―起―
「お呼びって何か用か王様ぁ?」
ガラの悪い声が王の間に響き渡りました。
勇者シトリー・バール。
この国では一番強いと言われてる勇者です。
「うむ。楽にせよ」
王様が勇者に対してお気を遣われました。
「楽にしろって、こんな椅子もマットもない所でどうやって楽にすんだよ。別に王座が欲しいとは言わねーけどよ、オレも椅子に座りたいわ」
王に対してかなり無礼な勇者です。
しかし王様はそんな態度の勇者に対して怒ることなく、すぐさま近くにいた大臣に椅子を持ってこさせるよう命令し、大臣はその近くにいる近衛兵の隊長に椅子を持ってこさせるよう命令し、更に隊長は部下に椅子を持ってこさせるよう命令し…………と伝言ゲームをしていたのが気にくわなかったのか、勇者シトリーは「早くしろボケェ!!」と怒鳴ってしまいました。
ようやく椅子が届き、勇者が腰掛けてから王様は話を再開されました。
「実はキミに頼みがあって直接呼んだのだ」
「なに?」
「キミも知っているとは思うが、今から三年前、遙か東の王都『オルティアーニ』出身の勇者二人が突然の魔王襲撃を受けたことにより、あの大事件が起きた。その時の勇者の〝ある決断〟により、その後の世界は――」
「あぁあぁ、前置きはいいよ! 要件だけ言え。要件!」
勇者は手をブンブン振って王の話を中断させました。
王様は小さく溜息をつき、要件だけを話されました。
「要は、周知の事実だが魔王はまだ生きている。それだけでなく、世界を裏切ったあの勇者のおかげで〝魔族〟の数が飛躍的に増えていっているのが現状だ」
「ケッ。世界を裏切って毎日セックスライフを送ってるバカをまだ〝勇者〟て呼ぶのかい。そいつはもう立派な〝犯罪者〟だよ!」
「そうだな」
王の間に静かな空気が流れました。誰一人、いい顔などしていません。
「で、頼みってのはそのバカを殺すこと? それとも魔族の方?」
「両方だ」
さっきよりも冷たい声が辺りを包みます。
「りょーかい。そんじゃ何か飛べるもの用意しといて。確かこの国にはワイバーン使いがいたよな? そいつがいい。……あと携帯式の水と食料と薬草もヨロシク。武器と道具は自分で用意するからよ」
「ま、待ってください!」
立ち去ろうとした勇者を急に引き留めたのは大臣でした。
「あん?」
「こちらからの要件はまだ終わっていません。まずあなたには北東にある町『クリル』と、東の村三つ超えた先にある貿易都市『ウィル・ヴァル』を救って頂けなければなりません。この二つの街が魔物によって多大な被害を受けているため現在近隣の村や町、そしてこの国の交易がままならない状態になっています」
「はぁ? それがなに?」
勇者が眉間にシワを寄せて、とても怪訝そうな顔になりました。
「ですからまずこの二つの街を救って頂いてから、魔王の城へと向かって欲しいのです」
「だーかーらー。それが魔族とバカの暗殺になにか関係あるの、って聞いてんの!」
「いや、ですから――」
「関係ないだろ? そんなんはおたくらが兵団でも遣わして魔物を討伐すりゃいいだけだろーが。オレの任務は魔族とバカの殺し。律儀に周辺の困ってる街を助けるヒマがあったら、さっさと悪の親玉殺しゃ済む話ってワケ。分かったぁ?」
バイバイ、と手を振りながら今度こそ勇者は王の間から立ち去っていきました。
勇者を不安そうな表情で見送った大臣はとても長く溜息をつきます。
「王様、本当に大丈夫でしょうか?」
「何が不満だ?」
「いえ、不満と申しますか……どこか危うい感じのする方ですから。正直、信用していいのか不安になります」
「だが実績はある」
「…………」
大臣は黙ってしまいます。
そう。確かに勇者シトリーはこれまで何百体もの魔物を倒し、何十体もの魔物の幹部を殺してきました。その結果、何度も救われた村や町があるのです。
本人は村や町を救うという意識はなかったにしろ、結果として多くの人々が救われているので、この王国周辺の民からの信頼は絶大なものです。
「それにな大臣。今回の魔王暗殺に関しては、実績や信頼とは関係無しに、シトリーにピッタリな依頼なのだよ」
「そうなのですか?」
大臣は首を傾げます。
そして王様は不可解な言葉を口にされました。
「魔族は男に飢えているからな」
なぜか続きがぼんやりと思いついちゃったので続き書きました。
できれば前作の方も読んで頂けたらと思います。