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第11話 こちらがウワサの渡井さん


「雅臣?」


 呼ばれて振り返ると見知った人が居て、雅臣はびっくりした。


「秀先生!!」


「おお!! 久しぶりだな。 あれ? なんだか箔が付いたみたいじゃないか? そう言えば、顔を見たのがみーちゃんの葬式以来だもんな。 ん? まだ学生だよな? あれ?いくつになった?」


 雅臣は歳を聞かれて恥ずかしくなった。こういった子供扱いは、いくつになっても変らないものである。


「二十五です。 いちおう社会人です」


「ええ?! もう卒業したのか。早いなぁ。いや、ゴメンゴメン。もう立派な大人なんだな。……子供扱いしちゃ悪いな」


 そう言いながら、目線が隣で佇む理佐へと移った。おや!という表情からニヤニヤして片眉を上げられる。


「雅臣の彼女かい?」


「あ、……はい」


 照れながらも雅臣はしっかりと頷いた。


「このぉ!! 親子揃って、美人ばっかり捕まえやがって! どうなってんだ!」


 そんな事を言うこの人も、独身だが女性に困った事など聞いたことがない。いつだって素敵な彼女が横に居た記憶がある。


「あ、私ね、片桐秀介と言います。小奈戸の……彼の父親のライバルでね。若い頃、彼の母親を取り合った恋敵なんだよ」


 理佐に向けて自慢げに披露する。雅臣も小さな頃からそう聞き続けているが、実際のところ、定かかどうかわからない。その話は、父親が笑って受け流している印象しかなく、母親もニコニコして微笑むだけだった気がする。


「瀬名理佐です」


 理佐が丁寧にお辞儀しながら名前を名乗った。


「理佐ちゃんか……あれ? どこかで私と会ってないかな? ……うんん、美人は忘れないんだけどね……。」


「先生!!」


 女性を口説く時の常套句をさらりと言ってのける秀介に、雅臣は呆れ返った。


「そんなに目くじら立てるなよ。 ……理佐ちゃん。雅臣が嫌になったら私のところにおいで。 楽しーいよぉ」



 ……こら! 全く、油断も隙も無い。 雅臣は耳打ちする秀介の間に割って入ってニコリと笑った。


「僕のですから」


「おや? 洟垂れ小僧が言うようになったな。 ハハハハ」


 秀介が高笑いする。 子供(ガキ)扱いしないって言ったばかりなのにこれだよ……と憤った瞬間 


「みーちゃん!」


 秀介が何かに驚いたように目を瞠った。


「せ、先生?」 


「今、みーちゃんが……」


 口をポカーンと開けた秀介を見て、雅臣は慌てて理佐に確認を入れた。理佐が耳元で「今、隠れたから」と囁く。


 雅臣は正直マズイと思った。どうやら秀介にも母親が視えるらしい。何だってこんなに視える他人が続出するんだ? 勘弁してくれ……と心で嘆いた。


「雅臣! お母さんがいるぞ! お前の側にいた! 会いに来てくれたんだよ!」


「先生! 母は五年も前に亡くなりました! 見間違いです」


「バカ者! 私が愛しのみーちゃんを見間違うわけがないだろ!!」


 その自信はどこから来るんだ? しかも、他人(ひと)の母親に“愛しの”なんて形容詞をつけないで欲しい。 それはともかく、話題を逸らさなければいけない。雅臣は脳をフル回転させる。


「しゅ、秀先生は、どうしてここに? 用事ですか?」


「え? ああ。 いや、今度ここで手術をね、パパッとする事になってて……」


 返事をしながらも、秀介は辺りをキョロキョロとしている。もう一度母親を視たくて仕方がないようだ。このように少しチャラけて見えるこのおじさんだが、実は凄腕の外科医だ。ホームグランドはこことは別の有名医大なので、いわゆる出張手術だろう。


「残念だな。消えてしまったみたいだ……。 ところで、キミ達は見舞いかい? あ、それとも小奈戸に用とか?」


「え?! オヤジが働いているのを知ってるんですか?」


「知ってるもなにも、ココを紹介したのは私だからね……」


 話を聞けば、ここは秀介が研修医時代に世話になった病院らしく、他所に移ってからも、ここで執刀する機会が多いので、そのぶん顔が利くらしかった。もしかしたら、目当てのあの人も知っているかもしれない。そう思って雅臣は秀介に聞いてみた。


「秀先生。看護師の渡井京子さんってご存知ですか?」


 母親から聞いた名前を告げる。


「ワタライキョウコ? 病棟の京子ちゃんかな? それなら知ってるよ。 三十一歳未婚で 京都出身……そうそう、瑞枝ちゃんに似て凄く美人さんだよ。……で、どうして?」



 ……この人、どういうデータベースを持ってんだろう。 ペラペラ喋る情報内容に雅臣はあっけに取られた。



「いや、オヤジと知り合いだって聞いたので……」


「何?! なんだあいつ!! 私の庭で無断でヨロシクやりやがって!!」


「ち、違いますよ!! そういう事じゃないです!!」


 慌てて訂正を入れる。マズイ人にマズイ情報を与えてしまったかもしれないと後悔する。


「あ! 京子ちゃん!!」


 秀介が手招きする先を見てみると、なるほど京美人な看護師さんがこちらに向かってやってきた。


「片桐先生! こんな所にいらしたんですね。 橘部長が探してらっしゃいましたよ」

 

「あ、マズイ。 遅刻だぞ」


 秀介が、腕時計を見て急に慌てだした。


「あ、彼、小奈戸の息子なんだ。で、こちらがウワサの渡井さん。じゃ、私は行くから」


 とりあえずの紹介だけ済ませて、秀介はバタバタと立ち去った。


「貴方が雅臣さんですか。 小奈戸先生からよくお話を伺ってます」


 ……よく? よくってどういう事だ? 意味深なワードに警戒心が先に立つ。


「広告代理店にお勤めでお忙しいとか。……大変ですね」


 え? どうしてそんな事まで知ってるんだ? まさか! 本当にオヤジと付き合ってるわけじゃ…… えええ!! 三十一じゃ歳の差がありすぎだぞ!! ……あまりにも見境いのない父親の恋人選びに、雅臣は仰天する。横を見ると理佐も同じ反応だった。


「あ、ごめんなさい。私、渡井京子と申します。小奈戸先生と同じ病棟の勤務で、公私にわたって先生にお世話になってます」


 “公私にわたって”と宣言されちゃったし。 これってもう、俺の出る幕じゃないって事だよな。 そんな事を頭に掠めながら、雅臣がうわさの看護師を観察していると、聞きなれた嫌な声が後ろから聞こえてきた。



「雅臣!!」


 呼ばれて背筋が跳ねる。ニガテな声の主を確認するとやはり、中庭にいたはずの父親がこちらに向かって歩いてきていた。


「なんでお前がここにいるんだ?!」


 ……こちらのセリフだ。


「別に……オヤジには関係ないだろ」


「父親に向かってなんだ、その言い草は!」


「うるさいなぁ。ほっとけよ」


「雅臣!!」


「小奈戸先生。 病院内ですから」


 見かねた渡井が間に入った。


「あ……スマン」


「先生。私、今日はこれで上がりなんですけど……。お約束大丈夫ですか?」


「え、ああ」


「今晩、8時にいつものお店で待ってます」


「……わかった」


「いいお返事待ってますね……」


「いや、それは」


「お疲れ様でした。 失礼します。」


 渡井が父親の返事を遮って挨拶をする。雅臣にも一礼してその場を立ち去った。今のやり取りはあきらかに恋人同士のものじゃないかと雅臣は唖然とする。家族代表として、とりあえず父親に質問した。


「なんだよ……返事って」


「……お前には関係ない事だ」


 その返答にカチンとくる。仮に結婚するなら雅臣にだって関係があるはずだ。だいたい、いい年をしてあんな若い女性と何やってんだ。そういう気持ちでいっぱいになって、雅臣は怒りが納まらなくなっていた。一言ガツンと言ってやろうとした瞬間、父親に先を越された。


「そちらの女性は誰なんだ?」


「は?」


「お付き合いしてる方か?」


 急に理佐の事を聞いてきた父親に、雅臣は反発心を抱く。自分はハッキリと相手を紹介しないくせに、雅臣にだけそれを求めてくる。それが腹ただしいのだ。


「関係ないだろ」


「雅臣くん!」


 今度は理佐が間に入る。


「遅れてすみません。瀬名理佐と申します」


 理佐が父親に頭を下げた。


「瀬名? そうか……瀬名さんか」


 珍しい名前に関心を抱いたのか、名前を繰り返す。と同時にとんでもない事を言い出した。


「ところで君は、息子と結婚するつもりなのか?」


「え?」「はあ?」


 二人同時に驚く。


「突然何言ってんだよ!! ふざけんなよ!」


 雅臣は溜まっていた怒りをそのままぶちまけた。


「ふざけてなどいるものか。 だいたいお前はどうなんだ! この女性(ヒト)と一緒になるつもりなのか?」


「はあ?! もういい。話しにならない。 理佐、行こう!」


 理佐の腕をつかんで、雅臣は出口に向かって歩き出した。後ろから息子の名を呼ぶ父親の声が聞こえたが、聞こえないフリを通す。


「雅臣くん……」


 心配してくれる理佐。それでも今は触れないでほしいと雅臣は願った。


「いいんだ! ほっとこう」


 やっぱりどうしようもなく……アイツが嫌いだ。



読んで下さってありがとうございます。

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