出すのに悩むのはどうなのだろう。

しかし、夏海との友人関係を末永く続ける(予定)の懐が深い少女、加奈はそんなことでは動じなかった。

「うん、そうだよ。よかった~、やっと起きたと思ったら、なんか様子がおかしかったし。

だいじょうぶ?どこかぐあいでもわるいの?」

「ううん、大丈夫だよ」

曖昧な笑みで取り繕う。それでも加奈は心配そうな表情を緩めない。

「えっと、本当に大丈夫だよ…?」

頭の先から爪先まで観察しようとする加奈の視線に夏海はたじろぐ。

でも、そこに含まれるのは百パーセントの好意しかなく、それ故に邪険にすることもできない。

「うん、わかった」

一通り見て納得いったらしい。いつも通りの笑顔で夏海に笑いかける。

「でも、ほんとうにしんぱいしたんだよ。おひるだよってこえかけても起きなかったし」

「どれぐらい寝てた、私?」

「ん~と、あさ一回起きて、いま一じだから…五じかんくらい、かな?」

「そっ、そんなに寝てたんだ」

相変わらずの寝汚さに我が事ながら呆れてものが言えない。

そんな夏海を余所に、加奈は最近の夏海の様子がおかしかった事、それをずっと心配していた事、

ようやく元に戻ったようで嬉しい事を懸命に語ってくる。

その口調はゆっくりしたものだが、その真剣さは十分に伝わってくる。

だが、例え真剣に心配されているとはいえ、似たような事を何回も繰り返されるのはきついものがある。

ただでさえ常識では測りえないことが夏海の身には起こったのだ。

現状について落ち着いて考えたいたいと思うのは、人として当然のことではないだろうか。

どうやって一人にしてもらおうかと心配する加奈を前にして悩む夏海に助け舟が渡されたのは

それから十分後の事だった。


「はぁ~、ようやく一人になれた」

長方形に伸びる病棟の中心から少しずれた場所にある浴室で一人、安堵のため息をつく夏海がいた。

加奈の話は基本的に長い。しかも、ゆくっくりとした話し方も相まって、さらに長く感じる。

さらにその話を遮ったり、打ち切ろうものなら癒し系の顔だちを悲しそうに歪めるのだ。

これには、どんな悪人だろと罪悪感が刺激される。

結果、彼女の望むように事が運ぶのだ。

(あの子の怖い所は、これを無意識にやってるって事なのよね。天然って怖いわ)

湯船に溜められていくお湯を見つめ、思考はそのまま自分の身に起こった事に移っていく。

天国のようなところで自分の死を自覚したこと。

気がつけば過去に居たこと。

極めつけは、過去の自分に死んだときの自分の意識、つまり未来の自分が乗り移ってしまっていること。

「なんか、体は子供、頭脳は大人な名探偵の類似品みたい」

もしくは、転生トリップの亜種といったところか。

「でも、肝心の転生先が過去の自分ってどうよ?

どうせ転生するなら、魔法とかギルドとかレベルとかあるRPG的な世界がよかったのに」

身体についた泡を流しながら、ぼやく。

しかし、その口調には言うほど不満の色は表れていなかった。

「まぁ、でも死んだはずがこうしてられるんだし、儲けもんだよね」

それもそのはず夏海の心情はこれに尽きているからだ。

何故、このような非現実的なことが起きたのか、過去の自分の意識はどうなったのか

これからどうするのか、など考えなければならないことはたくさんある。

それは彼女も理解していたが、湯船につかり弛緩した脳みそは役に立ちそうにない。

一人になって考えるために風呂場に来たのに、これでは本末転倒である。

「でも、生きてる限り時間はあるから大丈夫~!あぁ、でも本当に惜しむらくはまほry…だよね。

『ステータスオープン』とか言ったら出て、こ、ないかっ」

笑いと共に調子良く繰り出されていた独り言が途切れ途切れとなり、やがて止まる。

言葉どころか時間が止まってしまったのではないかと勘違いさせるほど、驚きの表情のまま動かない彼女の目の前には半透明のゲームなどで見る

俗に言う『ステータス画面』が中空に浮かんでいた。


「っっっんな、なんじゃこりゃぁあああああぁぁああぁぁ!」

夏海の絶叫が空気を震わせ、風呂場の中にこだまして、消えた。


主人公は松田某ではありません。見た目、小学校入学前の女の子です。

そして、前書きでも書いた通りに、これから輪にかけて口が悪くなります。


それでは、今回もお読みくださりありがとうございました。

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