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第19話 死んでるから厄介なんじゃないの!!


「まーくん、お願い。 助けて頂戴!!」


 向かいに座っている雅臣の伯母が、テーブルにつくほど頭を下げてきた。


「えええ! お、伯母さん、何してんの!! やめて!! どうしたんだよ?!」


 行き成りの仰天行動に、慌てて頭を上げてもらう。


「お、お金なら無理だよ。 オヤジに言ってよ」


「バカ! 甥っこにそんな事頼みにくるわけないでしょ!」


 そう言われて、雅臣は少しだけ安心した。



 あれから、雅臣は何も出来ずにただ待つだけの日々が続いた。それでも仕事はある。とりあえず二人の将来を信じて頑張ろうと営業活動に専念していたとき、伯母から電話があった。……会いたいという。切羽詰まったその声に対して無下にもできず、外回りの時間を都合して喫茶店で待ち合わせた。そしていきなり頭をさげられたのである。


「じゃあ、何? 助けてってどういう事なの?」


「まーくん、まーくん、まーくん! わあーん」


 三回、名前を呼んだ後、伯母は泣き崩れてしまった。


「な! 何? お、伯母さん! 泣かないでよ!!」


 周りの視線が冷たい。熟女を泣かしているのだ。雅臣は慌ててハンカチを取り出して伯母に差し出す。


「な、なんでもするから!! とにかく泣き止んでよ!」


「ほんと? ほんと?」


 伯母が顔を上げてハンカチで涙を拭く。マスカラが取れて見るに耐えない。父親の姉に当たる人だが、こうしてみると目元がそっくりである。


 美人とは言いがたい顔だが、まるくてふっくらとした優しい顔立ちだ。性格も明るくて気の利いたお節介を持ち味にしている。隣県で果物農園を営んでいるので、秋になると大粒でみごとな葡萄を毎年実家に送ってくれていた。小奈戸家が家族揃って葡萄好きなのは、この伯母のおかげだ。



「で、どうしたの?」


 先を促すと伯母がカバンから1枚の写真を取り出して、テーブルに置いた。雅臣には見覚えがない女性が写っている。


「この人と……お見合いして欲しいのよ」


「え? ……えええ!! オレぇ?」


 素直に驚く。写真はたしかにバストショットのポートレートで、いわゆるお見合い写真だった。しかし、写っている女性は四十代に見える。いくらなんでもないだろう。


「バカ! アンタじゃないわよ。 喜一! お父さんによ!」



 ……あ、なるほど。オヤジなら合点がいく。 しかし……伯母まで、なぜ俺に頼む?



 雅臣はそんな疑問を口にした。


「言ったわよ! 喜一に何度も! 聞く耳もたないから困ってるんじゃない」


 伯母が頭を抱えた。雅臣は頭を捻った。というのも、成仏できない母親が困るならわかる。(正直、わかりたくないけれど……)しかし、弟が再婚しないからって姉がそんなに困るだろうか? さらに疑問が募る。……が、雅臣が質問する前に、怒涛のごとく伯母から懇願の声があがった。


「ねえ、まーくん! アンタからも言って頂戴。お見合いしろって」


 雅臣も、父親の再婚相手を探してはいるが、いきなりお見合いしろとはさすがに言いづらい。


「あのさ、オヤジだっていい大人なんだから……したくないなら、そっとしておいたら?」


「まーくん!! アンタなんでもするって言ったじゃない! もう忘れたの!!」


 伯母のあまりにも鬼気迫る形相に、雅臣は後ろに仰け反った。……そもそも冒頭の「助けて頂戴」は、何から助けて欲しいのだ?



「オヤジと何かあったの?」 雅臣から質問をぶつけて黙らせる。


「喜一じゃないの。 ……瑞枝ちゃんが……瑞枝ちゃんが」



 ……え? ま、まさかの ソッチ?



 取り乱しそうになるが、雅臣はなんとか心を落ち着かせた。現世を彷徨いつつある母親の現状なんて、伯母が知る分けがないのだ。


「母さんは死んでますけど……」


「死んでるから厄介なんじゃないの!!」


 たしかに取り憑かれた雅臣は厄介だと思っているが、伯母に厄介扱いされるのは腑に落ちない。


「……何があったの?」


「あったなんてもんじゃないわよ!! この五日間、毎晩枕元に立って泣きじゃくられてごらんなさい! 誰だって気がおかしくなるわ!」



……ああ、なんてことだ。 母さん、ドコまで手を広げてんだよ。



 ここしばらくウチにこないと思ったら、そんなところに出没してただなんて。雅臣は母親の切り替えの早さにつくづく呆れてしまう。 まさか、伯母にまで迷惑をかけているとは思いもよらなかったのだ。 しかし、そういえば昔から『思い立ったが吉日』を地で行くような人だったなと思い出す。


「毎晩、毎晩、『喜一が心配』『喜一が餓死する』『嫁を探せ』って何なの! ウチは結婚相談所じゃないのよ!」 


 そう言い切った後、テーブルに伏せてわんわん泣き出す。


「お、伯母さん。 泣かないで、ね?………っていうか、伯母さんは幽霊が視えるの?」


 遠慮がちに聞く。とりあえずの確認だ。


「私だったらどんなに良かったか……。 瑞枝ちゃんなら、怖くなんてないもの」


 生前、仲がよかった二人だ。なるほどと思う。という事は……


「旦那が震え上がっちゃって。 もう、随分参ってるの……小心者だからこのままだと気が触れるかもしれない」


 ああ、伯父さんが被害者……。 小奈戸の血は筋金入りで、ホントに視えないものなんだな……。雅臣は自分に流れる血のすごさに感心を抱いた。


「もうすぐ葡萄の収穫が本格的に始まるのに……あんな状態じゃ、働けない」


 再び伯母が目頭を押さえる。……ああ、そこまでとは。危機的状況を察知した雅臣は真摯に問題解決に乗り出す。


「伯母さん、写真を預かるよ。 ちょっと見合いは難しいかもしれないけど、とにかく母さんは、枕元に立たせないようにするから。……もう安心して」


「まーくん、そんな事できるの? あ、もしかして、霊媒師とかに頼むの?」


「え? あ、まあ、……そんなもんかな」


 頼むのは霊媒師ではなく健だ。母親のやり過ぎ状態を注意して、お出かけ禁止を約束させなければいけない。


「伯母さん。……迷惑かけてごめんね。 ホントに何とかするから安心して」


「……うん。 ごめんなさいね。 まーくんにこんな事頼むなんて」


 申し訳ないと思うのはこちらの方だ。雅臣は、頭を下げる伯母に倣って自分も深く頭を下げた。



読んで下さってありがとうございます。


次回も伯母が頑張ります。

なんだか登場人物が増えて、騒がしくなってきました。

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