第17話 いつだってそうだ……。
……星が綺麗だな。 明日も晴れて暑くなりそうだ……。
空を見上げながら、雅臣はそんな事を考えていた。
今日一日いろんな事があり過ぎて、今も半分ボーっとしている。
あれから渡井を送った後、家に帰った雅臣は一人、大問題と格闘した。理佐とのこれからをどうするのか? 思い悩んだのだ。しかし、彼女から直接話しを聞くまでは、結論を出せない。と言っても、あの子が理佐の子供だと言う事は揺ぎ無い事実である。……それを思うと堂々巡りになり、ため息しかでない。
雅臣は、理佐に子供がいた事もショックだったが、それ以上に隠されていた事に傷ついていた。やはり自分は信頼されていないのだ。その思いが、雅臣を谷底深くにつき落とす。いくら前向き志向の雅臣でも、さすがに這い上がれずにいた。
そんな中、理佐からメールが届いた。
(今、佑太の目が覚めました。これから帰ります。佑太を助けてくれてありがとう。今日はホントにごめんなさい。落ち着いたら謝罪に伺います。)
……謝罪なんていらない。できればもっともっと頼って欲しいぐらいだ。
そう思った瞬間、雅臣は居ても立ってもいられなくなった。気がつけば、部屋を出て真っ直ぐ理佐のアパートに向けて駆け出していた。
そして今、理佐のアパートの外階段に腰掛け、星を眺めながら彼女の帰りを待っている雅臣は、気持ちも状況も、うす暗い闇の中で、一人ぼっちで膝を抱えているのだった。
それでも雅臣は、……自分をもっと頼って欲しいというこの気持ちを伝えよう。その上で、それから先の事を二人で話し合って決めたい。……そういった自分の気持ちを、膝に顔を埋めながら、ちゃんと再確認していた。
しばらくして、見覚えのある車がゆったりとしたスピードで近づいてきた。父親のステーションワゴンだ。雅臣は立ち上がって停車した車の側に歩み寄る。
後ろのドアを開けて出てきた理佐は、しっかりと自分の子供を抱きしめていた。安心した顔で子供は眠っている。それとは逆に、理佐は雅臣の顔をみて驚き立ちすくんだ。
「雅臣……。 何をしてるんだ!」
同時に運転席から父親も降りてきた。明らかに苦い顔をしているので邪魔だと思っているのだろう。それでも雅臣は父親にかまっている場合ではないと無視を決め込む。
「理佐……話がある」
理佐の腕を取って顔を上げさせる。悲しい事にその表情は硬く強張っていた。
「雅臣、やめなさい」
「オヤジは関係ないだろ!!」
間に割って入ってくる父親に、思わず怒鳴りつけた。しかしそんな怒りに怯むことなく父親は背後の親子に優しく声をかける。
「ここはいいから。部屋に入って佑太くんを寝かせてあげなさい」
「……すみません」
小声で返答して頭を下げた理佐が、足早にアパートの階段へ向かった。雅臣がその後を追いかけようとするが、父親に腕を取られてしまう。
「離せよ!!」
「バカな事をするな! 帰るぞ!」
「バカってなんだよ! 邪魔すんな!!」
掴まれた腕を振りほどく。すると今度は肩を持たれて止められた。
「父親のいう事が聞けないのか!」
対峙した二人に沈黙が降りる。
「……何だよそれ。 あんた、いつだってそうだ! いつも、俺の邪魔ばかりするんだ!!」
「……雅臣」
「そんなに目障りなら、母さんに産ませなきゃよかっただろ!」
その瞬間、左頬に痛みが走ってよろめいた。父親に平手打ちを受けたのだ。長年諍いを続けた二人だったが、雅臣が暴力を受けたのはこれが初めてだった。
「……瑞枝を悪く言うことだけは、許さん」
見上げた雅臣は、初めて見る父親の顔に驚いた。それは怒りよりも悲しみが滲みでている顔だった。
「とにかく車に乗りなさい」
腕を父親に取られる。雅臣は無意識にそれを振りほどいた。
「もう、ほっといてくれ!!」
父親と一緒にいる事に嫌気がさす。どうやったってこの人とはわかり合えない。そう悟った雅臣は、父親を残して自宅に向かって歩き出した。
「雅臣!」
父親の呼ぶ声を無視する。 そんな行為にはすでに慣れ過ぎていた。
「お前、このままだと不倫で訴えられるぞ!」
父親のその発言に思わず足を止めて振り返った。……どういう意味だ? 驚きの余り立ち尽くす。
「説明してやるから…………乗りなさい」
静かに諭された。うんざりしていたはずなのに、気がつけば父親が開けた助手席のドアに、雅臣は体を滑り込ませていた。
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