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千草の花  作者: 小夜
19/37

19、新たな世界

長らくお待たせしました。

…待っていただいてる方がいるなら本当にすみません。

そしてありがとうございます。

「あれ?」

唐突に声を上げた春菜に、不思議そうに有間が視線を向けた。

「有間、私出来るよ、ほら」

春菜自身も驚いたような表情で言うと、締め切ったはずの室内に風が吹いた。

「不思議。ほら、ね?」

言いながら、楽しそうに春菜は風を自身の周りに吹かせる。

「前よりね、力がはっきり分かるの。何でだろう。それでね風が吹くって信じて、自分の中の力と外にある力が一緒になって風になるように考えてみたの。そしたら、ほら。なんだか変な感じ。今まで使ってこなかった手がもう一本ある事に急に気付いたみたい」

笑いながら言って立ち上がると、春菜は軽い足取りで部屋の外に出た。

白み始めた空は薄い青いに染まり、空気はぴんと張り詰めたような静けさを湛えて春菜の肌を打った。

「ねえ、有間。私、今ならもっとたくさんの事が出来る気がする」

まるで周囲にたゆたう力全てが春菜の体の一部であるかのような不思議な感覚だった。

少し意識を向ければ、すぐに力は春菜の意に添おうと動き出す。

冷たく澄んだ空気を肺に取り込み、その清浄さに溜め息をつく。

未だに春菜の周りでは柔らかな風が吹いていた。

同じ目で見ながら、世界が全く違って見えていた。

「世界って、こんな景色だった?私、今まで何を見てたんだろう」

思わず口に出して呟く。

生命の躍動が、力の流れがまるで目に見えるようだった。

春菜と世界が繋がっているのが分かった。

自然の営みの中にいる事がはっきりと実感できた。

まるで自然と一体となったかのような不思議な感覚。

今まで、目を閉じたまま生きてきたのではないか、と疑いたくなる程の新鮮さだった。

同じ物を見ていて、見える物は昨日までの景色とは全く違っていた。

「何だか、忘れていた感覚を思い出したみたい」

言いながら、ふわりと春菜の体が浮き上がる。

「ほら、私風にもなれる」

驚く有間を残して、春菜は家屋の上にまで浮き上がる。

それこそ空吹く風の速さだった。

一気に遥か上空まで昇り、また下降する。

そのまま、地上で驚愕の表情を浮かべる有間の隣に舞い降りた。

「春菜には、本当に驚かされる」

半ば呆れたような、感心したような複雑な声音で言う有間に、春菜は明るく笑いかける。

「本当に忘れてた事を思い出したみたいなの。あー、楽しい。どうして私こんな大事な事忘れちゃってたんだろう?ねえ、まだ時間あるよね?有間も少し行こうよ」

空中から有間の腕を引っ張るが、有間は困惑したように春菜を見た。

「けれど、私は空を飛ぶなどした事がない。出来るかどうか…」

「え、大丈夫。風になれば良いの。風と一緒に吹くの。自然と一体になって、風と共に吹くの」

なんとも理解しがたい事を平然と言ってのけ、春菜は空中から有間の腕を引いた。

「風になる、ね」

困惑しながらも、有間はとにかく春菜の言う、自然と一体になろうと意識をしてみるが、やはり変わらない。

「私には分からないようだ」

少しして、諦めたように笑うと、春菜はふわりと体重を感じさせない動きで有間の隣に降り立った。

「けれど、それだけの事が出来れば、物の怪に出会っても大丈夫だろう」

笑って告げる有間に、春菜は曖昧に頷く。

「大丈夫。怖いなら、対峙しようなど考えずに、逃げれば良い。風になれるなら、十分逃げ出せる。自分の身を守るなら、それだけで十分だよ」

無理をして対峙する必要はない、と付け加える有間に、少しばかり安堵して、春菜は今度は大きく頷いた。

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