30.少女
本当に、更新途切れ途切れですみません…
春菜が目を覚ましたのは、もうすぐ昼になろうかという頃の事であった。
焚き火のすぐ傍に座っていた有間は、春菜が起きたことに気づくと、焚き火にくべた薪を剣の先でかき回した。
「おはよう。疲れは取れたかい?」
「有間…腰が痛い…」
起き上がろうとした途端、腰に走った痛みに顔を顰めると、どうにか春菜は地面に座り込んだ。
「それはそうだろうね。昨夜はさすがに疲れたろう」
「何で有間はそんなに平気そうなの…」
涼しい顔で言う有間を恨めしげに見ながら言う。
二人が村から出て馬を走らせるのをやめたのは、明け方の事だった。
深夜から馬の背に乗り続けた春菜は、慣れない馬での移動によって、腰を痛めていた。
「馬に乗るにはコツがいるからね。いきなり長時間乗れば、当然痛みもするだろう。今日はあまり進まないことにしよう」
それに少しばかりほっとして、春菜は顔をしかめながら焚き火の傍へとにじり寄った。
真冬の朝の寒さの中での野宿はさすがに堪えた。
有間が少しでも体を休められそうな場所を探してくれたが、それでも氷が張る程の寒さだ。
とても完全に寒さを凌ぐことは出来なかった。
春菜が寝る時と同じ場所に同じ姿勢で座る有間に、ふと春菜は首を傾げた。
「有間、ちゃんと寝た…?」
それに有間はわずかに驚いたような表情で春菜を見た。
「…いや、私は大丈夫だよ。寝ないのには慣れている」
何でもないと言う表情で言いながら、有間は焚き火を刀でかき回す。
それに、ふと寒くないようにと火を起こし続けてくれていたのだろうかと思い申し訳ない気持ちになる。
「悪いが、食べ物の持ち合わせはあまりなくてね、これを食べたら立って、一つ目の村かどこかですぐに休もう」
言葉と共に有間はどこから取り出したのか餅を火で炙り始めた。
それを横目で見ながら、急に空腹を覚えて、春菜はこくりと頷いた。
人々は、あまり移動しないものらしい。
そう有間に聞いて、春菜は村人たちが訝しげな視線を向けてくることに納得した。
村を離れて旅をすると言うことは、それだけで死を覚悟しなければならないものだと言う。
何より、田畑を見守らなければならないため、人手のいる彼らには、住み慣れた村を離れるということが、まず無理なのだと言う。
例外は、退魔師と、貴族くらいだ。
農民は、ただ時々近場の大きな町で立つ市に行くか、税を収めに都に行くか、以外で村を離れることはない。
つまり、ふらりとやってきた春菜と有間のような見知らぬ人間というものは、酷く奇妙に人々の目には映るのだという。
昼過ぎに見かけた村から少し離れた、見捨てられたような小屋を見つけ、二人はそこで体を休めた。
久しく誰も住むことがなかったのか、荒れた様子を見せ始める小さな家は、寒さを凌ぐには十分だった。
「ねぇ、有間」
小さく声を掛けると、視線だけを春菜に向けて有間が先を促すようにうなずいた。
「有間は、時彦と前に会ったことがあったの?」
唐突に尋ねた春菜に、有間はわずかに不思議そうな表情を作ったが、すぐにいつもの曖昧な笑みを浮かべた。
「ああ、少しね。あまり生きている退魔師に知り合いはいないから、珍しいかもしれない」
わずかに沈黙を落として、すぐに有間は言葉を続けた。
「幼い頃、私が初めて都から一人で出た時にたまたま出会ってね。当時は知りもしなかったが、奇妙な縁もあったものだ。今は別たれているが、元は一つの家系。その無用の末裔同士。後で知った時には、奇妙なものだ、と思ったが…」
そこで不意に口を噤むと、有間は春菜から視線を逸らした。
続く言葉を待っていると、もう話す気をなくしたのだろうか、と思い始めた頃に、有間はぽつりと独り言のようにつぶやいた。
「けれど、知らぬままなら、どれ程良かったか」
危うげな響きを孕んだ声に、はっとして、有間の表情を窺ったが、有間はいつものようにどこか儚げな笑みで遠くを眺めるような瞳で空を見ていた。
「……さて、私は少し村の様子を見て来る。出発は明日にしよう」
言いながら立ち上がると、有間は暗くなる前には戻る、と言い残して小屋を出て行った。
一人になった小屋の中で、春菜は小さく息を吐いた。
なんとなく、悲しい気分になってしまったのを振り払おうと、ゆるく頭を振った。
それとほぼ同時か、それよりもわずかに早く、暖かな風に撫でられたような感覚が頬に走った。
隙間風にしては暖かく、不思議に思って顔を上げた。
その視線の先、鼻が触れそうなほど近くに、真っ黒な瞳が浮いていた。
あまりの驚きに、声を上げることすらできずにいると、瞳がわずかに距離を取った。
それで、ようやく瞳の持ち主が、幼い少女であることが分かった。
痛いほど強く脈を打つ心臓を沈めようと勤める春菜を見て、少女は小首を傾げた。
どうして、そんなに驚いているの?とでも言いたげな仕草だった。
「あなた、だぁれ?どうやって入ってきたの?」
出来る限り平静を装って声をかけるが、少女は座り込む春菜の顔を覗き込み、もう一度首を傾げるのみで、返答をしない。
「この村の子?」
重ねて問うと、ようやく少女はふるふると頭を振った。
同時に、少女の柔らかそうな黒髪がさらさらと揺れる。
「どうやって入って来たの?」
その問いには答えずに、少女はただ春菜の目を覗き込んできた。
「…お姫様?」
「へ?」
唐突に少女が、まったく予想をしていなかった単語を発したため、思わず素っ頓狂な声を上げた春菜に、少女は重ねて問いかけた。
「姫様でしょ?」
先ほどより、はっきりと聞こえたそれに、聞き間違いではなかったことを確認して、春菜は思わず自身に視線を下ろした。
身に着けているものは退魔師の村で着ていた、ごく普通の着物で、みすぼらしくはないが、およそ綺麗であるとか、豪華であるとか、お姫様という単語から連想されるようなものは身に着けていない。
返す言葉が出てこずに、あっけに取られたまま黙っていると、少女は何やら一人納得したらしく、丸い目を更に大きく見開いて春菜を見る。
好奇心旺盛そうな真っ黒な瞳に、期待のようなものを滲ませ、少女は嬉しそうに笑った。
「ね、言ったでしょー。やっぱり姫様だよー」
春菜に掛けられた言葉なのかと思ったが、どうも違うらしかった。
不意に春菜の横に視線を向けた少女に釣られて右を向く。
いつの間に隣にいたのか、突然現れた二人目の少女に驚いて声を上げそうになったのをどうにかこらえる。
全く同じ顔をした少女だった。
双子でも、こうも似るのか、というほどにそっくりな顔をした少女達を見比べる。
これほど至近距離で見ても、全く見分けがつかない。
「えー、そんな事こなた言ってなかったよー」
「言ったよー」
全く同じ声でなされる会話に、不意に春菜は既視間を覚えた。
長く語尾を伸ばして歌うように。
幼いそっくりな声をした少女たちの会話。
のんびりとしたやり取り。
どこかで、聞いたような気がして春菜は少女たちを眺めていたが、何気なくやった視線の先に氷ついた。
「ねぇ、あなた達、誰?」
そろりと立ち上がりながら尋ねると、少女達は同時に春菜の方に顔を向けた。
「かなた」
「こなた」
交互に告げられたそれが、名前だと理解するのに、わずかに時間を要した。
「私達、一度会ってる?」
尋ねると、少女達は同時に顔を見合わせた。
そして、全く同時にこくりと頷いた。
「…あなた達は、人じゃないの?」
宙に浮いた少女達の足元を見つめながら、ゆっくりと問いを発すると、彼女達は、それにもまたこくりと頷いた。
女の子達、かなたとこなたって名乗らせました。
ずーっと前から、名前どうしようかなぁ、と考えてました。
で、結局、彼方此方から、「かなた」と「こなた」にしようと決めました。
今日、ふと検索かけたら、らきすた?ですか?におんなじ名前の双子ですか?そんなキャラがいることが判明。
名前変えようかと思ったのですが、もう思いつきませんでした。
だって、そんなのを理由にただでさえ遅れてる更新をさらに遅らせる気にはなれなかったんです。
すいません。




