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004_さらば勇者!

「あんたは――」



 ジュリエッタが右手をひと振り。


 バシュッ!


 と水の刃が一直線に飛んでくる。



「話を聞いてくれ、ジュリエッタ!」


「いっつもそうやって──」



 左手からボシュッ! と炎弾。



「きっと誤解だ!」


「女をべらべら口説いて──」



 両手を振り下ろす。


 ドゴォォン!!


 地面がえぐれ、岩石の塊が弾丸のように飛来した。




 いまのところ全部ロムオが片手で弾き返してくれていて、僕は奇跡的に無傷だ。



「な、なあ、一旦落ち着こう?」


「どんだけ女泣かせたら気が済むんだあああ!!」



 ジュリエッタの前には先程までとは違い、巨大な魔法陣が展開され、魔力がはちきれんばかりに溜め込まれているようだ。

 その標的はもちろん僕の方。

 ロムオの取り巻きたちもさすがに焦ってか、「ロムオ様助けてー」と僕の後ろにぎゅうぎゅうで隠れてくる。



「これはいかーん、『特大防御シールド』!」



 バリバリバリバリッ!!



 魔法陣から解き放たれた雷は、とっさに張られた僕を中心としたドーム型のシールドに弾かれた。

 そのタイミングはまさに間一髪。ジュリエッタはフーフーと鼻息を荒らげている。

 僕はガチガチと震えるしか無い。


 ――たまたまシールドが成功したから良かったものの、やっぱり魔法の練習しときたかったよ!



「ちょ、ちょっと待ちなさい……ジュリエッタ……」



 ジュリエッタの後ろから、なぜかヘロヘロ状態のマーリンが杖をつきながら現れた。



「そんな……ポンポン魔法を連発しないでよ……!

 あなたの魔法はね、私の魔力を使ってるって……

 何度言えば……!」


「ごめん、マーリア……

 でもこいつの顔見てたら、

 ついついやっちゃったんだよ!」



 ジュリエッタは人前にもはばからずわんわん泣き出した。



「ジュリエッタ、俺は他の女性になんて手を出しているつもりはまったくないんだ。

 でも、自然と集まってしまうんだ。

 でも信じてくれ。

 俺はジュリエッタだけが生きがいなんだ!」

 (火に油をそそぐんじゃなーい! )



 するとロムオは僕の手からスポッと抜けて、空中を漂いながらジュリエッタの側に近づき、優しく抱きしめた。



「愛してる。ジュリエッタ!」

 (勝手に空飛んで動いてるー! )


「チョームカつく、離してよ、離してったらー」



 ジュリエッタはロムオを振りほどこうとめちゃくちゃに上空を飛び回った。



「離してったら! この、この、このー」


「『防御シールド』、『防御シールド』、『防御シールド』!」



 僕にかかっていたシールドはなくなって、代わりにロムオの全身にシールドが張られていた。

 ジュリエッタから繰り出される超至近距離からの魔法攻撃に対抗するためだ。


 シールドに弾かれた魔法は敵味方関係なく、数の暴力となって地表にふりそそぐ。



「これぐらいなら私でも防げるわ! カイナ、ノエル、私の背中に隠れて!」



 ルルは防御シールドを張って身を守った。

 ロムオの取り巻き達は、上空の痴話喧嘩の行方を心配そうに見守っている。


 それとは対象的にシールドがない僕は、被弾する魔法から逃げ惑うばかり。


 僕も入れてくれたっていいじゃないか!



「ジュリエッタ!

 お願いだからやめて!

 あなたが魔法使っていると、私まったく使えないんだからー!」



 マーリアもまたシールドを張れず、右往左往へと逃げ惑っていた。

 両手で頭を守り、その隙間から見える横顔からは涙ぐんでいるのまで確認できる。

 偶然彼女と横並びになった時、じっとその顔を見ていると、「見るんじゃない」とばかりに顔をぷいとそむけてしまった。


 こんな時に何だけど、その様子があまりにも可愛くて、しばらく目が離せなかった。



「きゃー」



 マーリアの叫びにはっと我に返ると、四方を土塊や火球、氷柱に囲まれて、絶体絶命だ。

 少し前を走っていたマーリアが足を止め、僕はそこにぶつかってしまい、二人して地面に倒れ込んだ。

 地面にへたり込んだ彼女は僕の襟を掴んで



「あんた勇者なんでしょー、なんとかしなさいよー」



 と、その顔はもう涙でぐしょぐしょで隠そうともしない。



 (そんなこと言われたって、ロムオが話ししてたら僕も詠唱できないんだよー、もうだめだー)



 僕は迫りくる魔法の恐怖に耐えきれず、必死に『防御シールド』と心の中で何度もつぶやいていた。



 すると、僕とマーリアを覆い隠すようなシールドが何重にもはられていた。

 魔法が被弾して砕け散ると、再度新たなシールドがはられ、僕らを永久に守ってくれているようだった。


 そして頭の中に思念が流れ込んでくる。



『スキル、二重声帯を取得しました』

 (なんだってー!? )



 どうやらロムオとは別に声を出せるようになったみたいだ。

 多分すごいんだろうけど、今はそんな感傷に浸ってる場合じゃない!

 僕はマーリアに覆いかぶさりながら、必死にシールド魔法を掛け続けた。


 早く終わってくれーと願いながら……


 やがて魔法が地面を削る爆音は止み、ジュリエッタとロムオは静かに地面に降り立った。魔法切れである。



「ジュリエッタ、そんなに心配なら一つ案があるんだ」


「なによ! 何度も裏切られて何も信じられない!」


「俺はね、トニーの世界に行ったり、

 こっちに戻ってきたりして、

 別の世界に行く方法がわかったんだ!」


「だからなに!」


「二人でいろんな世界を巡ってみないか?

 こうすればずっと二人きりだろう?」



 マーリアは「ちょっと待って!」と二人を止めたそうにしているが、ジュリエッタに魔力を使い果たされ、思うように体が動かない。



「そんな、永遠に二人っきりよ?

私なんかでいいの?」


「ああ、君じゃないとだめなんだ」


「ロムオ、嬉しい!」



 二人はぎゅっと抱きしめ合い、やがて目がくらむような真っ白な光に包まれたかと思うと、もうどこにもその影は見当たらなかった。


 マーリアは、消えた二人を目の当たりにし、「私の式神が……」と呆然としていた。



「ロムオ様が四天王を退けましたわ!」

「やっぱロムオはすげーな」

「ロムオ、どっかに行っちゃった……」



 ルル、カイナ、ノエルは、まるで魔王討伐を果たした英雄を見送るかのように、晴れやかな表情でロムオを見送った。

 彼女たちに憧れの人を失った悲壮感は微塵もなく、むしろ彼の旅立ちを心から祝福しているようだった。



「さあ帰りましょ! ノエルちゃんは私につかまっていてね!」

「おう!」

「うん!」



 三人は飛行魔法で王都に戻っていった。



 後には置いてけぼりにされた従者の僕と、何故かがっくりと肩を落としたマーリアだけが残されていた。


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