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エピローグ

「はぁ……着いた」

 一人の少年がそう呟きました。

 少年がやって来た所はかつて魔王が住んでいたとされるお城……の跡地です。

 すでにお城はあちこち崩れていて、もはや廃墟という感じでした。かつては周りの木々よりも大きいお城が建っていたようですが、それも10年も前の話です。

 代わりに、廃墟の中心に巨大な木が立っていました。

 やはりこの木も周りの木々より何倍も高く、下で崩れている廃墟よりも存在感を出している大きな木です。今は季節的に葉が全て落ちています。


 この木は、今では世界の平和の〝象徴〟なのです。


 10年前、勇者シトリー・バールは単身でこの城に乗り込み、たった一人で魔王を含む全ての魔族と、裏切りの勇者を倒したと言われています。

 そして戦いの末、勇者シトリーもこの城で死に、彼女はこの大樹へと生まれ変わったと伝えられています。

 勇者シトリーは大樹となり、後世に伝説の勇者として言い伝えられてきました。そしてこれからもずっと……。

 しかしそれに納得のいかない人がいました。それがこの少年です。

 少年の名はカルマ・バール。

 伝説の勇者シトリー・バールの息子です。

「この木が母さん……?」

 少年は大樹を見上げました。

 この木が自分の母親。母親とは10年前、魔王討伐のため家を出て行った後ろ姿が、最後に見たきりでした。カルマがまだ5歳の頃です。

 10年ぶりの再会。それがこの大樹。

「ウソだ! これが母さんだなんて!」

 少年は、カルマは認めませんでした。

 そもそもこれが自分の母親だと信じられませんでした。実感も湧きません。

 カルマがここへ来た理由は、都で何度も聞かされた母親の成り果てを、自分の目で確かめたいからでした。皆の言う母親の話が、まったく信じられなかったからです。

「おぉおい! そこに近づくな~~!」

 後ろから老人の声が聞こえました。

「これ小僧。ここは入っちゃイカンて立て札があったろう? 瓦礫が崩れるかもしれん。だから立入禁止になっとるんじゃ」

「はあ。すいません」

 老人に促されて廃墟から立ち去る前に、もう一度大樹を見上げました。すると、カルマはある物が気になりました。

「すいません。この木に付いてるあれって何ですか?」

 カルマは木の上の方を指さしました。カルマが指したのは木の枝にぶら下がっている丸い物です。

「あぁぁ? ああ、あれは『ヤドリギ』じゃよ。この木に寄生しておる植物じゃ。噂じゃ、あのヤドリギの中に勇者が倒した魔族の魂が宿っていると言われておるが……単なる迷信じゃ。小僧は信じるか? ん?」

「あ、いえ……」

 老人の言ったヤドリギは、この大樹の枝の至る所にありまいた。大小様々な大きさがあり、10個以上あの丸い塊があります。


 ――帰ろう。


 溜息をつきカルマは都へ帰ろうと思いました。実際、母親の成り果てを見ても、何も感じなかったのですから。

 そう思って廃墟を後にしようとしたその時、キラッと光る物が目に入りました。

 老人ももう、カルマを置いて先に行ってしまったので、カルマはそっと廃墟の方へ入っていきました。

 先程光った所を目指して行くと、そこは大樹の根元でした。カルマはそこでしゃがみ、ある物を手に取りました。それは短剣ダガー

「これは……母さんの……?」

 最初は発した言葉が疑問系でしたが、やがてカルマの頭の中でこれは確信に変わってきました。

 これは紛れもなく母親の短剣ダガー

 まだ一緒に暮らしていた時、母親のシトリーが何度か見せてくれたことがあったのです。

 カルマがこの短剣ダガーを手にすると、一気に今までの母親との思い出がよみがえってきました。

 次々と映し出される母親の映像。

 唯一の母親の形見を手にしたカルマはやがて耐えきれなくなり、泣き出してしまいました。

「うわああああああああああああああああああああああああああああああん!!」

 一人の少年の泣きじゃくる声が、廃墟の中にだけ響き渡ります。大樹の天辺はおろか、世界に少年の泣き声など届きません。


 世界は今、平和です。人間の敵である魔族が滅んだのですから。


 一つの伝説がこれにて幕を閉じました。

 裏切りの勇者ヴァイル・オリアスの非道と、勇者ルーピー・マーレルの悲劇。そして勇者シトリー・バールの英雄伝は後世に長く語り継がれるでしょう。

 ですが。



 語られぬ伝説が、始まろうとしていました。

これにて完結です。

またしても微妙な終わり方になってしまいました。


ご意見・ご感想ありましたら、お待ちしています。

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