電話
2027年8月7日
正直、依頼するべきか迷った・・・ここで掘り返すべきかどうか。
一人の意見を聞いてみたくなった。
ただ、それだけの理由なのに。
しかし、これを聞くことで自身も変わることが出来るかもしれない、一歩一歩と前に進めるかもしれない・・・。そう思った。
俺はある人に電話を掛けることを決心する。
『はい。神崎です』
「お久しぶりです。外山です。覚えていますか?」
『申し訳ないですが、覚えていないです。どちらでお会いしたでしょうか?』
「いえいえ。覚えていないのも致し方ありません。小説の発表会にお邪魔した際に少し話を聞かせていただいた程度ですので」
『あー。確か3か月ほど前に小説の新連載発表を行いましたね。何人か会話をしたのは覚えていたのですが、その内の一人でしたか』
「はい。そこで私も小説を書いてみたいと神崎先生に相談し、名刺交換をさせてもらいました。その名刺に書かれていた電話番号に掛けさせていただいたというわけです」
『なるほど。では、小説に関する相談か何かで連絡をしてくれたということで良いですか?』
「是非、小説に関して詳しく聞かせていただきたいですが、今回は別件でお電話をお掛けしました」
『別件?』
「はい。神崎先生は謎解き、ミステリーが非常に好きで、そういった類の謎を持ってきてくれるのは大歓迎だと初めてお会いした際に言ってくださいました。ですので、私が神崎先生に持ち込んだ謎を解いていただきたいのです」
『ほう。確かに興味深いですね。ちなみに警察絡みにはならないですか。さすがに、警察と関係を持ちたくはないので』
「大丈夫ですよ。神崎先生に迷惑はかけません。謎を解いてくだされば、後は私の方で解決しますから。まあ、解決と言ってもこの謎を解き明かしてスッキリしたいだけですけど」
『そういうことでしたら是非、話を聞かせてください』
「ありがとうございます。では、早速ですがこの謎は私が小説のネタ探しをしていた際に出てきたネットニュースの話です。今から15年前に駅のホームで飛び降り自殺が起こりました。飛び降り自殺というのが当初の警察の推定だったのですが、ある日、警察署に『私が殺した』と自首する一人の男性が現れました。このことから、この事件の捜査が一変することになります。なぜ、警察が男性が突き落としたことを断定できなかったかというと、この事件は完全に防犯カメラの死角になっていたからです。なので、警察も数日間動くことが出来ませんでした。しかし、数日後SNSに『こいつ人を突き落としててやばい』というタイトルで映像を投稿した人物が現れました。その結果、突き落とした人物は自首しに来た人物と同一人物であることが確定しました。これが私が見つけたニュースです」
『なるほど。自身が殺したことに耐えれなくなり、自首しにきた。そのタイミングでちょうど証拠が出てきたと・・・。悲惨な事件ではありますが、解決してよかったではありませんか。今の内容に謎は特にないのでは?』
「この事件は間違いなくその男性が犯人でした。しかし、私は突然自首をしに来たことに疑問を感じ、当時の裁判を傍聴していた方から取り調べ内容を聞くことが出来ました。私の読み通り、取り調べ内容にいくつか謎が残されてる部分を発見しました。これは、読んでもらう方が良いかと思うので、その内容をまとめましたのでURLをそちらに送りますね」
一つのメールを先生宛に送信する。
数分後・・・
「送られたかと思うので、確認していただけると」
『ありがとうございます』
***
駅飛び降り事件概要
2012年7月7日に事件発生
同年9月4日に被疑者が自首をする(自首をして5日後に証拠がネットに流出)
殺害方法:突き落とし
被疑者:紀本 真弥人(16)
被疑者情報:南雲高校2年生、部活の所属なし、問題行動特になし(当時の裁判内情報)
被害者:山本 美咲(17)
被害者情報:南雲高校2年生、バレー部所属、生徒会所属、人助けに熱心(当時の同級生情報)
上記はニュースで流れた情報を簡潔に記載したものである。
ここから下記の情報は裁判で話した取り調べの一部である。
「あなたが山本美咲を突き落とした、これは事実ですか?」
「はい。事実です。僕が突き落としました」
「山本美咲を殺害した理由は?」
「特にありません。理由をつけるならば、殺すしかなかったからです」
「特に理由がない?あなたは被害者を恨んでいたわけではないのですか?」
「もちろん恨んでいました。恨みがなければ、突き落とす勇気が出なかったと思います。ですが、さっきも言った通り、突き落としたその当時に殺そうと思う明確な動機はありませんでした。そもそも殺したら僕は捕まるでしょう?それは流石に嫌なので、殺そうとなんて考えていませんでした」
「でも、実際には殺害を実行した。どうしてですか?」
「それはさっき言った通りです。その日に殺すことになっただけです。突き落とせと脳に指令が来たから突き落とした・・・それだけです」
「なるほど。では、話を変えます。あなたにはお兄さんがいますよね?悩みがあったのならお兄さんに相談しなかったのですか?」
「相談しました。相談した結果、こうなったに過ぎません。あ、奏汰はこれについてなにもしりません。無関係ですから、あまり深く関わらないようにしてください」
「勿論です。証拠がある以上、殺害したのはあなたで間違いありません。深入りはしませんよ。最後に何か私に話しておきたいことは?」
「そうですね・・・。突き落としたのは僕ですが、殺したのは僕ではありません。結果的に僕が悪なのは間違いないでしょう。自首をしたのは自分の意思です。こんな悪には出来るだけ重い刑罰を与えてください」
取り調べでは、以上のような話を行ったと記録されている。
***
「ね。違和感がありますよね?」
『確かに。ほとんどの言葉に違和感を感じます。突き落としたことは認めているにも関わらず、殺害したことは言葉を渋っている』
「はい。この事件には謎が多すぎてどうしても気になってしまいまして・・・。ですので、先生にはこちらの謎を解いていただきたいのです。紀本が本当に殺害したのか、真犯人がいるのか、突き落とすことになった動機は何なのか・・・」
『分かりました。こちらで調べられる範囲にはなりますが、引き受けさせていただきます。分かり次第、そちらにご連絡させていただきます』
「ありがとうございます」
『では、失礼いたします』
そう言って電話が切れる。
やはり、電話して正解だった。
神崎先生は自分の意思を持っておられる方だ。
この事件を真剣に解決の方向に持ってきてくれるだろう。
事件の結末によって、先生との会話によって、俺の進む道も大きく変わるだろう。
期待感と緊張感で心が満たされていくような感じがする。
一息つきながら、神崎先生と初めて出会った時を思い出す。
だいぶ不定期です。
4構成くらいの短めに仕上げるつもりです。




