24、郷愁
「これが、術に使用した刀だ」
梓彦が持って来た夕食を食べ終わり、一息ついた頃だった。
結局、春菜は時彦にあまり村との関係などを聞く事が出来ずに夕食を食べ終わった。
ゆらゆらと、蝋燭が不規則に揺れる中、時彦が取り出した刀に春菜は首を傾げた。
「懐剣…よりは少し長いか。凝った作りだな」
梓彦は刀を受け取り、検分するように眺める。
春菜もまた梓彦の持つ刀を見る。
気のせいだろうか、と思いながら懐に手を入れる。
細身の刀身。
黒の地に繊細な銀細工。
柄の先からは、装飾の為であろうひだが数本と、乳白色と、白く煙ったようなわずかに透明感のある空色の玉を数珠状に繋いだものが、それぞれ一本づつ。
取り出した刀を隣に並べると、色こそ違えど、寸分違わぬ様相だった。
「春菜、それは何だ」
梓彦の問いに、春菜は視線を上げる。
ついで隣に座る時彦に視線を向けた。
「物の怪の気が付いていた刀を町で見つけて、時彦からもらったの」
「どう言う事だ?」
今度は、時彦に問う。
「驚いた、気付かなかった。春菜を拾って、二日目だったか?町に出た時に、露店に並べられていたんだ。春菜が物の怪の気に気付いて、気を払った後に、俺は使わないから、春菜にやったんだよ」
「物の怪の気に気付いた?」
怪訝な表情で、梓彦は春菜を見る。
「ああ、言ってなかったか?春菜は、物の怪の気や、力を感じる事が出来るらしい。どうやっているのかは知らないが、実際、物の怪が現れる時には常に俺より早く気付いていた」
さらに怪訝そうな表情を作る梓彦に、春菜は居心地の悪さを感じ、視線を時彦に向けた。
「時彦、お前はもう少し考えろ。なぜ刀の造作の酷似に気付かん。春菜の事もそうだ」
呆れたようにして言うと、一度春菜に視線を向けてから、梓彦はすぐに刀に向き直った。
「…分からんな。春菜に縁のある物なのか?」
刀を眺めながら呟く梓彦に、春菜は否定する。
「私、知らないよ、刀なんて初めてみたし」
それに時彦がやんわりと首を振った。
「そうじゃない、春菜の魂、つまり前世での縁だ」
「前世?」
首を傾げると、二人から肯定が返って来た。
「…人ってほんとに生まれ変わるの?」
神様もいるならば、生まれ変わる事も信じられるような気がしたが、それでも思わず確認する。
「ああ。一度出来た縁は、消えずに何かしらの繋がりが残る。深ければ深い程に強い繋がりが。つまり、前世の春菜にとって余程の縁がある物であり、これを通じて春菜の力の端を掴み引き寄せた、って事か?」
春菜への説明であったはずの時彦の言葉は、最後には梓彦への確認となる。
「おそらくな」
言って、梓彦は釈然としない様子で春菜を見る。
「それならば、春菜は時彦によって過たずに呼び寄せられた事になるが…だが、なぜ春菜なんだ?横穴の壁には書かれた当時の春菜が死に、例え生まれ変わっていたとしても、まるで必ず助けになると信じて疑わないかのような内容だったが…結局わからず仕舞いか」
溜息とともにそう吐き出して、梓彦はようやく刀から手を放した。
「やっぱ、わからないか」
感情を表さないように努めたが、それでもわずかに声が震えた。
言いようのない不安が広がる。
春菜にとってこの世界は決して悪い印象がある訳ではなかった。
それでも、どうしようもない不安や孤独は常に身の内にあった。
「仕方ないよね」
笑おうとしたが、わずかに頬が引き攣ったような感覚に、上手く笑顔を作れたか分からなかった。
「それにしても、そっくりだよね、この刀」
話題を変えようと、視線を下に向けながら言う。
「二組一対なんだろうな。それ、両方とも春菜が持っておけ」
時彦の言葉に、春菜は視線を上げる。
「良いの?」
「ああ。俺が持っていても仕方ないしな。それに、お前に縁の深い物だ、持ち主はお前だろう」
あまり実感はないが、こくりと頷いて春菜は刀を手に取った。
それでも、手に取った刀は何となく手に馴染み安心した。
「とりあえず見落としがないか、明日もう一度調べてみるか」
「そうだな。それと時彦、お前もう一度その術をやってみたらどうだ。術の仕組みが分かれば何か手掛かりになるかもしれん」
梓彦の提案に頷いて、時彦は軽く伸びをした。
「で、お前どうすんだ?家帰るのか?俺は別に泊まって行っても構わんが」
「ああ…泊まって行って良いか?」
それに、おう、と短く返しながら時彦は荷物を漁る。
「布団は使えたもんじゃないだろうから、雑魚寝で我慢してくれ」
取り出した布の片方を春菜に渡しながら言われ、春菜は一つ頷いた。
こちらに来た最初の時よりも夜は冷え込むようになり、夜露や風を凌げるだけで十分ありがたかった。
布に包まりながら、随分寝る時間が早くなったな、と春菜は一人小さく笑った。
春菜はどちらかと言えば夜型で、なかなか寝付けず遅くまで起きている事が多く、代わりに朝にはとても弱かった。
けれど、こちらに来てからは陽が沈むとすぐに夕ご飯を食べ、そのまま眠りにつき、朝は日の出とともに起きる、と言う規則正し過ぎる生活を送っている。
夜に何かテレビのような娯楽がある訳でもなく、歩き通しで疲れた体は自然に睡眠を欲した。
そのまま朝になれば自然に目が覚め、春菜にとっては信じられないような生活だった。
寝る準備に入った二人を尻目に、春菜は部屋の隅に寝転がった。
火を消して、完全な暗闇に部屋が包まれてからどれ程たっただろうか。
闇の中、なかなか寝付けずに、春菜は寝返りをうった。
動かずにじっとしていると、そのまま闇に侵食されてしまいそうで怖かった。
一人でいると、自然に思考が家族の事や友達の事、学校の事になる。
帰れるかもしれない、と思った事によって、ついまたあの世界の事を思い出してしまった。
また連日の移動により、春菜にも体力がついたらしく、一日歩き通していても、疲れきってすぐに寝てしまうような事はなくなっていた。
寝てしまえば余計な事は考えなくてすむと分かっていても、なかなか眠気はやってこなかった。
お母さん、心配してるかな、とふと思った。
一度思うと、何かが決壊したように、様々な事が思い出された。
学校は、いつも通りなんだろうな、と思い体を丸め小さくなった。
「……だめだ」
小さく、本当に小さく呟く。
二人を起こさないようにゆっくりと、静かに起き上がった。
そのまま、極力音を立てないように注意しながら戸に手を掛ける。
小さく軋む音をたてて、戸口はゆっくりと横に滑る。
戸口を開いた途端に、家の中より少しばかり冷たい外気が入り込んできた。
熱くなっていた頭や、思考、全てから熱を奪われるようで心地が良い。
空気が冷えると、透明度を増すんだな、と思いながら夜の闇の中に滑り出た。
月はなく、星ばかりが夜空を埋め尽くしていた。
昼は感じなかったが、背後に迫る崖も家を取り巻く森も、黒々として春菜に迫るようで、小さく身震いをする。
外気に当たった事で、少し沈んでいた思いから離れられたような気がして、春菜は家の外壁にもたれて、そのままずるずると座り込んだ。
冷やされて目頭も熱くなっていた事を自覚していた。
ふわり、と力が頬を撫でる感覚がした。
春菜を優しく包むようにして、力が周囲に自然と集まった。
「慰めて、くれてるの…?」
思わず呟くと、それに反応するかのように、力が小さくざわめいた。
――力は、私のような力を扱える者には優しい。
いつか聞いた有間の声を思い出し、頭を膝に埋めた。
――でもね、勘違いしてはいけない。力の意思は、女神の意思の残り滓。
あの、力に目覚めた村で言われた言葉。
――力に意思はない。私を守る事もあれば、時には傷付ける事もある。
有間は、あの時淋しげな笑顔で春菜に告げたのだ。
――力は優しい…まるで意思を持つかのように。やはり優しいんだ。時にそれがどれ程残酷に感じる事があったとしても。
春菜には、意味がよく分からなかった。
ただ、有間の表情が淋しげで胸が痛かった。
「残酷、かぁ…」
あの時は分からなかったが、今は少しだけその意味が分かるような気がした。
酷く孤独を感じていた。
人のいない、ただ優しいだけの力に包まれている孤独な世界。
ふわり、と柔らかな感触に頭から包まれ、春菜は驚いて顔を上げた。
頭から掛けられた布を掻き合わせる。
ちらりと横に視線を向けると、無言のまま隣に時彦が腰を下ろした。
しばらくその横顔を見ていると、やがて時彦も春菜に視線を向けた。
一瞬交わった視線は、すぐに時彦が前を向いた事によって逸らされた。
「風邪、ひくぞ」
「…うん」
ぼそりと言われ、それでも心配されている事は伝わってきて、春菜も小さく頷く。
「大丈夫か…?」
「うん」
今度は少しはっきりと頷く。
不意に時彦が横を向き、春菜と目を合わせた。
瞳に浮かぶ表情を読み取れず、春菜もまた時彦を見る。
「……帰りたいか?」
口にするのを迷ったのだろう。
僅かな沈黙の後に時彦が発した言葉は酷く真摯な響きを伴っていた。
真っ直ぐに、決意を込めて、そこに後悔をわずかに滲ませて、時彦の声は春菜に響いてきた。
「……うん。…帰りたい」
時彦の視線を受け止める事が出来なくなって、前を向いてぽつりと呟いた。
時が止まったようだった。
時彦は身じろぎもせずにいる。
「悪かった」
重い沈黙を破ったのは時彦の言葉だった。
吐き出すように言われた言葉に、春菜は隣に視線を向けた。
まだ春菜に視線を向けていた時彦と目が合う。
そこに浮かぶのは、懺悔と後悔、そして自嘲の色と、諦め。
「俺はお前が望む限り、絶対にお前を帰す。見つかるかは分からないが、絶対に方法を探すつもりだ。帰れるまでは、絶対にお前の面倒を見る。もし…もし、もし万が一、どうしても方法が分からなくても、俺は一生お前を護る」
瞳に強い色を浮かべて、時彦は春菜を真っ直ぐに見つめて言った。
呆気に取られたようにして聞いていた春菜は、驚きに目を見開いて時彦を見つめた。
厳しい表情をふっと緩めて、時彦は優しい、けれど、どこか憂いを帯びた表情を作った。
「だから…、あまり心配するな」
時彦の方が泣きそうな声音に聞こえて、春菜は首を横に振った。
「何、それ」
こらえようとしたが、声が震えた。
「ご、ごめん、時彦…」
肩を震わせ、春菜はとうとう堪えきれずに吹き出した。
「何それー、プロボーズ?」
「ぷ、ぷろ?」
突然声を上げて笑い出した春菜を、困惑したように時彦は見る。
「おい」
一向に笑いの収まらない春菜に業を煮やしたのか、憮然とした表情で言われ、春菜は目尻に溜まった涙を拭った。
「ごめん、我慢出来なくて。お腹痛いー」
まだ顔に笑みを貼付けたままの春菜を時彦はじろりと睨む。
「…人がせっかく心配してやってるのを」
怒ったようにしながら、どこか安堵したような時彦の表情に、ようやく春菜は笑いを収めた。
「ごめん。でも、嬉しかった」
ちゃんと気持ちが伝わるように、時彦の目を見る。
「だけど、駄目」
一つ息を吸って、春菜は言葉を続ける。
「負い目や、償いで結ばれる関係って悲しい。お互い辛いだけだと思う。ただ、相手を思ってやった行為全てが、過去の償いになっちゃうなんて、ただ責任感からの行動になっちゃうなんて、私は嫌。だから、駄目。きっとそんな関係、何も残らない。私、時彦の事嫌いじゃないよ。良い奴だと思う」
笑って言う春菜を、時彦はただ真っ直ぐに見る。
「これが嫌な奴だったらさ、何やってんだ、死ぬ気でどうにかして帰しやがれ、この野郎、だけどね」
冗談めかして言うと、春菜は視線を下に向けた。
「それにね、私ここも、ここで出会った人も好きなの。お別れは悲しいし…帰りたくないって意味じゃないよ。すごく帰りたいけどね」
「別に俺は、償いだけで一生面倒見てやる程お人よしじゃないぞ」
憮然とした表情のまま時彦は言う。
「そこまで出来た人間じゃない。春菜だから言ってんだ」
それに、春菜はきょとんとして時彦を見た。
「なんかそれじゃ、ほんとにプロポーズみたいじゃん」
「ぷろぽうず?」
「いや、こっちの話し。って言うか時彦、あんまり好きな子以外にそんな事言っちゃ駄目だよ。勘違いされるよ?」
「……。とにかく、あまり無理するな」
奇妙な表情で春菜を見ると、一つ溜め息をついて時彦はゆっくりと口を開いた。
「え?」
視線を絡め取られたようで、逸らす事が出来なかった。
「唐突に何もしらない場所に放り込まれて、平気な訳ないだろ」
真剣な目線に、言葉に詰まる。
「…何で、そんな事言うの?思い出したくなんか、ないのに」
一度思い出したら、耐えられない気がしていた。
それでも思い出してしまう世界。
春菜は目を逸らす事に必死になってきたのだ。
「我慢、するな」
不意に時彦の手が春菜の頭に乗せられた。
大きな少し骨ばった手が、ぽんぽん、と二度三度落とされる。
「……私は、時彦が悪いなんて思ってないよ?たまたまで、運が悪かっただけで、時彦を恨んでなんかないよ…」
言い訳のように、春菜は言う。
春菜をこの世界に呼び出した時彦の前で、帰りたいと嘆く事はそのまま何故呼び出した、と時彦をなじる言葉になるような気がして、言えなかった。
「…分ってる」
時彦は否定の言葉は言わなかった。
それでも、その表情から時彦が責任を感じている事も、後悔している事も十分すぎる程に伝わってきた。
伝わってきたが、言葉を止める事が春菜にはできなかった。
「帰り、たい…」
今まで口にしないようにしていた言葉。
呟くように、吐き出すように言うと、胸の奥底にしまい込んでいた感情が春菜の心をあっという間に覆いつくした。
「家に帰りたい、みんなに会いたい…」
一言口にする度に、春菜の目に涙が溢れ、やがて頬を伝いだした。
今にも壊れそうな感情を孕んだ声に、時彦は思わず春菜の肩に腕を伸ばした。
そのまま、肩を抱き寄せると、春菜は抵抗もせずに俯いて泣き出した。
「時彦の馬鹿…我慢、してたのに」
嗚咽の合間に、言う春菜の言葉を時彦は黙って聞いていた。
「何で、私なんだろう?…私、帰れる?家族にも、何にも言ってない…きっと、心配してる」
小さく相槌を打ちながら、時彦はただ耳を傾けている。
「帰れなかったら、どうしよう…帰りたい。帰りたいの」
そのまま涙が溢れて止まらなくなった。
とうとう、言葉を紡ぐのも出来なくなり、そのまま泣いた。
ひたすらに泣いた。
それまでこれ程泣いた事があったかと思う程に。
「大丈夫だ、絶対に帰してやる」
静かにけれど力を込めた声を耳元で聞きながら、春菜は嗚咽を堪えながら涙を流した。
春菜が落ち着くまで、時彦はずっと春菜を支えるように抱きしめていた。
「時彦、ごめん」
ようやく落ち着いて春菜がそう声を上げたのは、二人にもどれ程時間が経ったのか分らなくなった頃だった。
「いや、俺も悪かった」
「でも、泣いたら、なんかすっきりしちゃった」
目もとに溜まった涙を拭い、泣き腫らして赤くなった眼で、はにかんだように春菜は笑った。
いまだに時彦に抱き締められるようにして座っていたため、横を向くとすぐ近くに時彦の顔があって、春菜は少し気恥ずかしく思いながら、小さく礼を言った。
それに、時彦も、驚いたような表情で春菜を見ると、すぐに小さく笑んだ。
「もう、大丈夫だから。ごめんね」
言って、少し体をはなすようにすると、時彦はすぐに腕の力を抜いて、春菜に回していた腕を解いた。
「ここが、好きって言ったのと、時彦のせいじゃないって思ってるのは、本当だからね」
誤解していないか不安になって、念を押すように言うと時彦は苦笑して黙って頷いた。
そのまま、黙って二人で座っていると、不意に時彦が口を開いた。
「俺の一族は、大君を生み出した一族だ」
唐突に話し出す時彦に困惑したが、春菜は黙って耳を傾けた。
「正確には、俺の祖先の兄が大君の先祖だ。そんな訳で呪われた血を生んだ一族として、退魔師連中からの評判は良くない。とうとう俺が一族の最後の一人だ」
「何で話してくれたの?」
尋ねると、一瞬の沈黙の後に答えが返ってきた。
「知りたがってるんじゃないかと思って。あいつらの事もあったからな。それに、何となく話したくなった」
頭を掻きながら少し罰が悪そうに言う。
「私には、神様とか全然分からないんだけど、やっぱり大事なの?」
「当たり前だろ」
春菜の言う意味が良く分からなかったのか、時彦は首を傾げながらそう言った。
「なら、何で神様のせいにして人を嫌いになるの?会った事も会話した事もない神様なのに。自分のまわりにいる人たちが大切じゃないの?どうして、自分の目で見た事で判断しないの?何で?……時彦に言ったって仕方ないんだけどね」
はっとして、春菜はそう最後に付け足した。
「大切だから大事なんだ」
ぽつりと、時彦はそう口にした。
「大切だから、護ってくれる神々が大事なんだ。ある意味利害関係だよな。でも、それ以上に、神々への畏敬の念や、尊敬もある。例えば、それは恩人のような感情かもしれない。俺達が生きていけるのは神々のお陰だ。絶対的な恩があるんだ。時に荒らぶる神もいる。それも含めて神なんだ。きっとそれは、人間なんかより絶対的に優位で強く超越した存在への畏れでもある。神々への信仰心と言ったところで、神々の力を畏れての行動なんだろうな」
それは少し分かるような気がして、春菜は黙って頷いた。
「で、そんな畏れ多い現人神と子を成した、など悪い冗談にも程がある。俺だって、それは良い事だとは思えない」
「ご先祖様がした事なのに?」
「正確には違うけどな。やはりそれは良くない事だろう。神への冒涜だ」
時彦の言い様に、春菜は少し考え込む。
「でもさ、玉依姫も、仮にも神様でしょ?力で男に負ける訳ないよね?恋人同士だったんじゃないの?」
「さあな。昔の事だから分らないが、退魔師としては、大君の祖先が玉依姫をたぶらかして、騙すようにして関係を持った、って事になってるけどな」
「…玉依姫と、時彦のご先祖様が、好き同士だったら可哀そうな話しだよね」
何が、と問われ、春菜は考えながらゆっくりと口を開く。
「だって、好きな人の子供を産んだのに、誰も祝ってくれないんだよ。世界は認めてくれなくて、挙句相手の仲間だった人達から子供は命を狙われて…可哀そうじゃない?玉依姫、悲しかったんじゃないかな。だから、行方を眩ませたんじゃない?」
「……一応、玉依姫が姿を消したのは、俺の祖先に騙され、傷心した姫はとうとう人間を見限ってお姿を隠した、って言われてはいるぞ」
念のため、というように時彦は退魔師に伝わる逸話を話す。
「ふーん。どっちにしろさ、何で神様と恋愛した位でこんなに村八分状態なのか、私には理解不能」
分る気もするけど、分りたくもない、と矛盾する事を言いながら、時彦に視線を向けると、呆気にとられたような時彦と目が合った。
すぐにはっとしたように苦笑いを浮かべて、時彦は口を開いた。
「お前は時々信じられないような事を言うな…。まあ、気持ちはもらっておく」
言いながら、時彦は立ちあがる。
「あまり長居すると、風邪ひくぞ。そろそろ家に入れ」
春菜は目の前に差し伸べられた手を見てから、時彦に視線を向ける。
「……ありがと、来てくれて」
時彦の手を掴み、立たせてもらいながら言うと、時彦が笑ったような気がしたが、しっかりと確認する前にいつもの無表情に戻っていた。
ちゃんとパソコンさえ開ければ、ちゃんと更新出来るんですが…。なかなか開けない事も多くて、いつもお待たせしてすみません。一応、今のところ40話完結を目指しているのですが、予定は未定です。今回、文字数8000字。普段なら5000か6000字…予定狂う感しまくりです。私の場合プロットは書きながら姿が変わります…。少しでもお楽しみいただけていれば幸いです。次回更新は、10月初めを目指します。




