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最終話_残された二人

 マーリアは突っ伏して泣いていた。僕はどう声をかけようか悩んだが、さっぱり案が浮かばない。

 何を悲しんでいるのかよくわからなかった。


 やがて彼女の涙は落ち着き、ゆっくりと地面に座り込む。そして心配そうに見つめる僕にか細い声で語りだした。



「ロムオはね、元々私の式神だったの。

 前の戦いで負けてね、

 消えてなくなったとばかり思ってた……

 まさか勇者召喚で戻ってくるなんて……」



 マーリアは続けた。



「式神はね、先祖代々受け継がれてきたものなの。

 その式神二体が消えちゃった。

 私どんな顔して家に帰ればいいんだろう。

 きっと四天王も首よ……もう終わりだわ……」



 マーリアをどうにか慰めたかったが、やっぱりいざ対面してみるとうまく声が出なかった。



「なんで自分の声で話さないの、私の事バカにしてる?」



 僕は全力で首を横に振る。相変わらず口はパクパクするだけで、声にならない。



「……あなたもしかして式神がいないと話せないの?

 ジュリエッタが連れて行っちゃって、ゴメンね……」



 それは別にいいんだ……と、僕は首を小さく横に振ることしか出来なかった。



「あなたが召喚された本当の勇者なんでしょ?

 元の世界でロムオに出会っちゃったのが災難だったわね」



 一体何のことだかわからない。自然と首をかしげてしまっていた。


 マーリアはロムオについて説明してくれた。ロムオは元々マーリアの式神で、二人同時に召喚して戦闘するのがいつものスタイルだった。

 ジュリエッタとロムオは基本的に仲はいいんだけど、ロムオの女たらしにジュリエッタはよく逆上していたらしい。



「式神にはそれぞれ特質があってね、ジュリエッタは『憤怒』、ロムオは『色欲』なの。

 だからロムオは自分の意思に関係なく人たらしなの。

 あなたもきっと惑わされたのね……」



 ロムオも可哀想と言えば可哀想よねと「ふふっ」と笑った。

 だから僕がロムオに振り回されたのも、ロムオが勇者と間違われたのも、それが原因。

 悪く思わないであげてねと付け加えた。



「お話したら、少し気持ちの整理がついたわ!

 あなた、飛行魔法は使えなさそうね。

 いいわ送ってあげる」



 マーリアは僕をヒョイと肩に担ぎ、自前の羽を羽ばたかせ中に舞った。


 あたりはすっかり真っ暗だ。

 兵に見つかると厄介だからと、王都の門の少し手前で降ろされた。



「あのね、一応礼だけ言っておくわ……さっきは守ってくれて有難う。

 なかなかいいシールド魔法だったわよ!

 もう会うことないと思うけど……じゃあね」



 そう言ってマーリアはくるっと背中を向け、羽を広げて飛翔した。

 一度だけ肩越しに振り返り、笑みを浮かべて――すぐに夜空へと消えていった。



 (僕がちゃんと声が出せたら、もっとお話できたのにな……)



*****



 街に戻るとすぐに安い宿屋に一泊し、次の日王城を訪れた。

 入口では勇者だと認めてもらえず。門前払いを食らいそうになった。

 そこにたまたまルルが通りかかり「あら従者様」と声を掛けられ、中に入ることを許された。



「従者様ならここで十分でしょう」



 ルルは僕を玉座の間ではなく、貴賓室に通した。

 勇者じゃないんだからここでいいでしょ? ってなんだか雑な扱いな感じがする。



「はいどうぞ!

 後は好きにしていいですよ」



 僕の手にはずっしりとした麻の袋が一つ手渡された。

 城下町での一般的な年収に当たる金銀の貨幣が入っているらしい。



 (本当の勇者は僕なのにな……そっか、確か『色欲』でロムオにしか興味ないんだっけ……)



 王城をそっけなく追い出された後、実は自由の身になったことを喜んでいた。

 勇者として引き止められなくて、正直ほっとしていた。

 式神の痴話喧嘩に巻き込まれただけでも正直怖かった。


 魔王討伐なんて絶対行きたくない。



 (その上一年分もお金くれるなんて!

 王族からしたらはした金かもしれないけど、有り難いや!

 魔法の練習とか、いっぱいやってみたいことあるんだよね)



 そんな時、号外のチラシが風に乗って僕の頭にまとわりついた。

 そこには四天王マーリアの似顔絵が大きく描かれている。

 内容は、西の勇者の討伐失敗に続き、南の勇者との戦いで、貴重な式神を全て失ってしまったこと。

 その罪は重く、死刑がくだされたということ。



 (ちょっとまって! 死刑の実行って……今日じゃないか! )



 思わず僕は駆け出してしまった。マーリアと初めて出会ったあの場所に向けて……

 そこに行ってどうなるというのだろう。

 魔王の場所なんてしらないし、こんな事してもなんにもならないことはわかっていた。



 ドンッ



 もうすぐ王都の出口というところで、旅人にぶつかり盛大にコケてしまった。

 あまりの自分の非力さに、悔しくて涙が溢れてくる。

 そして思いが声となって口から出てしまっていた。



「マーリアが死刑なんて、あんまりだー」



 旅人はピクリと止まり、転んだまま起き上がらない僕をしばらく観察した後、くるりと向きを変え近づいてきた。



「あなたもしかしてあのときの……その様子じゃ追い出されたみたいね!」



 聞いたことがある声がする。

 旅人は僕の手から号外をもぎ取り、くくくと笑った。



「ああこれね!

 死罪は体裁のためで、実際は魔王軍を追い出されただけだよ!

 身分を明かさないなら命までは取らないって。」



 旅人は、僕にだけ顔が見えるように、コートのフードを少しだけ上にずらし、すぐに隠した。



「マーリア、生きてたんだ、良かったよう……」



 僕は膝立ちになって、思わずマーリアの腰に抱きついて泣いていた。



「あなた、ちゃんと自分の声で喋れるじゃない!

 それと、恥ずかしいからはなしてよ!」



 マーリアの声に、自分がやっていることに気がついて思わず飛び退いてしまった。

 あとそうだ、言われてみれは人形がなくても自分の口できちんと会話出来ている!



 ――いや、それよりなんでこんなところにマーリアが?



「ごめん、な、なんでこんなところにいるの?」


「うーん、どうやって身分を隠す方法を考えててね。

 冒険者なら身の上を隠しても問題ないし、余計な詮索もご法度でしょ?

 確かこの街に冒険者ギルドがあるはずだから、ちょっと寄ってみようと思って」



 そうなんだ、冒険者ギルドなんてあったんだ。

 確かギルドって、いっつもお酒飲んでる筋骨隆々の怖いおっさんがいっぱいいるところだよね?

 絶対に一人で行来たくない場所だ。



「ところであなたのこと、なんて呼べばいいの?」


「と、トニーでいいよ」



 マーリアは少し考えて、僕に質問する。

 その視線は少し揺らいでいるようだった。



「ねえトニー、

 もしよかったら……だけど

 一緒に冒険者やってみない?

 初めてだから、知り合いがいると助かるな……」


「え、うん、やってみる」



 僕はマーリアの質問に、少しの間もおかずに返事をしていた。

 あまりの即決にマーリアも思わず「えっ!」と声を漏らしていた。



「……ありがと!

 じゃあこれからよろしくね、

 トニー!」



 マーリアは僕の手をとり、優しく引き起こした。




 ―― 終 ――





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