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第7話 守りたいんだ

 

 いつもの橋が見えてきた。理佐は送ってもらった日はいつもここで別れている。橋の向こうのすぐ近くに、住んでいるアパートがあるからだ。


「ありがとう。ここまでで」


「うん……」


 いつものセリフに頷く雅臣。寂しそうな顔をする彼にいつも申し訳なく思う。そんな彼が重たい口を開いた。


「ごめんな。……嫌な話、聞いてもらって」


「そ、そんな事ないよ。……話してくれて嬉しかった」


 ここまでの帰り道、彼は話したくない過去を自分に打ち明けてくれた。なのに理佐は、秘密を抱えたままでいる。それどころか、何も伝えないまま別れようとまでした。理佐もこのままではいけない事は自覚していた。


 今こそ、自分も秘密を打ち明けるべきタイミングではないだろうか? その結果、どうなったとしても。……そう思って、理佐は自分の中の勇気を振り絞った。


「雅臣くん……。 私も言わなきゃいけない事があるの」


 しかしその声は、車の爆音と共に掻き消された。ヘッドライトの閃光が理佐の視界を白く奪う。


「あぶない!!」


 気がつけば理佐は、雅臣の腕の中で守られていた。すぐ側を改造車が猛スピードで駆け抜けて行く。


「こんな狭い道で、何考えてんだ」


 走り去った車を睨みながら雅臣がつぶやく。視線が腕の中の理佐に降りてきた。


「大丈夫?」


 あまりの至近距離に思わず目線を逸らし、腕から逃れようともがく。しかし囲われた腕が緩む事はなく、逆にきつく締められた。


「ま、雅臣くん?」


 抗議の声を口にした途端、唇を塞がれる。 気付けば雅臣の唇が自分のそれと重なり合っていた。


 理佐は驚きのあまり一瞬目を見開いてしまうが、そのまま目を閉じて雅臣にすべてを委ねた。自然にそうしてしまった事で、理佐は雅臣の事がどうしようもなく好きなんだと自覚してしまい、益々自分を追い詰めることになった。


 そのせいで、理佐はその優しい口づけに対し、涙が溢れ出してきて、我慢できずに雅臣の胸に顔を埋めるしかなくなった。


「り、理佐?」


 雅臣の呼びかけに理佐は答えられない。 涙を見られたくない。ただ、胸の中で首を横に振る。


「お、俺さ、守りたいんだ。 ……理佐の事」


 そのセリフと共に、ギュッと抱きしめられる。


「愛してる」


 全身に降り注がれる愛情に、理佐の胸は幸福感はおろか、一気に罪悪感で一杯になった。身をよじって雅臣の腕から抜け出し、涙を拭う。



「ごめんなさい、帰らないと。……送ってくれてありがとう」


「理佐……」


「おやすみなさい」


 顔を見れないまま身を翻した。 雅臣の手が理佐の腕を掴む。


「待って! 怒らないで」


 引き寄せられて、もう一度抱きしめられた。


「ごめん……ごめん」


 何度も謝る雅臣に、理佐は掛ける言葉を失う。


「もうしないから、怒らないで……」


 雅臣の懇願する声に、理佐は自分の守るべき存在を一瞬忘れてしまうかと思った。


「違うの…………びっくりしただけ。ごめんなさい」


 一時しのぎの嘘を重ねてしまう。とにかくここから解放されたい。でなければ、本当に何もかも擲ってしまうかもしれないという恐怖に襲われたからだ。


 ゆっくりと雅臣の体から離される。と同時に雅臣の怯えた目と視線が合った。


「……怒ってない?」


「うん。 怒ってなんかない。 子供じゃないよ……大丈夫」


 ぎこちないながらも笑ってみせた。 雅臣が明らかにホッとした安堵の笑みを浮べる。……本当に優しい人なんだな。そう思って理佐がさらに胸を痛めた。



「もう、ほんとに帰んなきゃ……」


 名残惜しそうな眼差しを向けられる。理佐はいつもこの目に困ってしまうのだ。


「……ああ。うん。 気をつけて」


 雅臣が送り出してくれる。


「おやすみなさい」


「おやすみ」


 橋の向こうに渡った理佐を、雅臣はまだ見送っている。優しい笑顔が向けられて、思わず理佐は走り出してしまった。



読んで下さってありがとうございます。


理佐ちゃんが伝えたかった秘密は何でしょうか?

次回、雅臣くんより先にみなさんに公開!!

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