不思議な体験
「アクビなんかして、少し気分転換してきたら」
経理の仕事は楽ではない。
1円でも計算が合わなければ、再計算になる。その手間を考えると、少し休ませた方がいい。
そう思って、部下のC子を休憩室に行かせた……のはいいのだが、問題はその後だった。
「気分転換できました」
そう言いながら戻って来たのは、C子ではなかった。
あなた、だれ?
そう声を掛けようとしたとき、内線が鳴った。
「C子、営業から」
電話を取ったB子が、C子ではないC子に声をかけた。
電話の受け答えも問題はない。
周りの人も、不思議がる様子もない。
私は問いかける声を出すことができなかった。
席に座るC子が気になるが、先も言った通り経理の仕事は大変なのだ。
ミスをしないために、私は自分の仕事に集中した。
「お先に失礼しま〜す」
帰りを告げる声が聞こえる。
時計を見ると終業時間になっていた。
「お疲れさま」
先の声の人に声をかけると、そこにはC子がいた。
あ…いつの間に。
この不思議な体験を消化できないまま家路についた。
家に帰ると、夕飯の下準備をして、その間にお風呂に入る。
夫か帰って来ると、お風呂に追いやり、その間に夕飯を仕上げる。
夫とは、それなりに喧嘩をしいしい、人並みに楽しく暮らしている。
若い頃の愛情は、ただの情になったけれど、それでも食事は暖かいものを食べて欲しかった。
湯上がりの服装に着替えた夫が食卓に付くと同時に、料理を並べ終える。
我ながらタイミングばっちり。
「いただきます」
さあ、味はどうかな?
そう思ったとき
「ちょっとトイレ」
そう言って夫が席を立った。
いつもこれだ。
こっちは少しでも暖かいものをと思って、料理を準備しているのに。
「先に済ませておきなさいよ」
不快感を隠そうともせず、そういうと、私はお箸をおいた。
一緒に食べようと作ったのだ。
イラッとしながらも待つことにした。
「先に食べてて良かったのに」
そう言いながら戻ってきた夫に、文句を言おうと振り返りって、言葉がでなかった。
そこには知らない男性が立っていた。
そこからはよく覚えていない。
いまは、知らない人の世話で生活している。
たまに友人が来るけれど、その人達もすぐに顔を出さなくなった。
私は夫や友人を探す為に歩く。
どこにいるの?
私は歩く、歩く。
経理の部屋でこういう会話が聞こえる。
「A子さん、認知なんだって…」




