表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/32

第12話 俺だって遊びに行きたいわ


「へえ――。考えたもんだね」


 天井から吊るした風鈴に、健がひと息吹きかける。涼しげな音が部屋に響いた。


「なあ、どっちがどっち?」


 二種類の風鈴を健が交互に指差す。


「赤い短冊のガラス風鈴が『YES』で、青い短冊の鐘形風鈴が『NO』だよ」


 発案したのは理佐だ。耳に息を吹きかける仕草を目撃していた理佐が、風鈴を鳴らす事で、視えない母親とコミュニケーションを取れるのではないかと教えてくれたのだ。さすがである。雅臣には考えも及ばない事だ。


「すっげぇ! 実演してみせてよ」


「やだよ。 今、必要ないじゃん」


 健という通訳がいるのだ。逆に恥ずかしい。


「いいじゃん! 練習 練習!」


 嫌がる雅臣をつっつく健。完全に面白がっている。やらなければ気がすまない様子だ。


「……たく。 えぇ、ごほん。 『母さん。ココに居ますか?』」


 “チリーン” ガラスの音が響いて、赤い短冊が揺れる。


「おお!! 返事になったぞ」


 健が手を叩いて喜んだ。基本、単純な男なのだ。


「よし。 ええ、 『今日の事、反省してますか?』」


 “リン” 鐘の音が部屋を満たして、青い短冊が揺れた。


「オイこら! ふざけんな! 」


 思わず立ち上がって、雅臣が風鈴に突進しそうになる。


「ちょ、ちょっと待て! 落ち着け!」


 慌てて健が雅臣の両肩を押さえつけた。なんとか座らせる。


「お、おばさんが震えてるから。 な! 落ち着こ! 」


 頭の上にあげた拳も、健によって下ろされた。


「ったく! こっちはすっっっげぇ! 嫌な思いしたって言うのに!」


 雅臣が大げさに息巻く。


「ああぁあ。 待っておばさん!」


 健が扉に向かって手を伸ばす。


「もう! 雅臣がきつく言うから! おばさん泣いて出てったじゃないか!」


 ……小学生か!! 雅臣は、今日一日の疲れがドッと押し寄せてきた気がした。


「……ほっとけよ。どうせ理佐んトコ、遊びに行ったんだろ。 はん!」


 全く持って羨ましい限りである。自分がなかなか超えられない壁を、意とも容易くやってのける母親に、雅臣は嫉妬心丸出しで言った。


「俺だって遊びに行きたいわ……」


「妬くなよ……。 親だぞ」


「うるせ」


 口を尖らす雅臣に、健は思わず吹き出した。


「で、……病院で何があったの?」


「うっ」


 父親の顔が頭に浮かんで、益々不機嫌になる雅臣だった。




 * * *




「ビール飲むか?」


「あ、俺いいわ……。車だから」


 一人分の缶ビールを取り出して雅臣が健の側に座る。二人きりになった部屋で、健が弁当を食べながらお茶を飲んだ。遅い夕飯だ。


「にしても、小奈戸先生も隅におけないよな……」


 今日の午後に起きた病院での話を、雅臣が簡単に話し終えていた。なかなか愉快なイベント内容に解釈したようで、参加できなかった事を健が悔しがっている。


「協力なんて全く必要ねえし。 マジ、ひくわ」


「ええ――。 どうして? いいじゃん。 先生、五十八だろ? この先まだまだ長いんだしさ」


「はあ? 二十七の歳の差婚なんてヤバイだろ……芸能人じゃあるまいし」


 実際のところ雅臣は、父親が渡井京子と再婚できるとは到底思えなかった。自分のイメージでは、父親の再婚相手はどんなに若くても四十代の女性だ。渡井京子はさすがに若すぎた。ただ、どう見ても二人はお付き合いをしている。それは否定できない。この先二人の関係をどうするのか、より複雑な問題になりそうである。


「まあ、ちょっとやりすぎか……。でも相手の人、チョー美人なんだろ? しっかし小奈戸家は、親子揃ってメンクイだよな」


 似たような事を秀介にも言われた。別に、美人だから理佐を好きになったんじゃない。

好きになった女性が、たまたま美人だっただけだ。 決して顔に惹かれたわけではない。……と思う。いつも健に強く反論する雅臣だが、聞き入れてもらえた事がないので、もういいわけするのも面倒になっていた。


「うるせえ。 一緒にするな」


「ほら、理佐ちゃんの事も、単なる嫉妬だったりして? 」


「はあ? 気持ちが悪い」


「まあまあ、どうせ紹介しなきゃならなかったんだし」


だからってプロポーズもまだなのに、相手の親に結婚をせっつかれたら、彼女だってひくだろ。コレで交際自体がダメになったらどうしてくれるんだ。雅臣が父親のデリカシーのなさにうんざりする。


「でもさ、このまま先生が再婚しちゃったら……おばさんどうなっちゃうのかな」


「いや、再婚はありえないって」


「いや、もしも! の話だよ」


「もしも……か。 でも、まあ、その時は成仏? するんじゃね」


「そうか……。 ああ……なんか、超さみしいな」


 とりあえず、俺の親なんだが……。そんな事を雅臣は思うのだが、慕ってもらう分に越した事はない。


 そんな健を見て、ふと考える。……自分はどうなんだろう? 寂しいだろうか? 自分の気持ちに問いかけてみるが、それ以前の問題だった。正直、いまだに再会を果たせた気分が雅臣にはないのだ。視えない、聞こえない、いるかどうかがわからない。伝え聞きなのでどうしても母親を身近に感じる事ができない。これだけないない尽くしだと、寂しいという気持ちが湧いてこないのは、当然の事のように思える。


「あ――あぁ。俺、この先ずっと母さんが視えないままなのかな……」


 思わずつぶやいた声に健が反応する。


「そうだよな……。 う――ん、なにかいい方法がないもんかなぁ?」


 顔をつき合わせて考えてみるが、二人の脳ミソでいい案が浮かぶわけがなかった。




「うわぁ!! おばさん!!」


 そのうち考え込んでいた健が急に叫んで仰け反った。


「どうした?」


 健に向かって尋ねるが、あらぬ方向に顔を向け、頷くだけである。どうやら母親が帰宅したらしい。おもったより帰りが早いので驚いた。


「え、いや、おばさん。落ち着いて」


 両手の平を外に向け、健が落ち着けのポーズを繰り返す。すると突然


「え!!! マジですか? わ、わかりました。……ま、雅臣! 行くぞ!」


「は? 行くって、ドコに?」


「よくわかんないけど! 理佐ちゃんが大変なんだって!」


「へ? ……えええええ!!!」


 そういう事は早く言え! バカ!!


 のんきに会話が終わるのを待っていた雅臣に、とんでもない事が通達されたのだった。




読んで下さってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ