7、過去と未来
「何だ?」
あからさまに驚いた表情の時彦は、周囲に視線を走らせる。
それを横目に、春菜は弾かれたように立ち上がると、洞窟の中へと駆け込む。
電子音は鳴り止まない。
聞き覚えのあるそれは、最近流行った歌。
春菜が、毎朝の目覚まし代わりにかけていた曲だ。
慌てて鞄の中を漁り、底の方に押し込まれていた携帯を取り出した。
毎朝寝ぼけ眼で行っていた作業を、冴えた頭で行う。
すぐに春菜の手の中で静かになったそれを、奇妙な気持ちで見つめた。
「それが音立ててたのか?」
不思議そうな表情で、後ろから覗き込んできた時彦に、はっと我に返り、春菜は黙って頷いた。
「何かの道具か?」
時彦は、見慣れぬ道具にいたく興味を引かれたようだった。
「うん。遠くの人と会話したり、メール…手紙みたいなのを送る道具」
しきりに感心し、時彦は春菜の手の中に納まる携帯を見る。
「何で光ってるんだ?さっきの音はなんだ?」
その調子で質問が続き、春菜は一つ一つ、分かりやすいように答えていく。
当然ながら、携帯は圏外だった。
電池はまだ十分ある。
電池があったところで意味はないのだが、春菜はいつも当然のように持っていた携帯が今ここにあることに、自分でも良くわからない奇妙な違和感を抱いていた。
携帯を見ていると、無性に悲しくなってきて、春菜は慌てて鞄の中に携帯を押し込んだ。
心細くなり、そのまま座っていると泣き出してしまいそうな気がして、春菜は立ち上がった。
―あたし、帰れるのかな…。
そんな思いが胸を掠めたが、やはり今回もそれを口にすることは出来なかった。




