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第25話 どこがいい人なの!!


「 ……雅臣くんの幸せを心から願っています。 市井理佐、か」


 母親に聞かせるために、手紙を音読していた健が、最後の一文を読み終わった。重苦しい空気が辺りを包む。誰も何も言葉にできない。


 あれから自宅に戻ってきた雅臣たちは、大家に渡された理佐の手紙に目を通した。内容は、雅臣が推測したとおり、謝罪とサヨナラを告げるものだった。


 大きなため息をひとつだけついて、健が手紙を返してくる。 先に読んでいた雅臣は、もう一度手紙に目を落とした。



“小奈戸雅臣様”で始まる理佐の手紙は、三枚の便箋を使って、何度も何度も謝罪の言葉が書かれている。正直、謝ってもらっても困ると思った雅臣は、それを素直に受け入れる事が出来なかった。 しかも、文章の端々に子供に対しての愛情が垣間見えるので、いけないとわかっていても、嫉妬心が芽生えてしまう。


 ただ、自分に対しての愛情も、嘘偽りのないものだったと書いてもらえたのが唯一の救いだった。


「これってさ、いわゆる監禁にならないのかな?」


 手紙を指差しながら、健が聞いてきた。


 後半に書かれていたのは理佐の現状だ。市井家に、離婚の申し出に戻った理佐は、子供を取り上げられて、やはり出て行けと言われたようだ。 子供の側にいる為に、全てを諦めた理佐は、今は外出も許されない状況らしい。


「難しいと思う……。 無理やりじゃないだろうし」


 雅臣は、自分で言って辛くなる。 理佐はあくまで、自分の意思で子供の側にいるのだ。

 雅臣の側ではなく、子供の側に…………それが正しい選択だと分かっていても、やるせなさで胸が切なくなる。



 ……好きなのに、側にいる事できない。



 どうする事もできない歯がゆさに、雅臣は頭がおかしくなりそうだった。


「もう、どうにもならないってことだよな……これって」


 健の問いに、雅臣は頷くのを躊躇う。


「なあ、雅臣。……何度も言うけど、もう忘れた方がいいよ。……理佐ちゃんもそれを望んでるわけだし」


 遠慮がちだが、健が先を示そうとする。 それしか道はないとわかっていても、雅臣は素直にその道を進む事ができない。


「なにも……何もできないのかな、俺」


「動けば、理佐ちゃんに迷惑がかかるだけだって」


「そうだけど……」


 なかなか踏ん切りがつかない雅臣は、意味が無いとわかっていても、駄々を捏ねる返事をする。


「雅臣……。 何より、理佐ちゃんが、お前の側にいたいと思ってないよ」


 健が厳しい口調で、さらに真っ直ぐに雅臣の目を見て言った。友人を救ってやりたいという気持ちがひしひしと伝わってくる。 決定的な事を言われて、さすがの雅臣も項垂れるしかなかった。……初めから、道はひとつしかないとわかっていたのだ。


「そうだよな……」


 不承不承だが、雅臣はそうつぶやいた。 せめて今は、理佐も自分と同じ気持ちで諦めてしまった事を願うしかない。



「あれ?」


 突然健が疑問を口にする。


「あれ? おばさんがいない!」 


 慌てた様子で周りを見回している。


「おばさん?! おばさん!!」


 健の視線が一向に定まらない。


「……いないのか?」


 雅臣が訝しげに聞いた。それに健が頷く。


「どこいったのかな……。 どうしようか?」


「……もう、いいよ。 どうせ、オヤジの再婚の邪魔しに行ったんだよ」


 母親の行動に気を配れる程、雅臣の気力は残っていなかった。 健も然りである。


「うーん。なんて言うか、世の中って上手く行かないな……」


 疲れ切った様子で健が言う。 


「ホントにそうだな……」


 空しさが部屋を支配していると、いきなり着信音がその空気を切り裂いた。雅臣が、ビクッと驚きながらも携帯を確認する。 着信は伯母からだった。 ……面倒だな。 そう思うが無視もできないので、雅臣は通話ボタンを押した。


(あ、 まーちゃん。 遅くにごめんね。 ちょっとアンタにいい忘れていた事があって。まあ、何て言うのかしらね……たいした事ではないんだけど、ちょっと言いにくいのよね。 んー。 どう言ったらいいかしら)


 伯母の要領の得ないモノ言いに、疲れていた雅臣は思わず冷たい声が出た。


「伯母さん、何? 俺、疲れてんだ。 言いにくいなら、また今度にしてよ」


(あら、まーちゃん何かあったの?)


「もう、切るよ」


(ああ、待って、大事な話なの。 和美ちゃんなんだけど……)


 和美? ……ああ、オヤジの見合い相手か。 雅臣は、なげやりながら思い出した。


(少し、借金があるらしくって……)


「へ?  え? ……ええええ!! 借金?!」


 疲れのせいか、言われた瞬間ピンと来なかった。 しかし、理解した途端、反動なのか雅臣の口から思わず大きな声が出ていた。


「どどどど、どういう事? 何それ?」


(ちょっとよ、ほんのちょっと残ってただけ)


「が、額面の問題じゃないでしょ。 なんでそんな人と見合いさすんだよ」


(私だって今日! 初めて知ったの!!)


「伯母さぁん! ……ちゃんとしてよ」


(ちゃんとしてるわよ。 和美ちゃん、いい人なのよ。 それは大丈夫)


「はあ?! 借金隠して見合いする人の、どこがいい人なの!!」 


 思わずブチ切れてしまった。 それに対して伯母が、だってだってと言い訳を重ねる。


 母親と健の見解どおりになってしまった今、二人に対し、雅臣は鼻で笑った事を申し訳なく思った。 そっと健の方を振り向くと、健も携帯を耳に当て、誰かと通話しているようだった。 


「えええ!! 嘘でしょ!! 父ちゃん! それホントなのか?!」


 父親と口論をしているのか、こちらも大きな声で話している。すると耳から携帯を離して健が雅臣を見た。二人の視線が合う。


「雅臣! お前、先生から家の事、何か聞いてるか?」


 突然の質問にびっくりする。 叔母との通話中だったが、相変らず言い訳をグダグダ言っているだけなので、自然に健の方へ意識が行く。


「え? 家? 何の話? ……何も聞いてないよ」


 伯母に聞こえないよう、雅臣も携帯を離して答えた。


「先生、家を売りたいって言ってるらしいぞ。 父ちゃんが困ってる」


「はあ?!  え? どういう事?! 何それ?! ええええ!!!」


 雅臣は、健の言ってる意味がよくわからなかった。 いや、わかりたくなかったから脳が拒否したのかもしれない。


「えええ!!! って、こっちのセリフだよ!!」


 知り得た情報を照らし合わせ、瞬時に理解する為に必要な脳ミソの能力値を、これまでの出来事によって、二人は限りなくゼロにしていた。


「ど、どうなってんの?」


「わ、わからない」


 結局、互いの通話中の携帯から、大きな声で呼ばれるまでの間、ただ呆然と見つめあっているだけの二人だった。





お読みくださってありがとうございます。


とうとう残り5話です。 今、まさに最終話を(まだ)書いています。(トホホ)

自分の執筆の遅さにド!!びっくりです。 


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