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千草の花  作者: 小夜
34/37

34、試し

春菜のすぐ目の前に座って、大王おおきみは、にこりと微笑んだ。

「春菜、そちは力が使えるそうじゃな」

探るような視線を向けられてわずかにたじろいだが、春菜はそれを肯定した。

「どうじゃ、少し見せてくれぬか?」

「ここで、ですか?」

大王の真意が汲み取れず、戸惑って聞き返す。

「有間はなかなか見せてはくれぬ。実は、力を扱っている様子を見たことはほとんどないのじゃ」

完全な興味本位からの頼みなのか、それとも違う狙いがあるのかは分からなかったが、無下に断ることも出来ずに、春菜はこくりと頷いた。

何をしようか、と少し逡巡した後に、そっと掌を上に向けた。

「おおっ…」

突然、小さく炎が上がったのに驚いたのか、大王はわずかに身を引いたが、すぐに興味深げに春菜の手の少し上で燃える小さな炎をしげしげと見つめた。

「なんと、素晴らしいものじゃのう…」

ほう、と溜息を洩らす大王は、何とも言えない表情を浮かべていた。

「無理を言って悪かった。なんとも、素晴らしき力じゃ。それなのに、今の朝廷ではもうその流れも途絶えようとしている」

悲しげに頭を振ると、大王は春菜の顔を覗き込んだ。

「今、朝廷でその力を授かった者は、有間一人じゃ。我も、我の子らも、誰一人として力を授かることは叶わなかったのじゃ。長い時を経て、血は薄まってきておる。今では、玉依姫の血を引くとは言っても、何も特別な力のない者ばかりじゃ。嘆かわしいことじゃ」

そう言って、大王は言葉を切った。

「そなたは、後の世から来たと有間から聞いておる。どのような経緯で今そなたがここに居るのかは分からぬが、我らの血が、しっかりと受け継がれていることは、嬉しく思うぞ。薄まって消えてしまう運命かと思うておった力じゃ。何と喜ばしいことか」

喜色を浮かべる大王に、戸惑いながら春菜は黙って耳を傾けた。

どうしても、有間の話しから想像していた大王と、目の前の大王が重ならない。

拭えない違和感に不安を覚えながら、それでもどうすることも出来ずに、饒舌な大王を見つめた。

「…なぜ、私を都に呼んだのですか?」

そっと尋ねると、大王は目を細めて春菜を見やった。

口の端を持ち上げて、笑みの形を作ると、大王は春菜の表情を覗うようにして、ゆっくりと口を開いた。

「……なぜだと思う?」

質問に質問で返されて、春菜は言葉に詰まった。

いろいろと、有間から聞いてもいた。

思い当たることもあった。

けれど、そのどれも口にしてはいけないような気がして、口にすべき言葉を見失ってしまったのだ。

「どうじゃ?遠慮はいらぬ。正直に申せ」

どう答えたものか、と思案していると、こちらを見る大王の目に試すような色を認めて、春菜は覚悟を決めてゆっくりと息を吸った。

「では、恐れながら申し上げます。大王は、力を扱える駒が欲しかったのではないでしょうか?」

すっと、大王の顔から表情が消えるのを見ながら、春菜は笑みを浮かべた。

「私は、この世界に来てから、様々な場所で、様々な物を見てきました。退魔師と行動を共にしたこともあります」

そこで、ゆっくりと息をつく。

正直に思っていることを言って、大王がどう出るか、春菜には予想もつかなかったが、それでも言うべきだと思った。

大王の本音を引き出すには、優しげな仮面を取り払わなければならない。

このまま、本音も分からないままに今日の面会を終えれば、そこで大王との関係が決まってしまうように感じていた。

今、大王は自分を見極めようとしている。

大王の目に浮かぶ色を見て春菜はそう悟っていた。

大丈夫、と言い聞かせもう一度口を開く。

「今、朝廷で力を使えるのは、有間皇子一人のみと聞きおよんでいます。大王はその力を授からなかったと、先ほども仰っていましたね。それは、大王にとって大きな脅威なのではないでしょうか?もちろん、有間皇子が朝廷に反旗を翻すような方だとは毛頭思ってはおりません。けれど、可能性を考えた時には、大きな脅威であることには違いありませんよね?」

じっと春菜を見つめたまま大王は反応を返さなかったが、春菜は笑みを浮かべたまま言葉を続けた。

「せめてもう一人、例えば私が居れば、それで上手く釣り合いが取れる。そういうことだと思っているのですが、どうでしょうか?」

にこりと微笑みかける。

我ながらとんでもない啖呵を切ったような気がしたが、もう後には引けない。

大王は、じっと春菜の目を見る。

「……そなた、何を言ったか分かっておるか?」

「はい。勿論承知しております。ですが、大王も私を試しておられるようでしたので、下手な小細工はなしに本音を申し上げようと思いました」

「では、我のもとに来て、そなたはこれからどうするのじゃ?そなたは、我が何か命じたとすればどうする?」

「それが何かによります。賛成出来ることで、私が力になれることであれば協力いたします。ですが、賛成しかねることでしたら、協力するつもりはありません」

はっきりと拒否の言葉を口にする。

背中を冷や汗が伝うのを感じた。

大王は、何と返すだろうか、と不安に思いながらも出来るだけ堂々と見えるように背筋を伸ばして返答を待った。

じっと春菜を見る大王の目を見返して、どれ程の時間が経っただろうか。

とても長く感じたが、実際にはほんの一瞬の出来事だったのかもしれない。

不意に、くっと息を漏らす音が響いた。

と思うと、大王の口が孤を描いた。

静かだった部屋に、笑い声が響いて、ほっとして良いものか反応に困って、春菜は背中を丸めて笑う大王を見た。

「さすがじゃ、いや、その位でなければ逆に信じられぬ」

未だに引かない笑いの合間にそう言うと、大王はもう一度くっと笑い声を洩らした。

言われた意味が良く分からず首を傾げるが、大王はそんな春菜の様子を気にすうことなく言葉を続けた。

「そなたの言っていたことは、おおよそ当たりじゃ。そなたがうつけならば、良いように丸めこんで手駒にしてやろうと思うていたが、とんだ期待外れじゃな。それもそうじゃ。虚けの訳がないことは、考えれば分かったであろうに。我こそ虚けじゃったわ」

「あの…」

会話にならず戸惑う春菜に手を振って黙らせると、大王は笑いを納めて春菜を見た。

「それで良い。協力出来ることだと思えば、協力してくれ。無理だと思えば、何もせずとも良い。だが、そちも言っておったが、有間とそちを不用意に近づけるのは、こちらとしては望んでいない。そちの住まいは宮中に用意させる。我も特に、そちに何かをさせたいと思った訳ではない。何かあれば協力を願うことがあるかもしれぬが、ゆるりと宮中で過ごせば良い。それだけで波風が立たなくなるであろう。そなたがいるだけで周囲の有間への恐怖や不信感も和らぐであろうしな」

言って、大王はそれにしても、と感慨深げに言葉を続ける。

「そちの啖呵、なかなかの物じゃったぞ。大臣の連中に聞かせたら、何人が卒倒したであろうな」

「えっと、それは…すみません」

やはり無礼だっただろうか、と小さくなって謝ると、大王は気にした風もなく、笑った。

「何、謝ることはない。我も興味深かった。春菜、今日は遅い。一度有間の屋敷に戻れ。近日中に宮の準備を整えて迎えをやろう。それと、宮中に来た際には、またゆっくりと話しをしたいと思うておる。そちの居たのちの話しとやらも聞きたい。またよろしく頼むぞ」

快活に笑うと、大王は手を叩いて人を呼んだ。

「有間をここへ」

現れた人に、そう命じ大王はもう一度春菜に向き直った。

「すぐに有間もここへ来るだろう。共に帰るが良い。ところで、春菜は年はいくつじゃ?」

「十五です」

「十五か…」

何やら考え込んだ大王に首を傾げたのと、有間が戻ってきたのはほぼ同時だった。

「おお、有間」

それに気付いて思考の糸を途切れさせたのか、大王が顔を上げた。

「お話しはもう終わられましたか?」

少し心配気な表情の有間はちらりと春菜に視線をやってから、大王にそう問いかけた。

「ああ。なかなか面白い娘じゃ。気に入った。数日後には春菜の宮を宮中に用意させる。すぐに移動出来るように支度を整えておけ」

「宮中にですか?」

予想していたのか、有間は驚いた様子は見せなかったが、かすかに表情が険しくなった。

「そうじゃ。明日詳しいことを伝える。お前はもう一度明日の午後にでも来い」

「……承知、いたしました」

険しい表情のまま、有間はそう答える。

「もう二人とも下がって良いぞ。夜遅くに御苦労であったな」

言って、大王はすぐに立ち上がると、部屋を出て行った。

それを見送っても有間は相変わらず険しい表情のままで、珍しい表情に春菜は戸惑いつつ、彼の後について宮中を後にした。

予定より早く書きあがったんで、投稿しちゃいます。

次も、早く出来るように頑張ります。

やっぱり間あけない方が書きやすくはあるんですよね。

がんばります。

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