表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/32

第10話 行く!! 絶対行く!!


「ごめん。待った?」


「ううん、大丈夫。 私も今来たばかりだから」


 雅臣は非常に有頂天になっていた。理佐から『会いたい』なんて囁かれたのはいつ振りだろう? いや、初めてだった。……そんな事を考えながら、スキップしたがる足をかけ足に変えて待ち合わせ場所までやって来たのだ。


「ごめんね。急に……」


「ぜんぜん! まったく構わないよ!」


 理佐の呼び出しなら、いつ何時(なんどき)でも応えられる自信がある。雅臣はそう言う心構えで普段から生活していた。ただ、今までそれが無駄な心意気だったので、報われて感極まっているぐらいなのだ。


「一緒に行ってほしい所があるの……」


 誘われただけでなく、頼られている!! その事実が雅臣の思考回路をショートさせる。


「行く!! 絶対行く!!」


 理由も、場所も聞かずに意気込みを披露させた。少しだけ理佐が戸惑っているのは無理のない事だった。




  * * *




「なんで……」


 二人がいるのは病院だ。日曜日なので診察にきたわけではない。先ほどは脳が動いていなかったので、改めて雅臣は理由を問うている。


「ここにね、雅臣くんのお父さんがお勤めされてるんだって……」



 ……ええええ!! どうして?! だったら来ないのに!!



 思わず、男らしからぬ事を言いそうになる。肩を落としてガッカリ姿勢だ。


「ごめんなさい。騙すみたいな事して」


 率先して自ら騙されにいったようなものなので、雅臣は何も言えなかった。


「昨日の晩。雅臣くんのお母さまがウチにいらしたの。協力して欲しいってお願いされちゃって……」


「えええ!!」


 昨日は結局、母親の行き先がわからず終いだった。まさか理佐のところに上がりこんでいるなんて、図々しいにも程がある振る舞いだ。これはちゃんと言って聞かさなければならない。


「母さん、今、側にいるの?」


「え? あ、うん」


 理佐が視線を動かす。雅臣には、その視線の先に何も無い空間が見えるだけだ。それでも仕方が無い。そこに居ると信じて言うしかない。しかも、理佐の自発的でなかった『会いたい』に対してのガッカリ感も上乗せだ。


「母さん! 勝手な事されると困るんだけど」


 言ってみたのはいいが、大変やりにくい。相手の反応がわからないので、仮に舌を出されていたって怒れないのだ。


「『息子が非協力的態度なので、私を頼って来た』……そうです」


 伝える内容が内容だけに、理佐の口調が口ごもったものに変る。


「協力しないなんて言ってないだろ!!」


 思わず噛み付いた。理佐に非人道的人間みたいな言われ方をされて、傷ついたのだ。


「ま、雅臣くん。お母さまが怯えてる」


 犬猫じゃあるまいし! 冗談じゃない!! そう思うが、それでも大人気なかったと反省し、雅臣は荒げた声を引っ込めた。


「……ごめん」


「あの、とにかく中に入りましょうか」


 空気を読んで、理佐が提案する。なんだか雅臣は、居心地が悪かった。彼女を挟んでの親子喧嘩なので、言いたい事の半分も言えてない。消化不良もいいところである。


 とりあえず、彼女の前でわがままなど言えない。仕方なく、理佐の後について病院の自動ドアをくぐった。




 * * *




 雅臣は愕然としていた。病院の中庭で子供に微笑む白衣の人物が、はじめは誰だかわからなかったのだ。父親が激ヤセしている事に気付けたのは、理佐経由で母親に教えてもらったからだ。


 もともと父親は、ぽっちゃりした体型で明らかに肥満型だった。かけてるメガネが小さく見える程、パンパンで丸顔だった父親が、今では面長になってメガネがデカく見えている。


 しかも、白髪も増えて目じりにシワをよせているから、おじいさんと言う呼び名が似合うほど年寄りに見えた。まだ五十八なのに……。


 父親の急激な変貌に雅臣は動揺してしまった。


「お父さま、家事が全くできない人なんだって……」


 理佐に、というより母に言われて思い出す。父親が台所に立っている姿など一度も見た事が無い。多分お湯も沸かせないんじゃないかというレベルのはずだ。



「だけど、家政婦さんを頼んでただろ。今井さんだったかな? ……あの人どうしたの?」


「……三月も経たないうちに、辞めてもらったみたい」


「え? 嫌な人だったとか?」……だったら代わりを探すのに。


「……気のつくいい人だったって。……でもお父さまが、他人に家の中を触られるのがストレスだったみたい。……それで」


「 ……なんだよ、それ。 そんな事言ったって仕方ないじゃないか」


「それでもお父さま、随分家事を覚えたそうよ。いつも家の中は綺麗にしてるって……ただ、料理はやっぱり難しいから」


「つうか、食生活が不安定なんて、ストレスかかえてるより悪いじゃんか」


雅臣は自分で言って気がついた。……ああ、そうか。 だから他人じゃない人を、家に招かないといけないのか。


なんだか浮世離れした願い事だと思っていたのに、父親の姿を見た途端、急に現実味を帯びてきた。


「……わかったよ。手伝うよ……再婚の話」


 あんな状態の父親を放っておくなど、さすがに雅臣でもできなかった。


「『それじゃあ、相手の看護師さんを見に行きましょう』って……お母さまが……あの、やけに上機嫌なんだけど」


 理佐があきらかに戸惑っている。セリフの最後は、ほぼ雅臣に耳打ちした感じだ。母親が異常にやる気満々だという報告が、雅臣を何だか複雑な気分にする。


「あのさ、母さんは平気なの? ……オヤジが再婚しても」


 そりゃ、激ヤセして体壊すよりいいかも知れないけど。元妻として、旦那の再婚なんて気分が悪いだろう。そうじゃないのだろうか? 見えない相手に疑問をぶつける。


「あの……『その方が、安心してあの世をエンジョイできる』って……。いや、あの、お母さまがそう、あ、その……なんて言うか」


 不謹慎な事を口にしたので、理佐が慌ててどもる。責任を母親に押し付ける事も出来ないので口ごもるしかないようだ。本当に申し訳ない立ち位置だ。


「ああ、理佐は気にしなくていいよ。 ……母さんなら、言いそうな事だから」


 苦笑いを理佐が浮かべる。ため息を一つついて、宣言した。


「やるならとっとと片付けよう」



……何事にも前向きな姿勢なのは、母親ゆずりかもしれない。



雅臣はそう思いながら、病棟に向けて足を踏み出した。



読んで下さってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ